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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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2/12

 というわけで、私は次の日から卒業までの一か月間、学園の別の個室を与えられ隔離された。


「君はもう学位は全て取得しているし、まあ骨休めだと思って」


 学園長が汗を拭きながら、授業はもう免除だと告げた。

 王家と、我が侯爵家に挟まれて大変そうだ。

 ちなみに送り迎えは、ギル様が用意した馬車。あと、監視は常につく事になる。


 用意された個室は快適で、ちょっとした執務室みたいにテーブルと椅子が用意されている。

 日当たりも良く、校舎の角で窓から裏庭も見えて静かで気に入った。


「さて、何をしようかしら」


 早々に暇を持て余した私は、廊下で見張っている監視の騎士に暇つぶしの品を頼むと、トランプがきた。

 なので、一人神経衰弱をしながら考える。


「この時間が、勿体ないわね」


 そうこうしていると、休憩時間になる。

 扉がノックされ、生徒が入って来た。

 さて、私の罰とやらが始まるのだ。

 どうぞ罵りなさい。私は悪役令嬢として全うしただけで、後悔はないわ。


「ダイアナ様!今回は本当に大変でしたね!」


 なぜか涙ながらに同情された。あれ?

 むせび泣く女生徒を慰めながら、私は必死で励ました。


「貴方、ここに来たからには、私を罵らないと」

「とんでもない!むしろ、どうしてこんな目に」


 うちの生徒たちは、みんな優しいのよねぇ。

 女生徒を送り出す為に廊下に出ると、ズラリと並んだ列がこちらを向いた。

 廊下は生徒たちで賑わい、全員の相手をしなければならないのかと眩暈がする。

 でも、仕方ないのかも知れない。

 せめて効率的にさばきたいと、騎士に数人の同時入室を求めたが、安全上多くて二人までと制限されてしまった。

 まあ開き直って、一ヶ月もあれば何とかなるだろうと、私は並ぶ彼らに声を張り上げる。


「順番だから、ちょっと待ってねー」

「はーい!」


 みんなの返事が揃って、大変宜しい。

 ただ初日は、なかなか時間の配分が難しいのと、なぜか泣いて同情する生徒ばかりで、本来の罰とやらが機能しなかった。

 下校時間となり、ギル王子が現れた。


「で、どうだった?」

「疲れました」


 精神的な疲労感が半端ない。

 何か言いたげなギル王子を無視して、私は帰宅するなりベッドに横になる。


「これが罰なのね……というか、これからが本番かも?」


 まあこの流れなら、変なイベントが起こったけど、王子との破局は決定打だ。


「でも、ハンナちゃんを好きなだけ愛でれないのは腹が立つ!」


 やはり馬鹿王子だと、私は枕をドスドスと殴る。

 そこでハタと閃いたのだ。


「そうよ。どうせ一ヶ月後に国を出るんだから、時間を有効活用すればいいのよ!」


 私の目には、窓辺に置かれた豚の貯金箱が、キラリと光って見えた。


 ***


 そして次の日、私は本日も隔離部屋の椅子に腰かけた。


「ふふっ、今日から本気出すわよ」


 私はせっせと鞄から、持ち込んだ荷物を机に並べる。

 暇つぶしの雑誌や漫画、パズルや編み物セット。

 トランプもあるし、ノートや筆記道具に、ゲームセットも置いてある。


「箱入り令嬢舐めるなですわ。ほほほっ、室内遊びは得意でしてよ」


 腰に手をあて、悪役令嬢らしく笑って見せた。

 ただギャラリーがいないので、寂しくてすぐに我に返る。


 そして私は騎士に頼んで、扉の前に張り紙をして貰う。


「お嬢様……これは」

「いいの。別に禁止されてないし」


 てへ……っと笑って、家で作成したポスターを貼って貰った。


『貴方の罵り拝聴致します。10分ごとに10ディナール(ただし一人制限20分まで)』


(万が一追放されるなら、お小遣いは多い方がいいもの)


 私って天才!と自画自賛しつつ、一日が始まった。

 ちゃんと用意したお陰で、皆が授業中にも関わらず、私は一人楽しく自由を謳歌した。


「やっぱ観光は食よね。もし家族で追放だったら、お母様は海産物が好きだけど、お父様は……」


 ウキウキと旅行カタログに印をつけていると、あっという間に休憩時間になる。

 さあ、仕事……もとい、贖罪の時間の始まりだ。

 休憩時間は、各二十分。午前・午後ともに二回ずつ。昼休憩のみ一時間ある。


 初日と違い、今日はなかなか扉がノックされなかった。

 外に沢山の人の気配がするので、集まっている事は確かなのだが……。

 そう思っていると、やっと扉がノックされた。


「入って頂戴」

「お邪魔します」


 恐る恐る入って来た男子生徒は、こちらを上目遣いに見た。


「有料制なんですね」

「あら安くしたつもりよ?だってパン一本と同じ値段ですもの」

「もっと高くても良いくらいです!ダイアナ様と、二人っきりでおしゃべりできるなんて!」


 高くしたら計算面倒じゃない。さて、どうぞ罵って。

 私がどれだけ悪役令嬢として、皆に迷惑をかけたのか!その全てを注ぎなさい!

 報酬を貰うのだから、きちんと聞かなくてはと姿勢を正す私と違い、男子生徒は机に突っ伏した。


「三年間、本当にお世話になりましたぁーっ!」

「はい?」

「僕が一年の時、きっと覚えておられないですが、僕を助けて下さったんです!」


 良く覚えていないが、何やら感謝された。

 ちなみに途中で、適当に聞き流した。


「ですので、上からバケツが落ちて来たおかげで、僕はあやうく階段から落ちるのが……」

「あ、ごめんなさい。時間だわ。制限は二十分だけど、休憩時間はもう終わりそう」

「ああ、もっと喋りたかった。20ディナールですね?」


 私は机に置いた豚の貯金箱を指さすと、そこにコインを入れてくれた。

 チャリンチャリンと良い音だ。


「ありがとうございました」

「はい、またのお越しを」


 ニッコリと笑顔で見送ると、顔を赤くした男子生徒は去って行く。

 授業開始と共に、廊下で待機していた生徒たちも散って行く。

 私はチラリと入り口で立つ騎士たちに話しかけた。


「これ全員さばききれると思う?」

「難しいですが、やはり同時入室は二人までです」

「わかったわ」


 ポスターを書き換えた。


『一人制限30分→すみません10分限りでお願いします』

 これで最低でも午前に4人、午後に4人は相手できる。

 お昼休憩は頂きたいので、昼休憩中は見逃して頂きたい。


「よし、頑張ろう!」


 流れがつかめたので、私は俄然とやる気に満ち溢れた。


 ***


 それから現れるお客様……生徒は、やはり皆が優しい子たちばかりだった。


「いいのよ?言いたい事があるなら、遠慮なく言ってね?ちゃんとお代も頂くんだし」

「とんでもない!話を聞いて頂けるだけで」


 なんだろう……何か違う。

 私はトイレ以外の移動は、基本禁止されているので、騎士さんが食事を運んでくれた。

 昼食をとりつつ、私は軽く首をひねる。


 私は三年間、きちんと悪役令嬢をしていたはずだ。

 ちゃんとバケツで水をかけたし(風邪ひくといけないので、ちゃんとタオルで拭いてあげました)

 教科書も隠して困らせたし(その後、一緒に私の教科書を見て至福でした)

 学食なんか高くて無理でしょプゲラで、食事にも誘わなかったし(そしたら実家の店のパンを、分けてくれて美味しかった)

 あれも、これもと思い出して微笑んでいると、ノックもなしにバンと扉が開かれた。


「君は何をしているんだ!ダイアナ嬢!」

「ちゃんと言われた通り、隔離されています」

「違う、外の張り紙だ!誰が金をとっていいと言った!」

「とってはいけないとも、言われてませんよね?」


 突然現れたギル様は、私を見て頭を抱えた。


「ダイアナ嬢……いや、ダイアナ。もう少し自分の立場を考えてくれ」

「だって、お代を頂いた方が、心から向き合う事が出来ますわ」

「だからっ、刺激するなと……。何の為に隔離したと思ってるんだ」

「暗殺防止ですよね?」


 ケロリと言った私と反して、ギル王子は目を見張る。

 いや、わかるよ?伊達に王子の婚約者してなかったんだしさ?


「今回の断罪未遂は、あきらかに王子の失策。それを陛下に知られる前に解決するには、私が消えるのが一番早い」

「君は……」

「王子なのか、その取り巻き一味かは知りませんが、実行する気配がある。だから、貴方は危険を顧みず私を庇ってくれた」

「君だけを庇ったわけでは……」

「ええ、王家の威信を守ったわけです」


 ニッコリと笑ってあげた。

 さあ、気が済んだら出て行って。早くお昼ご飯を食べたい。

 今は昼休憩なのだ。とっとと、食べよ?


「君は聡明なのに、どうしてもっと上手く立ち回らなかったんだ」

「だって、ハンナちゃんと王子が、幸せになって欲しかったんですもの」


 王子が近づくと俯く仕草、震える小さな唇、彼女こそヒロインの中のヒロインよ。

 私が拳を握って熱く語ると、ギル様は呆れた様子だった。


「その感じでは、兄上に一切愛情はなかったみたいだな」

「ないです!むしろ昔、いきなり押し倒された時に、股間を蹴ってやりました」


 我が侯爵家は、先祖代々武闘派なのだ。

 護身術も仕込まれている。


 私の言葉に、ギル王子が赤い髪を揺らして爆笑した。


「あはははっ、そうか!良くやった、許す!」


 なぜか知らないが、許されました。

 だから、お昼ご飯を食べようよ。


「ともかく目立たぬようにと隔離しても、君は無駄みたいだ」

「大げさな。たかだか10分10ディナールですよ?」

「ちなみに、この会話もカウントされているのか?」

「はい」


 だって休憩時間を使ってるんだよ?

 片手で目頭を揉むギル王子は、それでもめげなかった。


「……ところで、生徒たちの対応はどうだ?君に厳しく当たる者はいたか?」

「いえ、それが全然。むしろ励まされたり、慰めたり?」

「まあ当然だろうな?君は人気だったから」

「またまた~ははっ」


 同じ兄弟でも、弟はユーモアが得意らしい。

 私は笑って、ノートを見せた。


「帳簿の代わりに、一応記録もつけ始めました。まあ経営は大丈夫です」

「何が経営だ。まあ兄上からしたら、君が金にがめついという悪名を負ってくれるなら、とりあえず見逃すだろうが」

「ですよね。ところで、ハンナちゃんは元気ですか?」

「知らんが……わかったわかった!そんな目で睨むな!どうして、そこまで彼女に入れ込むんだ!」


 そんなの決まってる。


「彼女は、誰よりも苦労した努力家だからです」

「それは君も同じだろう?」


 はて?そうかな?

 ギル王子と話をしていると、とうとう昼休憩が終わってしまった。


「あああっ!お昼ご飯がーっ!」

「君は授業もないのだから、後でゆっくり食べられるだろ?ともかく、ここで大人しくしてくれ」


 そのまま去ろうとするギル様に、豚の貯金箱を指し示す。

 微妙な顔をして、彼は60ディナール入れてくれた。

 言うだけ言って、ギル様は去って行く。


「何しに来たんだろう?」


 小首を傾げたが、すぐに忘れた。

 こうして、私のルーティーンが決まり、それから数日間は何事もなく過ごせたのだった。


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