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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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1/12

 私、ダイアナ・パレスには、生まれた時から前世の記憶があった。

 物心がつき鏡を見た時に、確信した。

 この世界は、私が見たTL小説「薔薇と散る蘭」の世界だと。

 やっと歩けるようになった私は、鏡をみて悟る。


「立派な悪役令嬢になって、ヒロインちゃん幸せにするでちゅ!」

「あら、お嬢様。どうされました?」

「お腹すいたでちゅ!」


 何よりもヒロイン推しであるからには、彼女の幸せの為に努力した。

 誰よりも優秀で、誰よりも優雅であれ!

 スルスルと健やかに成長し、シナリオ本編に向けて順調に物語は進む。

 きちんと王子との婚約も果たす事が出来た。

 これで準備万端だ。


「あ、王子。こういう時は一度ティーソーサーは置いた方がいいですよ?」

「うるさい!お前は偉そうにするな」


 この王子は、本当に見た目詐欺の馬鹿なのだ。

 金髪碧眼のレオン・フォン・アスタロト殿下は、次期王位継承者だ。

 数か月違いの弟王子、ギル様のほうが出来がいい。地味だけど、あの人。


「ほら人が来る。大人しく私を引き立てろ」


 これが婚約者なんだもん、本当にこいつでいいの?ヒロインちゃん。

 遠い目で私は、苦くなった紅茶を完璧な所作で飲み干した。


 まあシナリオの為、王命だからと我が侯爵家も婚約を受け入れた。

 けど、我が家はどっちでもいいんだよなぁ。

 武人家系のせいか、家族そろってよい意味でおおらか、悪い意味で雑だった。


 こうして耐えに耐えて、早くヒロインちゃんに会いたい一心で、私はとうとう学園入学を迎えたのだ。


「ひゃあ!やっぱり可愛い!」


 やっと念願のヒロインちゃんこと、ハンナちゃんに会う事が出来た。

 麦色のおさげに、若草色のクリクリの瞳。ほっぺの薄いソバカスも最高です。

 しかも、凄くいい子なんだよ。ああ神様、有難うございます。

 あの王子ですら改心するんだから、ハンナちゃん無双!

 任せてハンナちゃん!私が立派に悪役令嬢を演じて、貴方と王子が結ばれるようにしてあげるから。


 ではスタート!

 ここぞとばかりに、私はヒロインちゃんを構い倒した。

 ああ……素晴らしい!鼻血出そう、変な笑い声出そう。

 動いてる、しゃべってる、怯えてる!

 うんうんと頷きながら、私は必死にみんなの前で、彼女をいびり続けた。


「あら、こんな簡単な問題も解けないの?この数式は、こうするんですよ?おほほほほっ」

「ちょっと、その包帯の巻き方はどうなの?だから、ここはこう!」


 王子すら嫌がった、私の小姑攻撃は効果てきめんだった。


「おい、いい加減に彼女をいじめるのはやめろ!」


 ハンナちゃんを庇い始めた王子に、いいぞいいぞと私は初めて王子を応援した、

 周囲もハンナちゃんを庇い始め、私を遠回しに止めに来る。


「それで、この薬草の効果は」


 実験の作業に、モタモタする姿すら萌です!


「ああ、これはこうで……ハンナさん、良くお聞きなさい!」

「はいっ!」


 ふふっ、みんなが私の周りに集まって来る。

 これだけ注目を浴びれば、間違いなく私は断罪されるわ。

 え?断罪が怖くないかって?

 この小説では断罪されても、五年間の国外追放だけだし、我が侯爵家にも影響はない。

 最近では帰宅して、五年間どこに旅行に行こうか、ルンルンでカタログを見るのが楽しい位。


「あ、ほらハンナさん!どうして、それを混ぜるの!」

「きゃあ!煙が!」

「みんな、早く窓を開けて、背を低くしてハンカチで口元を覆いなさい!」


 急いで、ハンナちゃんの作った笑いガスの中和剤を調合して、私は教室に振りまいた。

 まだ煙が漂う教室に、ハンナちゃんの悲鳴を聞いて駆け付けた王子が扉を開けた。


「レオン様!駄目です!」

「何が駄目だダイアナ!またお前……ひゃ?ひゃはははっ!」


 ほらガスがまだ残ってるのに……馬鹿だなぁ。

 私は、換気が完了した合図に手を叩く。


「レオン様はいつも笑顔で、素晴らしいですわ」


 パチパチと白々しく手を叩く。王子は口元を必死で抑えながら鷹揚に頷いた。


「ははっ、当たり前だ。またお前は騒ぎを起こしても、私は笑ってはははっ」

「ハンナちゃん、レオン様を医務室へ」


 ささ、どうぞ二人きりでと促す。不安そうな彼女に、親指を立ててグッドラック!と声援を贈ってあげた。


 こうして、迎えた三年目。

 卒業を迎える一か月前、生徒が突然講堂に集められた。


 ここまでのシナリオは完璧だった。

 今では、私がハンナちゃんに近づくだけで、周囲の生徒たちも集まる始末だ。

 我ながら、完璧な悪役令嬢ぶりが、怖いくらい……ふっ。


 と、ここまでは余裕だったのだ。

 けれど、突然シナリオが狂い始めた。


「あのっ、ダイアナ様」


 ああっハンナちゃん!おどおどして可愛い!


「私は、その……王子の事は」

「言わなくてもわかってるの。さあ、早く王子の元へ。私の事は気にせずに」


 そう、私は貴方さえ幸せで、遠くから愛でさせて貰えればいいだけ。

 シナリオでは、貴方は王子と結ばれてハッピーエンドを迎えるのだ。

 その為なら、どうぞ私を踏みしめて行きなさい!

 これぞ推し活の極意!まもなくゴールよ、駆け抜けるのダイアナ!


 と、テンション高かった私は、講堂で皆を集めた王子の声で、我に返る。


「よって、ダイアナ・パレスは婚約破棄とし、平民や学園を騒がせた罪として爵位剥奪のもと永久追放とする!」

「はぁ――――っ?」


 私の叫びと皆の叫びが同調した。

 え、待って?どういう事?

 私は王子を見たが、どや顔で勝ち誇り、怯えるハンナちゃんの肩を抱いている。

 そんな顔も可愛いよハンナちゃん……じゃなくって、あれ?断罪は卒業パーティーのはずだけど?


「流石のお前も、自らの罪が理解できたようだな」

「ええっと」

「ははっ、聞いてなかったのか?お前の侯爵家ともども、永久追放だ」


 ごめん王子。ハンナちゃんに見惚れていて、聞いちゃいなかった。

 さて、困ったぞと思っていると、慌てた様子の声があがる。


「お待ちください兄上!父上が帰国される前に、このような勝手な判断は……」


 赤毛の長身の男子生徒が、前に進み出て王子と対立する。

 そこで、皆がやっと彼の存在に気づく。


「うるさいギル。私が次期国王だ」

「それでもです兄上!勝手が過ぎます!国が定めし婚約と侯爵家の地位の決定には、国印と王の采配が必須なはず」

「お前はひっこんでいろ!これは学園の為なのだ」


 だから、どうして勝ち誇るの馬鹿王子。

 馬鹿が人を指さして、高らかに吠えた。


「なら、この女をどう断罪する!」

「皆が迷惑を受けているのなら、皆が断罪すべきです!あと一か月の卒業まで、彼女には償いとして、迷惑を受けた者たちからの罵倒や叱責を受けさせれば良いのです」

「また、面倒な……」


 難色を示すレオン王子に、弟のギル王子は必死に訴えた。


「部屋も隔離して、監視もつけます。その上で一切の手出しは無用で、皆の恨みをその耳と心で受け入れて反省を促すのは、寛大な次期国王の技量ではないですか?」

「ふむ」

「兄上が正しいのですから、父上が戻られる一ヶ月間を無駄にする事はありません」

「そ、そうだな。わかった」


 なぜか私を置いて、話が進行していくが……はい?

 必死でハンナちゃんは、辞めて下さいと私を庇ってくれている。

 ああ、いい子だなぁ……うっとり。


「では決まりだ。皆の者、明日よりダイアナ・パレスに物申したい者は、思う存分罵るがいい!」


 何か決まったみたいだった。


 ***


 というわけで、普段は陰が薄い地味王子もとい……。


「誰が地味王子だ」

「すいません、ギル様」


 意味不明のまま終わった講堂断罪未遂事件の後に、私は第二王子であるギル様に呼び出されていた。

 彼はレオン王子の腹違いの、数か月差で弟という立場の王子だ。

 王家には珍しい赤毛と緑の目は、下級貴族だった母親に似ているらしい。

 幼い頃は、母親の身分のせいで隠れて暮らしていたらしいが、レオン王子の遊び相手として城に引き取られたと聞いている。

 まあ皆の印象は、人畜無害、地味、影が薄くて存在感がないという人物だ。


「どうして、私を助けてくれたんですか?」

「兄上の先走りは、父上の顔に泥を塗る行為だ」


 私は彼をあまり知らないが、少なくとも馬鹿兄よりはマシらしい。

 彼は大きくため息をつく。


「一ヶ月後に父上が戻ったら、君の冤罪など撤回される。それまでは我慢してくれ」

「いえ、私は断罪されたいんですけど」


 でないとシナリオが進まなくて、ハンナちゃんが幸せにならないだろうがゴラ。

 ギル様は、ジト目で私を睨みつけた。


「なら、あの場で家族もろとも断罪確定で良かったのか?」

「滅相もございません。助けて頂いてありがとうございます」


 スリスリと手を擦り合わせてお礼を言うと、彼は小さく噴き出した。


「君は遠くから見ていても不思議だったが、こうして会話してみると面白いな」


 笑われて、なぜか家に送られた。

 馬車内で、明日からの生活と注意点を聞きながら、さてどうしようかと家族に伝える。


「まあ、私たちが国外追放?」

「楽しみだな母さん。どこに行こうか?」

「姉上、爵位剥奪でも財産さえあれば、別に問題ないのでは?僕へそくり有ります!」


 割と前向きな家族だった。

 まあ、いざとなれば他国で父や弟が、頑張ればいいだけだし。

 誰一人として、婚約破棄について言及しない点には笑った。

 父が言う。


「まあ、陛下が戻られるまで頑張れよ」


 他人事だった。


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