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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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 なぜか二人に両腕を掴まれ、連行されたのは私の隔離されていた個室だった。

 しかも、セカセカと動くメイド達が複数いるのだが?


「城から手配した。じゃあ、二人とも迎えに来るから、ちゃんと準備しろよ」

「はい、ギル様」

「いや、何これ?」


 ハンナちゃんの元気な返事に被った私の問いは無視され、ギル様は扉を閉め去って行った。

 そして、はりきったメイドによって、私たちはドレスに着替えさせられた。メイクもヘアも完璧だ。

 流石は城専属だと、手際の良さに感嘆していると、スーツに着替えたギル様が現れた。


 いつも下ろしている前髪を上にアップした姿に、私だけでなく、メイドやハンナちゃんまで見惚れる美貌だった。


「そっか……前髪で気配消していたんだ」

「違う」


 即座に否定された。


「では行こう、姫君たち」

「まるで王子様みたいですね、ギル様」

「ダイアナ様、みたいではなく王子様です」


 苦笑したギル様と共に、パーティー会場に到着した。

 ハンナちゃんは、両親を見つけて駆けて行く。


 既に人が溢れ、今年は普段より盛り上がってるみたいだった。

 まあ、この後公開断罪ショーが待ってるもんね。


「ほら胸を張れ。一緒に前に進むぞ」

「勿論!」


 私は一番人だかりの多い、上座を目指して歩いていく。

 このダンスホールは、何度もワルツの練習で使用した事がある。

 一度として、レオン様と踊った事なんかなかった。

 ここに入学する以前から、あなたは私が嫌いだった。

 そして……私も、あなたを愛してはなかった。


 輝かしいシャンデリアの下、保護者たちも集まり、ただ一人に膝をつく。

 そこにいたのは、やっと帰国した国王陛下だった。


 こちらに気づくと、手招きされる。

 私たちは二人揃って陛下の前に向かい、最敬礼をもって挨拶をした。

 目の前のこの人が、この国最高の君主であり決定権を持つ。


「国王陛下におかれましては……」


 私の口上を手で制止して、陛下は感情の読めない真顔で、私に尋ねた。


「婚約破棄したというのは本当か?」


 余計な事は何一つない、シンプルな質問だ。

 私は緊張して、背中にタラリと汗が流れる。


「父上、破棄を申したてたのは兄上からです。彼女に非はありません」

「黙れギル。私はダイアナ・パレスに問うておる」


 騒がしかった周囲が、緊張に口を閉ざす。

 皆の視線が痛い位に集中していた。


「ダイアナ、お前は婚約破棄がしたいのか?」


 遠回しですらなく、逃げ場すらない質問だ。

 返事一つで、全てが決まってしまうだろう。


「答えよ」


 ええい、ままよ。女は度胸だ。


「はい陛下。互いの同意の元でございます」


 私は目を伏せ、膝を折ったまま静かに答えた。

 苦しいほどの空気が、私たちを包む。

 誰も言葉を、発する事などできない。

 いや、一人だけいた。

 ある意味、勇者が!


「ほら父上!互いの同意なのです!」


 途端に緊張が解けた。

 レオン様は、金刺繍の派手な純白のタキシード姿で、同じくピンクのドレスのソーニャ様と現れた。

 すでに勝利を確信しているのだろう。その顔に浮かぶのは、浮かれた笑みだけだ。

 口さえ閉じていれば、理想のキラキラ王子に見えるのに、残念。

 演技のかかった仕草で、レオン様は父親である陛下に礼をする。


「父上不在のうちに、破棄を決定した事については謝罪致します。ですがダイアナには大罪がございます」

「ほう……」

「その罪ゆえに、私の正義感が断罪を先走った事をお許しください」


 キラキラと胸に手を当て、苦悩の表情を浮かべた息子を、陛下は相手にしなかった。

 慣れてるんだろうなぁ。


「どちらから弁明する?」


 陛下の言葉に私は、おやっ?と心で首をひねる。

 いや、どちらの弁明って、裁かれるのは私だけだから、弁明って私側だけだよね?あれ?

 片方のみではなく互いの意見を聞く形にした方が、ここにいる皆も納得しやすいけどさ。


「では、私から」


 今日のレオン様は輝いてるな。ほら、引っ付いてるソーニャちゃんまで、頬を赤らめている。

 断罪する気満々で、レオン様は熱弁をふるう。

 その内容は、凄いものだった。

 猫を虎に見せるなんて可愛いものじゃない。

 存在しない壮大な物語が、レオン様によって展開されていく。


 ちなみに私は、断罪確定だと覚悟は決めている。

 だって、一応王族相手だよ?かなう訳ないし。

 むしろいい加減、この馬鹿げた劇を終わらせて欲しい位。


「つまり、皆の前でお前に恥をかかせたのが罪だと」

「はい父上。本来、妻となるからには夫を支えるべきであり、夫の上に立つなど言語道断」

「それだけか?ところで、お前が連れている娘は誰だ」


 前に出ようとしたソーニャさんに、陛下はまたもや手で制止した。


「よい、下がれ。私はレオンに聞いている」

「はっ、私の親友であり邪な関係ではございません」


 きっぱりと言い切ったレオン様と同時に、周囲から大きなため息が漏れた。

 そういえばギル様は息してる?またもや気配がないのだが、ああ横にいた。


「レオン、お前の言葉だけでは大罪に当たらない」


 陛下のキッパリとした発言に、皆のどよめきが広がった。

 だが間髪いれず、これこそが本題だとばかりに、レオン様は私を指さした。

 いや、私たちを。


「父上、一番の罪は御覧の通りです!我が弟ギルと婚約者の浮気です!」


 サッと私を庇うように、ギル様が前に立つ。

 ちょっと、前が見えない。

 周囲がざわつく中で、陛下はこちらに視線を向ける。


「間違いないか?ギル」

「はい。俺……いや、私ギル・フォン・アスタロトは、嘘偽りなく彼女を愛しています」

「ははっ!ほら、聞きましたか?父上、こいつは大人しい顔をして、兄の婚約者を寝取ったんです」


 最高潮のレオン様が、飛び跳ねるように、周囲にアピールする。


「他の男と浮気する女と、兄から寝取る弟。二人は大罪であり恥です父上!」

「兄上……ご理解頂けないと思いますが、俺がダイアナと結ばれたのは、兄上が婚約破棄した後です」

「いくらでも、言い訳はできるな」

「それならば、兄上は女性の親友とやらと、一晩どころか、常に夜ごと過ごされていますが?」

「それこそ邪推だ。夜を通し、国を憂いて討論している」


 嘘だという空気が生ぬるく広がるが、レオン様はまったく空気など読まない。

 むしろ無敵の人は、こういう場面では強いのだと私は知った。


「お前が俺に楯突くとは……いい覚悟だギル」

「もうあなたの影に隠れるのは、辞めたのです」


 ギル様が片手でパチンと指を鳴らすと、どこからか控えていた騎士が小箱を持って現れた。

 恭しく、陛下に差し出しギル様は頭を下げる。


「どうか、これをご覧ください。これが真実です」

「……お前の報告だけでなく、これを見よと?」

「はい父上」

「国の存亡に関わる選択を、決めねばならん。お前に、その覚悟はあるのだな」


 国の存亡と言う陛下の言葉に、周囲は凍りつく。

 だが、ギル様と陛下の会話に、レオン様は意気揚々と横槍を入れた。


「ご心配なさるな父上!ギルを処刑しても、私がちゃんと国を守ります」


 ドンと胸を叩くレオン様と、それを見て素敵と惚気るソーニャさんたちには悪いが、陛下たちは完全無視だ。

 キラキラとした能天気なレオン様の空気などでは、ギル様たちの真剣な場は壊れない。


「ギルよ、では見せて貰おう」


 箱を開けた瞬間、私はアッと口元を手で覆う。

 中に入っていたのは、私のノートや貰った感謝状やメッセージ。

 学園長の手帳や二年生のレポート。


 その一つを陛下は手に取り、パラパラと速読する。

 蚊帳の外になったレオン様が、わざわざ私に近づいて吐き捨てた。


「ほら、くれてやる。好きなんだろ?」


 チャリンと足元に転がったのは、一万ディナール金貨だった。

 転がったコインは、私の足元で止まる。


「這いつくばって拾え、ダイアナ」

「駄目ですギル様!」


 私は咄嗟に、レオン様に殴りかかろうとしたギル様に抱きつき止めた。

 これ以上ない程の怒りで、ギル様は必死で耐えている。


「落ち着いてギル様、みんなが見ています」

「止めるなダイアナ!兄上、あなたはどこまで腐っているんだ!」

「腐っているのは、寝取ったお前と、学園内で金儲けをしたその女だ!」


 怖いわと、レオン様に抱きつくソーニャさんの目には、あざけりが浮かぶ。


「私はいつも、ダイアナ様やギル様に虐められていました。この野蛮さを見たら、誰が加害者か一目瞭然」


 耐えるギル様が悔しくて、つい反論してしまう。


「校舎が一階のソーニャさんの為に、わざわざ三階の私たちが降りて虐めに行ったのですか?」


 私の冷静な指摘に、ソーニャさんは顔を赤くして激怒した。


「そ、そうよ!暇があれば、無関係の教室まできて、いきなり水を撒いたり」


 すると、どこからともなく声が飛んだ。


「それは、実験で危険な毒粉が残留していたら危険だからと、薄めてくれていたのよ!」


 途端に黙っていた周りが、騒がしくなっていく。

 とりあえず、気になるから足元の金貨は拾っておこう。

 生徒たちの声は続く。


「ソーニャ様こそ、違うクラスの癖に、最後の一か月は三階に居座ってたじゃない!」

「それはレオン様が……」

「清掃の時も結局あなただけ逃げて、ダイアナ様が綺麗にしてくれたのよ。それだけでなく……」


 次から次に、色々と暴露が出てる。余程鬱憤が溜まっていたんだろう。

 けれど、それも長くは続かない。


「黙れお前たち!未来の王妃に、よくも言ってくれたな!」


 途端に静まり返る中で、陛下だけは例の資料を丹念に確認していた。


 華やかな会場なのに全員がここを中心に集まり、保護者たちまで見守っている。

 私は慌てた。

 皆に被害が行く前に、激高するレオン様を落ち着かせなくてはいけない。


「今、私のソーニャに物申した者は誰だ!」

「落ち着いて下さい、レオン様!」

「ダイアナ、お前……また邪魔をするのか!」

「兄上、皆の言葉に耳を傾ける気はないのですか?」


 ギル様の言葉なんか無視をして、ワナワナと震えるレオン様は、やはり馬鹿だ。


「うるさい!指図をするな!特にお前だ、ダイアナ!」


 私を指さして、全ての怒りを私にぶつけて来た。

 いつもの事だ。これでレオン様の意識は、こちらに集中する。


「昔からお前は生意気だ。あげく私を敬う気持ちもなければ、女としても私を拒絶する」


 そりゃあ無理強いされたら、拒絶するけど?

 あえてガス抜きのために、ジッと聞くのが今までの私の役目。


「学園に入学してからのお前は、平民を虐め風紀を乱した」

「そうです!そうなんです!頑張ったんです!」

「なんで喜ぶんだ!気持ち悪い!」


 すみません、つい嬉しくて。

 皮肉なことに、私をちゃんと悪役令嬢として認めてくれていたのは、レオン様だけかも知れない。


「父上、もういいですよね?今見た通り、この女は生徒たちを扇動して王家に楯突きました」


 どうも勝手にレオン様の脳内で、またもや妄想物語が進んで行く。

 いちいち突っ込むのも面倒なので、私はまた貝のように黙るだけ。


 パタンとノートを閉じた陛下が、眉間をひたすら揉んでいた。

 流石は父子だ。ギル様の困った時と良く似てる。


「ギル、この告発が真実だと誓えるか?」

「はい父上。覚悟はできています、ご決断を」


 二人の世界に、レオン様は必死に食らいつく。


「黙れ!ギル控えろ!父上、私に任せて下さい」


 陛下はくるりと、私たちを見渡した。

 パーティーのはずなのに、誰もワルツも踊れなければ、楽しい会話も聞こえない。

 せっかくの思い出を壊して申し訳ない。恨むなら、次期国王を恨んでね?


 このままグダグダになるのかと思われたが、私の父が痺れて動く。

 うん、いつの間にか参加してた。たまに目が合うと、小さく手を振ってた。

 威風堂々と父は、陛下の前に進み出た。


「失礼ながら陛下、そろそろ我が娘と当家の断罪をご判断頂きたいのですが」

「久しぶりだなパレス侯爵。色々と迷惑をかけた」

「……いえ、我が娘の役不足、大変申し訳なく思います」

「いや、婚約という名の息子の鎖を握らせたのは、こちら側だ」


 どうやら私の婚約には、色々とあったみたいだが、鎖?はい?

 もしかして、初めから飼育係か何かだったの?


 静かに陛下は、私の方に歩いてくる。

 私は浮いていた腰を再び下ろし、大人しく俯いた。


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