王都出陣
新章開幕です
あれから一ヶ月が経った。今日はこの村に三人いる眷属の送別会。この村から眷属が出ていくのは八年ぶり、なぜか今年は東の魔女からもお祝いという名の食事や飾りやその他諸々の品々が多く届き、間違いなく過去最大に賑やかな送別会だ。
「レイ兄行っちゃうのー?」
「アイ姉行っちゃヤー!」
「ご飯おいしいよ!」
「こら! アスカ! こぼしてるじゃない!」
うん、なんとも賑やか……賑やかすぎるくらい。
「うぅ゙、アイラもレイも行っちゃうのね。悲しいわー!」
孤児院の先生が僕とアイラをまとめて抱きしめてくる。
「先生、泣かないでくださいよ。ここはお祝いの席でしょ?」
「うぅー、ぞれもぞうねぇ゙!」
「うっわ、鼻水垂れ流しきったね」
いつの間にか近くに来ていたバルが先生のグシャグシャになった顔を見て素直にそう言った。
「あ、バル! 楽しんでる?」
「当たり前だろ? 俺等のためにこんなに騒いでくれるんだ。嬉しい以外の何でもないさ!」
バルも父親繋がりの魔工師達と仲良く話している。そんなこんなで盛大に僕達を見送ってくれる村の皆に感謝する一夜になった。あ、ついでにお祝い物をくれた東の魔女さんにも。
「レイ、アイラ。準備はいい? 忘れ物してない?」
「大丈夫だよ、先生心配しすぎ」
「そうだよ! 私もレイももう大人なんだからね!」
「オイ、バル! てめぇ家に金槌置きっぱだったぞ!」
「えっ! マジで! ありがとーおやじぃ」
次の日の朝、僕たちは村の入り口にいた。僕たちの出発に村中の人たちが集まってくれている。バルは何やら忘れ物があったらしい。
しばらく村の人達と駄弁っていると時間が来たらしく村の入り口に黒い服に身をまとった女性の使者が現れた。
「レイ様、アイラ様、バル様のお迎えにあがりました。神殿直轄使者部署所属のリサと申します。御三方はどちらに」
使者、それは神殿直轄の部署のうちの一つ。王都から遠く離れた土地に現れた眷属達を安全に王都へ連れて行くために作られた部署らしい。
「僕たちです」
「さようですか。では最後に別れの言葉の時間はいりませんか? 次に帰ってこれるのは年に一回の長期休暇のみになります」
僕たちは顔を見合わせて村の皆のほうを振り返った。改めてみんなの顔を見渡す。頑張れよ、とエールをくれそうな顔。行かないでよ、と今にも泣きそうな顔。羨ましいなぁ、と羨望の眼差しを向けてくる顔。立派になったな、と誇りに思ってくれてる顔。みんな顔に出てて分かりやすい。だからこそちゃんと言葉にして伝えないといけない、それは僕たち三人とも分かっていた。だから、僕たちは声を揃えてこう言うんだ。
「行ってきます!」
それに対して返ってきた言葉は村の皆の息の合ったひと言。
「行ってらっしゃい!」
それだけだった。それだけでいい、村の皆の絆を改めて感じた瞬間だった。
「それじゃあ、お願いします。リサさん」
「かしこまりました。では皆様、御三方は責任を持って王都までお送りいたします。では失礼いたします」
そう言ってリサさんは胸元から一つの紙に描かれた魔法陣を取り出す。
「《開門》」
リサさんが唱えたその瞬間、僕たちは王都の門の目の前までやってきていた。
「す、スゲー!」
バルが声を上げるのと同時に僕たちのテンションも高まり始める。
「ここが王都の入り口! 大きい!」
アイラも興奮気味に飛び跳ねる。
「皆さん、落ち着いてください。とにかく皆さんを学院の寮へお送りいたします」
「は、はい!」
僕たちはリサさんの後ろをついてく、ついてく。
「はぁ~、中もスゲーな。この建物何階建てだよ」
バルが驚くのも無理ない。辺り一帯自分よりもはるかに高い建物に囲まれてる。それも村にあったものよりも遥かに高い。
「みなさんは王都は初めてでございますか?」
リサさんが振り返りながらそう聞いてきた。
「あ、はい。みんな村から出たこともないです」
「さようでございますか。では、せっかくの機会ですし、寮に荷物を置かれましたら王都をご案内いたします」
リサさんの魅力的なお誘いにアイラが目を輝かせながら「いいんですか!」と言うと優しく「もちろんです」と言ってくれた。
「では、せっかくですので《開門》で寮まで行ってしまいましょうか。本来は禁止されておりますので内密にお願いします。もしバレたら始末書ものですから」
「わかりました!」
僕たちはリサさんの周りに集まるとさっきと同じように一瞬にして場所が変わった。目の前には大きな門と大きな建物。
「こちらが王国立眷属育成機関リーヤシュヴァレン魔術学院学生寮入り口になります。私はここから先への立ち入りが禁止されておりますので中におられる寮母もしくは、寮長から案内を受けてください。私はこちらでお待ちしおります」
「わかりました、ありがとうございます! なるべく早く戻りますね」
僕たちは興奮をそのままに寮の中に入った。
しかし、おばさまに早速寮の入り口で止められた。
「あんたら、ちょっと止まりな! もしかして来週からの新入生かい?」
「は、はい!」
あまりの威圧感から僕たちは固まりながら返事をした。
「そうかい。レナちゃーん! 新入生の案内しておくれ!」
威圧感のあるおばさまが寮の中で大声に呼応して遠くから「はーい」と小さな返事が聞こえてきてドタドタドタドタと足音を立てながら一人の女性が走って現れて廊下を右から左へ通り過ぎていった。一瞬見えたシルエットは真っ白な髪だけ。
「ったく、あの小娘……」
おばさまは頭を抱えてやれやれとでも言いたい雰囲気だ。
「君たちが新入生かい?」
「は、はい」
左の廊下から何事もなかったかのように現れた女性はやっぱり白い髪だった。それに、スラッとした身体、いかにも女性らしいという言葉が似合う女性だ。
「そっか、ボクの名前はレナ! レナ・アレストライだよ! 一応八年生です! よろしくね」
レナさんは僕たちに右手を差し出して歓迎の握手をしようとしてるようだけど、僕はそこよりも気になることがあった。多分、二人とも思ってる。
(アレス……トライ?)
レナさんは僕の親戚かもしれないということ。
「ありゃ、固まってる?」
「はっ、すみません。こちらこそよろしくお願いします。私はアイラ、こっちの二人はバルとレイと言います」
僕とバルは揃ってお辞儀をしました。
「三人ともよろしくね! あっ、そうそうこの、こっわーい顔したおばさんが寮母のバカラさんね!」
「オイ、小娘誰がおばさんだ?」
バカラさんが拳を見せるとレナさんは平謝りして僕達を引き連れて逃げ出した。僕は少しのもやもやとこの後の観光、そしてこれからの学院生活に止まぬ興奮を胸に抱きながら、レナさんの後をついて行った
用語『使者』
発掘機関(神殿)の職員。開門という魔法を使って年に一回眷属達を迎えに行ったり、眷属達が長期休暇で帰省する時の助けをする。所謂タクシードライバー的存在。仕事は魔法を使った送り迎えで簡単。しかし給料はアホ低い。大抵みんな副業してる
《開門》
魔術区分:スペルキー
詠唱文
『《開門》』
自分の位置から指定された場所まで瞬間移動できる魔法。魔法陣がないと行使できない、魔法陣一つにつき行き先が一つに固定される、などのデメリットもあるが、馬車などに比べては安上がりなものである
用語『レナ・アレストライ』
幼い頃に賊徒に弟をさらわれたことがトラウマ。弟を取り返すことを誓いながら日々鍛錬していたところを「終焉の神」に見初められる。このリーヤシュヴァレン魔術学院で二番目の実力者。いまだに弟の情報を集めているが進展はない。ある意味で天然である意味で闇を抱えた悲しい人物
用語『バカラ』
リーヤシュヴァレン魔術学院学生寮の寮母、特に強くない。平凡な魔術師だが努力家で尊敬されてる。今は寮母を務め、次代の育成を陰ながら支えている。なかなかにいい人




