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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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4/12

「何してのよ馬鹿王子ーっ!」


 慌てて部屋を飛び出して、窓下の裏庭に向かおうとしたが、騎士に止められた。

 だが、興奮した私は必死に先に進もうとする。


「止めないで!」

「落ち着いて下さい!」


 私たちが押し問答していると、フラリと長身の赤毛が現れた。


「どうした?」

「ハンナちゃんが!馬鹿王子にぶたれたんです!」


 察したギル様は、小走りに窓を見て頷いた。


「わかった。君はともかく馬車で待て」

「いえ、私を行かせてください!」


 コロスコロスコロス……絶対に、あの馬鹿を仕留めてやる!

 暗黒に堕ちた私を察したギル様が、私の頭をポンポンと叩く。


「ちゃんと保護するから、任せろ」

「任せて下さい!私は父から、痛めつけ方は会得しています」

「君は一応令嬢なのだから、大人しくしててくれ」

「それを言ったら、ギル様こそ王子と対立してはいけません!」


 私の言葉にギル様が硬直する。だけど、私は続けた。


「私を利用して、レオン様を失脚させるんですよね?でも、これ以上の肩入れは危険です。ましてや平民のハンナちゃんを庇うのは、やり過ぎです。確実に、レオン様に攻撃されます」

「……だが、ダイアナを行かせるわけには……」

「ハンナちゃんは、私の推しです。私が助けないと!」

「だから、どうしてそこまで肩入れするんだ!」

「彼女だけが、平民だからです!」


 ハッとした顔で、ギル王子は私を見つめた。

 なので私は胸を張る。


「推しへの愛は、至高にして最高!」

「よし、馬車で待っていろ」


 私はズルズルと騎士に連行され、一人馬車で待機させられた。

 馬車の扉には、複数の騎士がいる。

 流石に彼らを倒す自信もなく、まだかまだかと私は気が気でない。


 そしてやっとギル様が現れた。

 しかも念願の同行者を連れて。


「ハンナちゃん!」

「ダ……ダイアナ様!」


 私は、馬車に乗り込んだハンナちゃんに飛びつく。

 ああ、柔らかい!いい匂い!フワッとバニラの匂いはパン屋さんの娘だから?

 ああ幸せ!ちょっと小柄で、緑の目がウルウルと滲んで……ん?

 そう、白いモチモチスベスベのハンナちゃんの左頬が赤い。

 これは……。


「レオン・フォン・アスタロトめぇええええ!」

「これ以上は、俺でも不敬と言わざる得ないからやめろ」


 ため息をついたのは、私の向かいに疲れた様子で座りこんだギル様だった。

 彼は私が憤る前に、制止するように畳みかけた。


「ハンナ嬢は、兄上とは先程破局した。よって一応警備はつけるが、今後は兄上も手出ししないだろう」

「なんて事!シナリオはどうなるの!」


 いや、落ち着け私。何かがおかしい。

 いや、元々おかしい。あの講堂の事件から大きく狂ってる。


「兄上は、あくまで君から彼女を庇う自分に酔っておられただけだ。そして、君が隔離された今、彼女を庇う必要もない」

「くっ……私のせいで」

「それに、そもそも彼女は、兄上に恋心などないみたいだが?」

「そんな!そうなのハンナちゃん?」


 え?ヒロインだよね?王子と結ばれてハッピーエンドだよね?

 だけど、私の腕の中のハンナちゃんは、小さくコクリと頷いた。

 私の頭がガツンと殴られたように、ショックで停止した。


「嘘……え?」

「ずっと君が、彼女と兄上を恋仲にさせようと画策していたのは知ってる」

「し、知ってる?」

「俺は兄上の影だからな。学園内で兄上を見守るのも役目だが、そうするとダイアナ、君の動きも良くわかる」

「影のわりに薄いから、わかんなかった」

「薄いは余計だ」


 それよりも、私はなんて事をしてしまったんだろう。

 もしかしてこの世界は、あの小説の世界ではない?

 いや、どこかでズレて別物になってしまったのか?


「私、ダイアナ様を見てたんです」

「ハンナちゃん……」

「ずっと憧れていて、いつも私を気にかけて頂いて……」


 ホロホロと涙を流す。


「他のみんなと違って、私だけ汚れたシャツで登校してしまった時は、水をかけられて」

「そうよ、私はヒドイ事をしたの」


 だってい悪役令嬢だもの。ヒロインを虐げて、シナリオを進めるのが役目。

 それが、ハンナちゃんの幸せの道だと信じて。


「そして、絹のシャツを私に着せてくれて、中古だからと下さいました」

「違うわ!平民の着た服なんか、いらないと言ったのよ」

「その後に、数枚の上等のシャツまで届けて頂きました」

「施しよ!哀れで、見ていられなかったの!」


 そして推しへの貢物です。本当にありがとうございます。

 次の日から、そのシャツを着てくれたハンナちゃんに、私は喜びのあまり悶絶した。

 そのハンナちゃんが、私の横にいる。

 そして、真剣な目で私を見つめた。


「どうして私を、レオン殿下と仲良くさせるのかわかりませんでした。でも、私が仲良くなったら、ダイアナ様のお役に立てるならと……役立たずでごめんなさい」

「ハンナちゃん……」


 ああ、そうか。

 この子が王子を見ていたのは、私を思って心配して、王子の挙動を観察していたんだ。

 私の側によく現れたのも、同行していた王子目当てでなく、純粋に私に会いに来てくれていたとは。


「なんて……なんて、恐悦至極……鼻血でそう……」

「大丈夫ですか?」

「あっ、そうだ。いつもパンをありがとうね」


 私はやっと、秘密の差し入れの主に礼が言えた。

 ハンナちゃんは、プルプルと顔を赤くして俯いた。


「あ、あんな物しかなくて、すいません」

「何を言ってるの!ハンナちゃん家のパンは世界一よ!」

「以前に、ダイアナ様がお世辞でも誉めてくれたのが嬉しくって」

「お世辞じゃなくて、本当に美味しいの!」


 この可愛い小さな体で、朝からパンの仕込みを手伝い、懸命にパンの研究をしているのだ。

 つまり、あのパンはハンナちゃんの血肉であり、ハンナちゃんの全てであり、むしろパンはハンナちゃんと言えるのではないだろうか?


「落ち着けダイアナ。鼻息が荒い」


 馬車が停車し、ギル様が私たちを見つめた。


「という訳で誤解も解けた事だし、兄上も新しい女が見つかったので、もうハンナ嬢を相手にする事はない。心配するな」

「やだっ!だったら、これからは会いたい放題ね!」

「ダイアナ、君の前向きさは驚嘆に値するが……ともかくわかったな?」


 ギル様の返事に、私は満面の笑みで即答した。


「はい!」


 名残惜しいが、ハンナちゃんを自宅で降ろし、ギル様と二人で次は私の家に向かう。

 はずなのだが?


「どこに向かってるんです?」

「事情が変わった。ハンナ嬢はもう無関係だが、君はより危険になった」

「まあ、後ろからずっとついてくる、怪しい馬車もありますしね」


 あーあ面倒だなと、私は伸びをする。

 ギル様は、視線を私から逸らさない。


「君は、もう少し自分を大事にすべきだと思う」

「大事にしてますよ?」

「そうか?それにしては、他の者のために働き過ぎだ。


 私は小さく、コテンと首を傾げた。


「まさか」

「わかっているのか、自覚がないのか……ノートの内容が全てだろ?君は悪行など一切していない」

「いいえ」


 私は悲しげに笑う。


「ハンナちゃんを、レオン王子にあてがおうとしました」

「それは……」

「ハンナちゃんはレオン様に傷つけられました。それもこれも……」


 私はグッと拳を握る。そして突き上げた。


「あの馬鹿のせいです!」


 私だけが悪いなんて、絶対に言うものか!

 私の推しを痛めつけた罪は、万死に値する!

 一瞬呆気にとられたギル王子が、すぐさまお腹を抱えて笑い出した。


「あはははっ!ダイアナの逞しい所が好きだな俺は」


 いきなり好きと言われて、私は慌ててしまう。


「好きとか、ちょっと!誰かに聞かれたら誤解されますよ!」

「別にいいさ。君を見ていて、俺も救われた一人なんだ」

「は?」

「ほら、着いたぞ」


 なぜか見知らぬ、小さな家に降ろされた。

 ここはどこ?


「ここは、俺の隠れ家の一つ。母方の持っていた物件の一つだから、兄上も知らない」


 玄関を叩くと、老婦人が現れた。


「お帰りなさいませ、殿下」

「では彼女がそうだ。宜しく頼む」

「はい、お任せ下さい」


 どうも私は、お任せされるらしい。

 展開が急だが、なんとなく理解した。


「避難する程ですか?暗殺の撃退だけなら、我が家でも対応可能ですが?」

「それで君の侯爵家ごと、万が一制裁を喰らうのは割に合わない。この家で君だけなら、監視も保護も容易い」


 どうも私の意見は、採用する気はないみたいだ。

 きっぱりと意見を貫くギル様は、間違いなく王族だと改めた。

 存在感が薄いのに、イザとなったらちゃんと説得できるじゃない。

 そこにはレオン様と違って、責任感とか信用力が加算されてるからだけどね。


「俺もここに昔、数年間暮らしていた。彼女は俺の乳母だから、心配せず残り二週間を過ごすといい」

「では、家族に一度連絡だけは……って、もうしてますよね?」


 割と有能なギル様は、当たり前だと手紙を差し出した。

 そこには、楽しんでおいでという、家族のメッセージが記載されていた。


「では、また明日」


 去ろうとしたギル様の背に、私は最後に大きな声で伝えた。


「引き返す気がないなら、胸を張って堂々と貫いて下さい!」


 彼は何を言われたのかわかったのだろう。

 振り向きもせず、片手をあげて去って行った。


(私には人の為に働きすぎとか言って、自分もじゃない)


 さてと、私は世話になる夫人に、ニッコリと微笑んだ。

 対してあちらも、ニッコリと微笑み返してくれる。


「ではお嬢様、鶏肉のグラタンが出来てますが、お好きですか?」

「大好物よ!」


 既にリサーチ済みだったのか、私の荷物も運ばれており、食事もインテリアも私好みに整えられていた。

 しかも、必要な私物は、きちんと新たな部屋に用意されている。

 どうやら、私の家族も協力したらしい。

 豚の貯金箱をひっくり返し、売上袋にジャリジャリと入れる。


「んー、よし決めた」


 私はフカフカのベッドに入り、明日からハンナちゃんに償いをする事を誓った。

 彼女の件に関しては、王族が平民をぶった程度では罰せられることはない。

 むしろヘタに持ち出すと、ハンナちゃんが不利になる可能性が高い。


(でも、絶対に許さないからねレオン王子!)


 メラメラと怒りを身に宿し、私は次の日を迎えた。


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