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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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6/12

 時間はあっという間に過ぎていく。


 レオン様との遭遇率は上がっていたが、いつも腕にソーニャさんを伴って嫌味を言って去って行くだけ。

 嫌味の内容は、私とギル様の仲を揶揄う内容が多いのだが、逆に親友と腕を組んでいるレオン様の方が目立つ始末。


「兄上の馬鹿に、磨きがかかっている」


 ハンナちゃんから預かったというパン袋を持って、ギル様は嘆く。

 私はすかさず袋を取り上げて、中を確認して満面の笑みだ。


「君は、幸せそうで良かったよ」

「見て下さい!あと少しで会えますねって、ハンナちゃんのメッセージカード!」


 やったーと私はくるくると回る。

 可愛い、やっぱりいい子!カードは家宝にしよう!


「ところで、あの部屋の隅にあふれる荷物は?」

「あ、何かみんなが余り物だから、私に処分してという事で」

「……きちんと梱包もリボンもついて、どう見ても贈り物だな」

「レオン様に難癖つけられないように、みんな色々と知恵を出してくれて」


 しんみりと私は、みんなの優しい心に感謝する。


「あれだけ私は、悪役として皆に迷惑をかけたのに……」

「まさか、本気で理解してないのか?」


 なぜか愕然とするギル様に、パンを見せた。


「どれがいいですか?」

「む……これを頂こう」


 向かい合って、パクリとハンナちゃん家のパンを食べる。

 今日は揚げパン祭りで、中身が色々入っている。


「それ何ですか?」

「うっ、甘い。餡が入っている」

「甘いのは駄目ですもんね。一口食べましたけど、こっちは枝豆クリームで、甘さ控えめなんで交換しましょう」


 私はギル様の食べかけと交換して、餡パンにかぶりつく。


「美味しい!」


 なぜかギル様は、目元を赤くしながら同意した。


「そうだな」


 あと数日、そうなれば国王陛下が帰国される。

 そしたら私は、どうなるのだろう?


 陛下は賢王として有名だけど、だったらどうしてレオン様みたいなのが育つのだろう?

 ましてや、我が家に突然押し付けるように婚約を決めたのも陛下だ。

 なので私は、どうも陛下を信頼しきれる気持ちにはなれなかった。


「そういえば、ハンナ嬢と話をしていてわかったのだが」

「ズルイ!私も話がしたい!」

「まあいいから聞け。彼女は実家の店を継ぐために、卒業後はパンの修行で留学するらしい」

「素敵!でも、この国で学ぶ事は出来なかったのかしら?」

「俺も、修行をするなら王室お抱えの店に声をかけてやると言ったが、断られてな」


 次のパンに手を出しながら、ハンナちゃんは頑張り屋さんだと感心する。

 ああ、ついて行きたい。どこに行くんだろう?

 と、そこで私は思いつく。

 あのですねギル様、少し耳を貸してください。

 コソコソと私は、ギル様の顔に近づき囁いた。


「なるほど、それ位なら俺の名で新設出来ると思う。新しい平民生徒への、就職補助金の新設でいいな?」


 せっかくこの学園を卒業しても、その後に繋げなければ意味はない。

 コネも財力もない平民特待生だからこそ、その後のバックアップが必須なのだ。

 これで少しは、ハンナちゃんへの償いになればいいけど。


「ぜひ、ハンナちゃんにも提案して下さい。あくまで私の事は言わないで下さいね……って、今日は熱でもあるんですか?」

「何がだ?」

「耳が赤いです、あと顔も」

「そ……それは、顔が近すぎ……な、なんでもない!」


 立ち上がって、ギル様はいつもより早めに昼休憩を切り上げた。

 静かになった部屋で、私はボヤく。


「もう少し、一緒にいてくれてもいいのに。つまんないの」


 さて午後の部の私は、いそいそと差し入れの箱を開けて分別したり、実家や隠れ家に先に配送してもらったりと、色々と忙しい。

 それでも、きちんと自らの罰の為に、訪れた生徒たちの対応をした。


「最低です」

「そうね、私は最低だったわ」

「無責任だし、いい加減だし、何よりこれ程に意地が悪いとは思いませんでした」

「猛省するわ。確かに、私は……」

「レオン王子です!今日なんか、あのソーニャ・ウェルダム伯爵令嬢とやらと、授業をサボってショッピングですのよ」

「あら、学園は平和になって良いわね」


 ニコニコと私が話を聞き終えると、彼女は豚ちゃんを見つめた。


「入り口が、テープで塞がれていますわ」

「ごめんなさいね。金銭のやり取りは禁止なの」

「なら、どうして豚ちゃんが?」

「なんだか、いないと落ち着かなくなって」


 てへ。

 女生徒は、立ち上がるなり私に封筒を差し出した。


「でしたらダイアナ様。これの処分をお願いします」


 立ち去った彼女を見送り、封筒を開ける。


「あーやっぱりかぁ」


 そこにはきちんと、10ディナールが入っていた。

 私は豚ちゃんをひっくり返し、お腹の栓を抜いてチャリンと投入してあげた。


 夕方の部を終えて、私はギル様の迎えを待つ。

 一人で出歩くなと厳命されているので、仕方なくだ。

 それにしても、ハンナちゃん欠乏症で死にそう。


「愛でたい……というより、お手洗いに行きたい」


 私は外の騎士に声をかけて、少し離れたお手洗いに向かう。

 いつも一人の騎士が同行してくれるが、今日も私が用を済ませるまで外で待っていてくれるはずだった。

 けれど、私は化粧室を出る前に気づく。

 外で待っていた騎士とは違う、別の騎士に交代していた。


「今まで見た事ない顔ですけれど、先程の騎士さんは?」

「体調を悪くしまして、私が交代となりました」

「……そう」

「では、馬車に向かうようにとの事です」

「ギル様は?」

「まずは、お一人でと」

「へぇ」


 少し楽しくなってきた私は、とりあえず荷物を取りに戻ろうとしたが、それも阻止された。

 促されるままについて行くが、いつもの正面玄関ではなく、裏門を目指すので笑ってしまった。


「もっと上手にしなきゃダメよ」

「どうされましたか?あと少しですので、申し訳ございません」

「いえいえ、あなたも大変ね」


 ついクスクスと笑ってしまう。

 裏門に近づくほどに人の気配がなくなっていく。

 とりあえず馬車を見てから考えようと思ったが、実際に鉄門の隙間から見えた馬車を見て笑ってしまった。


「ちょっと、ちゃんと偽装してよ!あはははっ!」


 流石に家紋を隠してはいるが、車体の枠を囲む唐草模様は、各家の特徴が刻まれている。

 せめてまったく違う馬車を用意すればいいものを、バレバレよソーニャさん。


「では、お乗りになって」

「ひぃひぃ……まって、ぷぷっ!流石に他家の馬車に乗れないわ」

「いえ、あれは送迎用の馬車でして……確かにトラブルがあり急遽用意したものですが」

「それよりあなた、腰の剣が騎士団の配給品と違うんだけど?」

「は?」


 騎士が俯いたその隙に、私はスカートの裾を大きくつまみ、足を振り上げた。


「うわっ!」

「はい、御免あそばせ」


 私の足先が、剣鞘にヒットする。

 見事にあちらが驚いて、後ろに倒れた隙に、手を伸ばして剣をスルリと奪い取った。


「おっ、お前!」

「我がパルス家は、先祖代々武人の家系!」


 オモチャの代わりに、剣を持たされるような家なんだぞっと。

 とりあえず学園内での殺傷沙汰はごめんなので、なんとか相手を気絶させたいのだが……。


「とか余裕ぶってたら、馬車から降りて来たわ!いやん!」


 鉄の裏門を開けて、こちらに向かってくる数人の騎士は、どうも友好的ではなさそうだ。

 流石に逃げるかと、私は元来た道を駆けだした。


「待て!」


 追いかけてくる靴音は複数。ざっと見積もって四名。

 掴まるのは嫌だな……と、裏庭を走る。

 国一番の学園だけあって、敷地も広いのよコレが。

 靴も令嬢用のパンプスなので、全力を出しきれず、大声をはりあげるかと迷っていたその時。


「ダイアナ!」

「あ、ギル様!お昼ぶりでーす!」


 助かった?でも、ギル様が危険かも?

 仕方ないなと、私はクルリと停止して、自らギル様を守ろうと剣を構えた。


「ギル様、来て頂いて申し訳ないですが、危険ですので護衛をすぐに呼んで下さい。それ位なら、時間稼ぎを……って、ちょっと!」


 スッと私の手から剣を奪い取ったギル様は、無言で相手にかかっていく。

 ギル様の剣技を知らない私は焦る。

 私のせいでケガなどさせたら、それこそ王家から我が家は追放確定だ。


 素手で飛び込むのは危険だ。どうしよう……そう迷ったのは杞憂だった。

 一分とかからずに、ギル様は剣で全員を倒してしまった。


「うわぁ、強い」

「惚れたか?」

「冗談を言う余裕も、あるんですね」


 パチパチと拍手したのに、なぜか不満そうに鼻先をカリカリと掻いた後、私は徹底的に説教された。

 護衛の騎士たちが駆けつけて、刺客たちを捕縛して後処理してくれている間も、ガミガミとうるさい。


「いやぁ、ギル様強いですね。見事に相手の利き手のみを、狙えるなんて」

「話を逸らすな。君の事だ、ワザとついて行ったあげく、相手の剣を奪い取るなど」


 あーまたループしてる。これ、もしかして作品違って「三回ループ悪役令嬢」系なんじゃ……。


「聞いてるのか?」

「はい、すみませんでした」

「守るって言ったはずだ」


 真剣なギル様に、茶化す事すら出来ず神妙な顔で私は見つめた。

 本気で私を心配してくれていたのがわかり、流石に胸が痛む。


「ごめんなさい」

「……わかったらいい」


 プイッと顔をそむけたギル様は、剣を騎士に引き渡す。

 色々と的確に指示をする姿は、あの地味王子とは思えない。


「行くぞ」


 そう言って、ギル王子はいきなり私の手を握る。


「逃走防止だ」

「逃げませんよ」


 ギル王子だけでなく、私まで耳が赤くなる。

 握られた大きな手を意識してしまい、ドキドキしながら正門から馬車に乗った。


 その日から、隠れ家の警備の数も増え、学園の騎士の数も増える事になる。


「あの、ダイアナ様。外の警備が凄い事に……」

「気にしないで、銅像だと思ってくれればいいらしいわ」


 私を守るために待機してくれている彼らに、差し入れのハンナちゃんクッキーを分けてあげた。

 最初は遠慮されたが、沢山貰ったので気前良く分けてあげると、喜んでくれた。


「ほう、下町の東にあるパン屋ですか?ぜひ伺わせて頂きましょう」


 ちゃんと宣伝もしてあげたからね?騎士お抱えパン屋さんになるかも?

 この頃になると時間つぶしに、騎士たちと世間話すら弾むようになっていた。


「他の生徒たちとの交流も、明日で終わりですね」

「ええ、騎士の皆さんにもお世話になりました。明後日には卒業式ですから」

「その後のパーティーも、ちゃんと護衛致しますので、どうぞお楽しみ下さい」

「いえ、私は式にもパーティーにも参加できないわ」


 コホンと咳をして、私は彼らにきちんと伝えた。


「だって、私は一応罪人として、こに隔離されているのよ?」

「そうでしたな、あははっ!いや失礼、きっと参加できますよ」


 なぜか笑われた。解せぬ。


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