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時間はあっという間に過ぎていく。
レオン様との遭遇率は上がっていたが、いつも腕にソーニャさんを伴って嫌味を言って去って行くだけ。
嫌味の内容は、私とギル様の仲を揶揄う内容が多いのだが、逆に親友と腕を組んでいるレオン様の方が目立つ始末。
「兄上の馬鹿に、磨きがかかっている」
ハンナちゃんから預かったというパン袋を持って、ギル様は嘆く。
私はすかさず袋を取り上げて、中を確認して満面の笑みだ。
「君は、幸せそうで良かったよ」
「見て下さい!あと少しで会えますねって、ハンナちゃんのメッセージカード!」
やったーと私はくるくると回る。
可愛い、やっぱりいい子!カードは家宝にしよう!
「ところで、あの部屋の隅にあふれる荷物は?」
「あ、何かみんなが余り物だから、私に処分してという事で」
「……きちんと梱包もリボンもついて、どう見ても贈り物だな」
「レオン様に難癖つけられないように、みんな色々と知恵を出してくれて」
しんみりと私は、みんなの優しい心に感謝する。
「あれだけ私は、悪役として皆に迷惑をかけたのに……」
「まさか、本気で理解してないのか?」
なぜか愕然とするギル様に、パンを見せた。
「どれがいいですか?」
「む……これを頂こう」
向かい合って、パクリとハンナちゃん家のパンを食べる。
今日は揚げパン祭りで、中身が色々入っている。
「それ何ですか?」
「うっ、甘い。餡が入っている」
「甘いのは駄目ですもんね。一口食べましたけど、こっちは枝豆クリームで、甘さ控えめなんで交換しましょう」
私はギル様の食べかけと交換して、餡パンにかぶりつく。
「美味しい!」
なぜかギル様は、目元を赤くしながら同意した。
「そうだな」
あと数日、そうなれば国王陛下が帰国される。
そしたら私は、どうなるのだろう?
陛下は賢王として有名だけど、だったらどうしてレオン様みたいなのが育つのだろう?
ましてや、我が家に突然押し付けるように婚約を決めたのも陛下だ。
なので私は、どうも陛下を信頼しきれる気持ちにはなれなかった。
「そういえば、ハンナ嬢と話をしていてわかったのだが」
「ズルイ!私も話がしたい!」
「まあいいから聞け。彼女は実家の店を継ぐために、卒業後はパンの修行で留学するらしい」
「素敵!でも、この国で学ぶ事は出来なかったのかしら?」
「俺も、修行をするなら王室お抱えの店に声をかけてやると言ったが、断られてな」
次のパンに手を出しながら、ハンナちゃんは頑張り屋さんだと感心する。
ああ、ついて行きたい。どこに行くんだろう?
と、そこで私は思いつく。
あのですねギル様、少し耳を貸してください。
コソコソと私は、ギル様の顔に近づき囁いた。
「なるほど、それ位なら俺の名で新設出来ると思う。新しい平民生徒への、就職補助金の新設でいいな?」
せっかくこの学園を卒業しても、その後に繋げなければ意味はない。
コネも財力もない平民特待生だからこそ、その後のバックアップが必須なのだ。
これで少しは、ハンナちゃんへの償いになればいいけど。
「ぜひ、ハンナちゃんにも提案して下さい。あくまで私の事は言わないで下さいね……って、今日は熱でもあるんですか?」
「何がだ?」
「耳が赤いです、あと顔も」
「そ……それは、顔が近すぎ……な、なんでもない!」
立ち上がって、ギル様はいつもより早めに昼休憩を切り上げた。
静かになった部屋で、私はボヤく。
「もう少し、一緒にいてくれてもいいのに。つまんないの」
さて午後の部の私は、いそいそと差し入れの箱を開けて分別したり、実家や隠れ家に先に配送してもらったりと、色々と忙しい。
それでも、きちんと自らの罰の為に、訪れた生徒たちの対応をした。
「最低です」
「そうね、私は最低だったわ」
「無責任だし、いい加減だし、何よりこれ程に意地が悪いとは思いませんでした」
「猛省するわ。確かに、私は……」
「レオン王子です!今日なんか、あのソーニャ・ウェルダム伯爵令嬢とやらと、授業をサボってショッピングですのよ」
「あら、学園は平和になって良いわね」
ニコニコと私が話を聞き終えると、彼女は豚ちゃんを見つめた。
「入り口が、テープで塞がれていますわ」
「ごめんなさいね。金銭のやり取りは禁止なの」
「なら、どうして豚ちゃんが?」
「なんだか、いないと落ち着かなくなって」
てへ。
女生徒は、立ち上がるなり私に封筒を差し出した。
「でしたらダイアナ様。これの処分をお願いします」
立ち去った彼女を見送り、封筒を開ける。
「あーやっぱりかぁ」
そこにはきちんと、10ディナールが入っていた。
私は豚ちゃんをひっくり返し、お腹の栓を抜いてチャリンと投入してあげた。
夕方の部を終えて、私はギル様の迎えを待つ。
一人で出歩くなと厳命されているので、仕方なくだ。
それにしても、ハンナちゃん欠乏症で死にそう。
「愛でたい……というより、お手洗いに行きたい」
私は外の騎士に声をかけて、少し離れたお手洗いに向かう。
いつも一人の騎士が同行してくれるが、今日も私が用を済ませるまで外で待っていてくれるはずだった。
けれど、私は化粧室を出る前に気づく。
外で待っていた騎士とは違う、別の騎士に交代していた。
「今まで見た事ない顔ですけれど、先程の騎士さんは?」
「体調を悪くしまして、私が交代となりました」
「……そう」
「では、馬車に向かうようにとの事です」
「ギル様は?」
「まずは、お一人でと」
「へぇ」
少し楽しくなってきた私は、とりあえず荷物を取りに戻ろうとしたが、それも阻止された。
促されるままについて行くが、いつもの正面玄関ではなく、裏門を目指すので笑ってしまった。
「もっと上手にしなきゃダメよ」
「どうされましたか?あと少しですので、申し訳ございません」
「いえいえ、あなたも大変ね」
ついクスクスと笑ってしまう。
裏門に近づくほどに人の気配がなくなっていく。
とりあえず馬車を見てから考えようと思ったが、実際に鉄門の隙間から見えた馬車を見て笑ってしまった。
「ちょっと、ちゃんと偽装してよ!あはははっ!」
流石に家紋を隠してはいるが、車体の枠を囲む唐草模様は、各家の特徴が刻まれている。
せめてまったく違う馬車を用意すればいいものを、バレバレよソーニャさん。
「では、お乗りになって」
「ひぃひぃ……まって、ぷぷっ!流石に他家の馬車に乗れないわ」
「いえ、あれは送迎用の馬車でして……確かにトラブルがあり急遽用意したものですが」
「それよりあなた、腰の剣が騎士団の配給品と違うんだけど?」
「は?」
騎士が俯いたその隙に、私はスカートの裾を大きくつまみ、足を振り上げた。
「うわっ!」
「はい、御免あそばせ」
私の足先が、剣鞘にヒットする。
見事にあちらが驚いて、後ろに倒れた隙に、手を伸ばして剣をスルリと奪い取った。
「おっ、お前!」
「我がパルス家は、先祖代々武人の家系!」
オモチャの代わりに、剣を持たされるような家なんだぞっと。
とりあえず学園内での殺傷沙汰はごめんなので、なんとか相手を気絶させたいのだが……。
「とか余裕ぶってたら、馬車から降りて来たわ!いやん!」
鉄の裏門を開けて、こちらに向かってくる数人の騎士は、どうも友好的ではなさそうだ。
流石に逃げるかと、私は元来た道を駆けだした。
「待て!」
追いかけてくる靴音は複数。ざっと見積もって四名。
掴まるのは嫌だな……と、裏庭を走る。
国一番の学園だけあって、敷地も広いのよコレが。
靴も令嬢用のパンプスなので、全力を出しきれず、大声をはりあげるかと迷っていたその時。
「ダイアナ!」
「あ、ギル様!お昼ぶりでーす!」
助かった?でも、ギル様が危険かも?
仕方ないなと、私はクルリと停止して、自らギル様を守ろうと剣を構えた。
「ギル様、来て頂いて申し訳ないですが、危険ですので護衛をすぐに呼んで下さい。それ位なら、時間稼ぎを……って、ちょっと!」
スッと私の手から剣を奪い取ったギル様は、無言で相手にかかっていく。
ギル様の剣技を知らない私は焦る。
私のせいでケガなどさせたら、それこそ王家から我が家は追放確定だ。
素手で飛び込むのは危険だ。どうしよう……そう迷ったのは杞憂だった。
一分とかからずに、ギル様は剣で全員を倒してしまった。
「うわぁ、強い」
「惚れたか?」
「冗談を言う余裕も、あるんですね」
パチパチと拍手したのに、なぜか不満そうに鼻先をカリカリと掻いた後、私は徹底的に説教された。
護衛の騎士たちが駆けつけて、刺客たちを捕縛して後処理してくれている間も、ガミガミとうるさい。
「いやぁ、ギル様強いですね。見事に相手の利き手のみを、狙えるなんて」
「話を逸らすな。君の事だ、ワザとついて行ったあげく、相手の剣を奪い取るなど」
あーまたループしてる。これ、もしかして作品違って「三回ループ悪役令嬢」系なんじゃ……。
「聞いてるのか?」
「はい、すみませんでした」
「守るって言ったはずだ」
真剣なギル様に、茶化す事すら出来ず神妙な顔で私は見つめた。
本気で私を心配してくれていたのがわかり、流石に胸が痛む。
「ごめんなさい」
「……わかったらいい」
プイッと顔をそむけたギル様は、剣を騎士に引き渡す。
色々と的確に指示をする姿は、あの地味王子とは思えない。
「行くぞ」
そう言って、ギル王子はいきなり私の手を握る。
「逃走防止だ」
「逃げませんよ」
ギル王子だけでなく、私まで耳が赤くなる。
握られた大きな手を意識してしまい、ドキドキしながら正門から馬車に乗った。
その日から、隠れ家の警備の数も増え、学園の騎士の数も増える事になる。
「あの、ダイアナ様。外の警備が凄い事に……」
「気にしないで、銅像だと思ってくれればいいらしいわ」
私を守るために待機してくれている彼らに、差し入れのハンナちゃんクッキーを分けてあげた。
最初は遠慮されたが、沢山貰ったので気前良く分けてあげると、喜んでくれた。
「ほう、下町の東にあるパン屋ですか?ぜひ伺わせて頂きましょう」
ちゃんと宣伝もしてあげたからね?騎士お抱えパン屋さんになるかも?
この頃になると時間つぶしに、騎士たちと世間話すら弾むようになっていた。
「他の生徒たちとの交流も、明日で終わりですね」
「ええ、騎士の皆さんにもお世話になりました。明後日には卒業式ですから」
「その後のパーティーも、ちゃんと護衛致しますので、どうぞお楽しみ下さい」
「いえ、私は式にもパーティーにも参加できないわ」
コホンと咳をして、私は彼らにきちんと伝えた。
「だって、私は一応罪人として、こに隔離されているのよ?」
「そうでしたな、あははっ!いや失礼、きっと参加できますよ」
なぜか笑われた。解せぬ。




