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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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3/12

 その晩の夕食時、私は家族に学校の出来事を報告する。


「という訳で、暗殺が本格的になれば、この家を出るかも知れません」


 私の言葉に、両親も弟も殺気づく。


「あなた、戦争よ。戦うしかないわ!」

「父上、僕も弓で参戦させて下さい!」

「まてまて、お前たち、私一人で十分だ。ダイアナ、心配しなくても私が守ってやる!」

「お父様……みんな」


 家族の優しさと、まっすぐな無謀さに感動して涙が出そうだ。

 まあ父は、わかったうえでノリノリな気がするが、まあいい。


「学校にいる間も、監視という名の護衛もいますし、安心して下さい」


 こうして日々が過ぎ、一週間が過ぎた頃の出来事。

 毎日に慣れて来た私は、待機時間は漫画を持ち込んで楽しんでいた。

 生徒が訪れる休憩時間まで、まだ余裕があるなとチラリと時計に目をやった。


「いい加減、そろそろ私の悪行を罵って貰わないと、ただのカウンセリングよね」


 生徒たちからは、一週間過ぎても罵り一つ出なかった。

 どれだけ私が「もっと、ほら頑張って」と言っても、逆に「なんて健気な」と不思議な返事をされる始末。


 扉がノックされた。

 あれ?まだ授業中だけど……でも、騎士たちが通すという事は危険はないはずだ。


「どうぞ」


 入って来たのは、元担任の教師だった。

 心配そうな顔で、私の執務机の前に立つ。


「元気そうだね、良かった」

「はい、先生も。何か御用ですか?」

「ここは、時間制で話を聞いてくれると聞いたんだが?」


 はい?


「いえ先生もご存じですよね?私は、迷惑をかけた悪行を罵られるためにここにいます」

「君が、そこまでの罪だとは思わない。我々、職員一同も、陛下に抗議文を送る準備をして……」

「あ、辞めて下さい。レオン様は根に持つタイプなんで」


 私の言葉に、先生も大きなため息をつく。


「レオン殿下もなぁ……。なんでギル殿下が後継者じゃないんだろうね」

「あ、不敬罪になるんで、それ駄目です」


 それから先生は、ひたすらレオン王子の事を愚痴っていく。

 よっぽど溜まっていたんだろう。止める事も出来ず、私はただ相槌をうって聞き終えた。


「やはりダイアナ君だ、ありがとう」

「いえいえ、はい40ディナールです」

「君もこれから大変だから、100ディナールを……」

「あ、駄目です。ちゃんと金額を守ってください。お気持ちだけ頂きます」


 なんだかわからないままに、スッキリ顔の先生を見て、私も嬉しくなった。

 それと同時に、レオン様の化けの皮の薄さに、この国の未来をちょっとだけ憂いたのだった。


 待ち望んだお昼ご飯は、なぜかギル様が配達するようになっていた。


「なぜ?」

「一応、責任と君の確認だな」


 持ってきてくれた学食を、二人で向かい合って食べる。

 しんみりとした空気が流れるが、食事は美味しかった。


 思い返せば、ギル様とは三年間ほぼ接触はなかった。

 もともとレオン様とギル様の仲が悪いのもあるが、ギル様自身の存在感が薄すぎるのだ。

 いや本当に、気配もなければ空気みたいで、ある意味どこかの隠密かと思える特技。

 本人の顔立ちはいいのに、地味な空気を醸し出し、王子と言われても首をかしげてしまう。


「何が言いたい」

「いえ、何も」


 でも話をしてわかる。

 この人は自分の存在は悟られないのに、人を観察する目は鋭い。

 しかも割と頭も回る。どうして兄にも、それを仕込んでくれなかったのか。


「何だ?」

「何でもないです」


 食事を終えて、午後の部となる。

 そういえば、知らない間に騎士さんが、受付制度を実施してくれていた。

 並んで順番が来ない生徒を見かねたそうで、大変申し訳ない。

 ともかくこれで、じっくりと罵って貰える体制は整った。


「さあ、どうぞ!」

「本当に、意地の悪い事ですわ!思い向きはニコニコしている癖に、器の小さい……」


 おっ!今度こそ、悪役令嬢への罵倒が……。


「あれが次期国王なんて!最低ですわーっ!」


 違った。

 最近は私へのヘイトではなく、王子の罵倒が多いなあ。

 なぜか王子に負けた気持ちになりながらも、スラスラとノートに記載しながら、生徒の話を聞く。

 どうやらレオン様は、制止していた私がいなくなり、やりたい放題らしい。


「まあ……あれでも一応王族だから、ね?」

「せめてダイアナ様がいらした時は……ううっ、ダイアナ様も大変ですわね」

「ところで、私への苦情や不満は?」

「ありませんわ」


 とりあえず10ディナール分の愚痴を聞きました。次の方どうぞ〜。

 しかし、王子への苦情が日に日に増えていくのが気になる。

 いや、王子ではなくハンナちゃんが心配なのだ。

 ギル王子に聞いても、一応無事だとしか言われていないが、そもそも無事って何?


「ハンナちゃんはヒロインなんだから、流石に王子でも手出しできないわよね」


 ここはTL小説の世界だけど、本番はラストのみという肩透かしで、後で炎上した位なんだから。

 しかし、レオン王子はどこまでヘイトを貯めていくのか?ちゃんとこのフラグ回収されるよね?

 ちょっぴり不安になりつつも、私は再び生徒を部屋に招き入れる。


 コンコン。


「どうぞ」

「やっと出番がきたわ」


 入って来たのは、元クラスメイトのソーニャ・ウェルダム伯爵令嬢だった。

 ツカツカと私の前に座り、高らかに笑い出した。


「あーっはっは!!いい気味だこと」


 私は、喜びで目を輝かせる。

 ソーニャさんは、ある意味私の理想の悪役令嬢だったのだ。

 私が上手くできない時は、彼女を見習って元気付けさせて貰っていた。

 ある意味、心の師匠である。


「よく来てくれたわ」


 しんみりと私が伝えると、彼女は鼻で笑う。


「そりゃあ来るわよ。レオン様に捨てられた、負け犬さん」

「きゅああーっ!これよ!これを待っていたの!」


 私は飛び上がって、彼女の手を両手で握り歓喜した。

 なぜかビクつく彼女に、真剣な目で私は訴えた。


「どうぞ罵って頂戴、もう遠慮なんかなしでいいのよ!」

「ひぃ!」

「私は負け犬で、いい気味で、あとは何?」

「あっあっ……小銭稼ぎの、みっともなくて……」


 ヒクヒクと声を震わせてまで伝えてくれる彼女に、私はわかるわかると頷く。

 涙目になってまで、私を罵ろうと……やっと役目を果たせるわ。


「もうっ、いい加減にしてーっ!」

「きゃーっ!最高っ!」


 待機していた騎士が、勢いよく扉を開けて入って来た。


「ダイアナ様!一体何が!え?」

「やっと念願の私を罰する方が、現れたのよ!」


 ニコニコと告げる私と、力尽きたようなソーニャさん。

 なぜか騎士が気の毒そうな顔で、彼女を回収していくので、私は慌てて止めた。


「待って、お代を頂いてないわ」

「では、自分が立て替えておきますので」


 騎士が豚さんに入れたコインが、チャリンと鳴った。


 ***


「見て下さいギル様!」


 私はご機嫌で、本日の成果を報告した。

 ソーニャさんの記録したページを指さして、胸を張る。


「とうとう私も、罵られたんですよ」

「それは、おめでとう?」

「はいっ!ありがとうございます。これからも、頑張って皆さんのヘイトを受け止めたいと思います」

「んー、どう答えたらいいのか、わからない」

「がんばれと、ただ一言」

「がんばれ」

「心がこもってなーいっ!」


 ギル様の冷たい視線を無視して、私は鼻息荒くやる気に満ちていた。

 まもなく二週間の折り返しにて、やっと罵られる事が出来たのだ。


「頑張って、きちんと罰を受けますね」

「……とりあえず、君を見てると飽きないのは確かだよ」


 ギル様がにっこりと微笑んだ。


「がんばれ、ダイアナ」


 私は満面の笑みで返事した。


「はい!」


 ああ、やっぱり馬鹿王子と離れて正解だった。

 解放感が凄い。

 私は、ちょっと見惚れたギル様の顔から目を背けた。


「あれ、ちょっと興奮しすぎた?」


 顔の火照りを誤魔化して、ハタハタと手で扇ぐ。

 あれ、ギル王子ってこんな男前だっけ?


「ところで警告だ。兄上が何やら動き出した」

「まあ、馬鹿の忍耐も二週間が限度でしょうね」

「馬鹿って……」

「あははっ」


 やばいっ。再び手をパタパタさせて誤魔化した。

 だがギル様は、レオン様と違って細かい事にはこだわらない器だった。


「なんにせよ、絶対に一人にならず、騎士か俺が一緒にいるようにしろ」

「でも、あまり私に肩入れすると、ギル様の立場が悪くなりますよ?」

「今更だ」


 なんだか頼もしいギル様に、おおっと拍手すると、いつもの白い目で見られてしまった。


 この日から常に、ギル様が側にいる事になる。

 送迎と昼食時は、彼との時間になりそうだ。


 帰宅してベッドに転がり、私はため息をつく。

 また、馬鹿王子が面倒になるのか。


「馬鹿すぎて予測不可能なんだよね……ま、いっか」


 私は豚ちゃんから、今日の売り上げを袋に詰め替えクスクスと笑って眠る。

 すぐに朝が来て、また登校の為に迎えの馬車が来る。


 いつものギル様がいて、本当に私を守る気なのだと、彼の責任感に関心する。

 影が薄い割に、正義感も強いんだよね。


「影が薄くてすまんな」

「聞こえてましたか、すいません」


 授業に出るギル様と別れ、私は個室に入室する。

 すると、私の机に紙袋が置かれていた。

 触るとフンワリと温かく、私は扉の外の騎士に尋ねた。


「これは?」

「内密にとの事で、安全は確認させて頂いてます」


 パタンと扉を閉めて、いそいそと紙袋を開けると、出来立てらしきパンが入っていた。


「やだ、美味しそう」


 幾つか入ったクロワッサンには、それぞれ違うクリームまで挟まれている。

 一つ食べると、栗クリームだったらしく、パリパリとした食感と香ばしい香りが堪らない。


「ああ、幸せ。朝から、こんな幸せでいいの?」


 モフモフと食べていると、喉が渇いたので湯を用意して貰う。

 最近はお代だけでなく、ちょっとした差し入れも貰っていた。


「確か、紅茶も貰っていたのよねぇ」


 充実した朝を堪能し、さて拝聴の時間だ。

 扉がノックされ、生徒が入って来た。


「さあ、私の迷惑をせきららに語って頂戴」

「では、失礼して……」


 おっ!これは!

 期待度が高く、私はベンを強く握りしめた。


「ダイアナ様は、私の人生を変えてしまいました」

「なんてヒドイ!」

「自然学習の際に、私は見たんです。花を必死でむしっているダイアナ様を」

「花をむしるなんて、最低ね」

「その花を袋に詰めて、私は何をなされるのだろうと怖かったんです」

「それは怖いわ。きっと袋につめて嫌がらせをするつもりよ」


 うんうん。覚えていないけど、その調子で悪行を語って頂戴。

 生徒はブルブルと肩を震わせて、私を睨むように直視した。いいよいいよ!


「その後に、突然油を用意して、その花を洗って煮えたぎる鍋に投入したんです」

「なんて事!油なんか危険すぎるわ!」

「カラッと揚がった、野花の天ぷらが極上だったんです!」

「は?」


 私は硬直した。

 そして思い出す。


(そういえば、ついお腹がすいて現地で調理した記憶が……)


「ダイアナ様のせいで、私……私」

「お腹でも壊したの?なんて悪逆非道なの!」

「美味しさに目覚めてしまって、人生目標が調理人になってしまったのです!」


 机の目覚ましがなり、時間終了。

 チリンチリンと豚貯金箱にコインが入れられ、今回もあまり罰が加算されませんでした。


 二人目は、なぜか王子の苦情だった。

 なんでも本人の思い付きで、剣の授業がワルツに変更されたらしい。


「王子はいいですよ。付き人のメイドと踊れます。俺たちは何が悲しくて、男同士で」

「ええっと、私が見張ってなくてゴメンね?」

「最後はヤケになって、俺たちは一列に組んで、ラインダンスに進化しました」

「やだ、楽しそう。参加したい!ところで、私への苦情とか、ほら色々と」

「ありません」

「……10ディナールになります」


 豚貯金箱にお代を入れた生徒は、ペコペコとお辞儀をして去って行った。

 私は無の心で見送った後、椅子にドサリと腰を下ろす。


「私って、ここでみんなに罵られないとダメなのよね?」


 どうも、自分の思っていた認知と現実の歪みがあるみたいだ。

 それはつまり……。


「悪役令嬢が失敗していたって事!」

「何が悪役令嬢だ」

「ひっ!ギル様」

「ノックしても出てこないと思ったら……まったく」


 物思いに耽っているうちに、昼休みになっていたらしい。

 今日も私のご飯係兼監査として、ギル様が現れた。

 向かい合って食べるのも、もう慣れた。


「それで経過はどうだ?」

「それが、なかなか思った感じじゃないのに困惑しています」

「ノートを見せて貰っても?」

「はい、どうぞ」


 差し出したノートを、一足先に食事を終えたギル様はペラペラと見つめた。


「最初はどうかと思ったが、これが君の目的か」

「はい、ちゃんと悪行を証明できるようにしておかないと」

「そうだ。皆の証言は立派な武器になる」


 やっと食べ終えた私は、デザートに今朝のパンの残りを出した。


「ギル様も食べますか?イチゴとバナナのクリームがあります」

「いらん」


 そっか……って、あれ?

 二つ食べられるのに、どうして少しションボリしたんだろ私。

 デザートを堪能しながら、私は呟いた。


「あの、必要なものがあるんですが」

「何だ?」

「パンを温めるトーストです」


 いつもの白い目で睨まれて、いつもの空気に私は安堵した。

 うん、しょんぼりなんて気のせい。

 というか、本当にパン美味しい。

 誰の差し入れか、私にはわかってる。

 ちゃんと会ってお礼を言いたいけど、今は難しいかも。


「ああ悔しい!」

「そうだな」


 こうして、穏やか?に、また午後の部が始まった。


「あ、いつもお疲れ様ですダイアナ様。これ、差し入れの我が家特製の……」

「ずっと憧れていました。いつもツンツンなのに、時折見せるデレが……」


 よくわからないままに、本日も無事に悪行拝聴もこなせぬままに、一日が終わりましたチーン。

 帰り支度を終えてギル様を待つ間、ふと窓の外が騒がしい。

 チラリと覗いて、私は絶叫した。


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