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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第一章「カリフィス編」
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神匠の遺物

第一章「カリフィス編」 完

「早く、この前の武器見せろよー」


「そうだそうだ! 見せろ見せろー!」


「あのな、二人とも静かにしてくれよ」


 僕たちはこの前魔人と遭遇した場所に来ていた。あの日のすぐ後に大人たちが東の魔女の館に出向いて直々に魔獣討伐をお願いしたところ、珍しく快く引き受けてくれたようで、森は僕たちより小さな子供でも走り回れる程度には安全になっていた。


「それに魔術も頂いたんだろ! 羨ましいぞ! 俺なんか魔術なんてこれっぽっちも使えないのに!」


「バルは別のものを頂いたじゃないか!」


 バルの妬みや、アイラの非難を受けて、僕は渋々詠唱を始める。


『出でよ、ヴァディゴスの化身、その名を世界に知らしめよう。産声は今ここに』


 唱えるとあの時と同じように空から槍が飛んできた。


「はぇー、やっぱ凄いな」


 バルは魔工師であるが故に少しは詳しいのだろうか一瞥して感嘆の声を上げている。


「真っ黒ねぇ」


 対するアイラは少し間抜けな返答。


「なぁ、これ触ってみてもいいか?」


 バルがそう聞いてきたから、快く触らせてあげようとしたところ、また槍が喋りだした。


『許可できません。私の契約者はレイ・アレストライ様ただお一人です』 


「わぁ! 槍が喋ったわ!」


「まさか、自我がある武器?」


 アイラは驚いて、バルは何か心当たりがあるのか訝しげに槍を見つめている。


「バル、何か知ってるのか?」


「あぁ、一回オヤジから聞いたことがあるんだ」


 バル曰く、七百年ほど前、神匠と謳われた鍛冶師が三人いたという。


「そのうち最も優秀だった鍛冶師がヴァディゴスって名前らしいんだ」


「そういえば、詠唱文のなかにその名前入ったわよね」


「確かに入ってたな」


 ヴァディゴス、聞き覚えがあるようで無いような……。まぁ、生まれてくるときにもらった知識に入ってて今とっさに思い出せないだけかもしれない。


「それで、そのヴァディゴスは生前十二か十三か忘れたけど、取り敢えずスゲー作品を作り上げたんだ。そして、その武器には神々からの祝福がかかって自我が宿っているんだ、って聞いたことがある」


 バルは「それに並ぶ武器や道具を作るのが魔工師の悲願なんだ」と付け加えた。


『今の説明で大まかに合ってます。ただ、私のようなヴァディゴス様にはよって創造された「ディゴスシリーズ」は全部で十二作品です』


 と言うよりも気になっていることがある。


「僕は、ただのレイなんだけど」


 そう、僕の名前。槍は僕のことをレイ・アレストライと呼んでいたけど、僕は生まれてこの方レイとして過ごしてきた。


『血液を採取し、血筋を調査したところ、ヴァディゴスの第三系統の血統と判明しました。ヴァディゴスの第三系統の者は代々アレストライと言う苗字を持ちます。ご存じないのですか?』


「知らないよ、僕は孤児だし。親の顔なんて知らないしね」


 どうやら、僕の本当の名前だったらしい。なんか違和感がすごいけど取り敢えず受け入れることにしよう。


「あの、槍さん」


『《産声》で結構です』


「あ、じゃあ産声さん。一つ質問なんだけど」


 アイラが質問したい事はなんとなく予想がつく。自分でも疑問に思うところだ。


「もしかして、レイって貴族だったりするの?」


 本来、苗字を持てるのは貴族のみ、つまり僕が苗字を持ってるということは、僕に親戚がいるのだとすれば、それは貴族ということだろうか?


『この時代ではどうかわかりませんが、歴代のヴァディゴスの第三系統の使用者は三人を除き貴族でした。貴族といっても武功を称えての爵位でしたから、そこまで高いわけではありません。領土こそ与えられておりますが、暮らしぶりは庶民と変わらず、民を慈しむ方だと、それ故に領民にも愛された統治者として記憶しております』


「つまり、僕の親戚は貴族かもしれないってことか」


 そのことを聞いた途端自分の出自が怖くなってきた。貴族の権力争いは醜くて汚くて凄惨だって聞くし、関わりたくはない。


『それでレイ様、私は何故召喚されたのでしょうか? ここら一帯に脅威になりうる存在もおりません』


「あぁ、そこの二人が《産声》が見たい! とかそれは一体何なんだ! とか言ってうるさかったからそのために呼んだんだ」


『なるほど……ではレイ様、二つ忠告をいたします』


 槍の声は無機質で単調なものではあるが、雰囲気がガラッと変わったのを感じた。と言うよりも、辺り一帯の魔子が動きを止めた。


『私のような「ディゴスシリーズ」は召喚されるだけで辺り一帯の魔子に影響を与えうる霊力を発生させる事があります。今、この時のように……あなた方三人は眷属であるとお見受けします、そんなあなた方には影響はありませんが、魔子の扱いに慣れていない一般の方にとっては私の召喚だけで身体に毒となります。そのため安易に私を召喚することはお勧めいたしません。次に、この森に私と同じ存在がいることを既に検知しております。レイ様を監視していらっしゃったので十分にお気をつけください』


「は、はい」


『では、私は天界に戻ります』


 その言葉を最後に《産声》は光の粒になって消えていった。それと同時に辺り一帯の魔子ももとに戻った。


「なんか、本物の人と話してるみたいだった」


「自我のある武器って言うけど、人間の魂でも封じ込めてるんじゃないのか?」


「てか、結構自由に動けるんだね、槍なのに」


 三者三様の感想。僕個人としてはなんか、仰々しく敬称に様とかつけられて少しムズムズしたし、最後の方は孤児院の先生から本気で怒られたときとおんなじくらいの圧を感じた。それよりも僕が監視されていたというのも気がかりだ。特に影響がないならいいけど、何かあれば大人たちに相談するか。


「も、もういいだろ。二人とも帰ろう」


 僕がそう言って帰りの道を歩き始めると二人とも口を揃えて「何言ってるの」と僕を引き止める。


「まだ、魔術を見せてもらってないぞ」


「魔術を教えなさぁい」


 僕の友人はとても喧しくてめんどくさい。


「じゃあ、アイラ。魔術を使ってよ」

「え?」


「僕の魔術、見たいんでしょ?」


 でも、とっても大切な友人だ。




 僕はアイラから少し距離を取る。アイラは前みたいに僕に向かって魔術を使うため詠唱を始める。


『我は愛の化身なり

 今、そなたの身に我が名を刻む

《愛の隷属》』


 詠唱が終わり魔術が完成する。あの時と同じように辺り一帯がピンクの光に包まれるが、ここから僕の魔術は始まる。


『《不動心》』

 僕が唱えると、辺りの光は粒になって消えていった。


「あ、あれ? 魔術が壊れた?」


 アイラは何が起こったのかに少し戸惑っていはいたが、確かに答えにたどり着いていた。


「正解、僕の魔術は相手の欲望を消し去るらしいよ」


「魔術の根源を断ち切るわけか」


「バル君大当たりー、マイナス三点減点!」


「オイ、それ減って…………ん? 増えてんのか?」


 バルのツッコミをよそにアイラがしょげてしまっている。


「そんなのズルじゃない! 魔術を打ち消す魔術とか! そんなの大魔術事典にも載ってないわよ!」


「って言ってもよ。魔術は大抵個人の物だから大魔術事典みたいなのをみて使える魔術の方が少ないぜ」


「それでもよ!」


 魔術を持たないバルと魔術を打ち消されたアイラが口喧嘩を始めてしまった。しばらく放置しておこう。


 それよりも来月に向けて学院関連の準備を済ませておかないといけないため、僕は二人をそのままにして孤児院へ帰った。ちなみにその日のうちに準備を済ませ、その日の夜に勝手に帰ったことをアイラに怒鳴られアイラの分の支度までやる羽目になった。アイラの下着とかをたたみながら準備するのはなんというか恥ずかしいと言うかそういう複雑な気持ちになった。


「よしっ、準備終わり! あとは一応アイラに確認させて終いかな」


 気がつくと外は暗くなっていた。窓の外から空を見上げると数多の星が光り輝いている。


「何見てるのよ、レイ」


 ちょうど入口からアイラが入ってきた。多分夕食の準備ができたから呼びに来たんだろう。


「いや、星が綺麗だなって」


「確かに綺麗ね。今夜はアストル様、機嫌がいいのかしらね」


「さぁ、星の神様は気まぐれだって噂だよ」


 それから僕たちの間にしばらく言葉はなかった。二人ともこれから訪れるであろう王都での生活に密かに期待を寄せていた。

用語『神匠・三匠』


魔工師として技術を数百年単位のスケールで発展させた人たち

魔工武器・建築学『ヴァディゴス』

魔工装置・魔法陣学『ウルスラ』

魔工武器・アルカナ『レインロッド』

ヴァディゴスはディゴスシリーズ、及びその他優秀な武器の製作と、魔工技術の発展への寄与。建築学でダリア・リーア王国の主要貿易港の建設、エルサーゼ王国との橋の建設、及びそれらをもとに設計に関する知識を体系化し、その教授に努める。

ウルスラは魔力によって動く動力機関の発明、及びそれの発展に寄与。魔法陣学で、これまで神々しか扱えないと考えられていた五つの魔術の疑似再現。

レインロッドはディゴスシリーズの様な強力な武器ではなく、一般人でも扱える護身用の武器の作成(銃の開発)。これにより盗賊などの襲撃で離れの農村が壊滅する被害が激減したことに寄与。王国王都の全エネルギーを賄うことのできる動力機関『アルカナ』の作成。



用語『ディゴスシリーズ』


神匠ヴァディゴスによって作られた十二の武器。それぞれに神々からの祝福が宿り、自我が芽生えている。一番から順に年老いた自我を持っており、時代とともに成長するが、使用者がいない間は成長しない。成長するのは自我だけではなく武器の性能そのものもであるが、注意点もある。


《以下基礎性能》

全作品共通して使用者がいる間だけ成長する。

成長には『基礎成長』と『固有成長』がある。

(基礎成長:武器の基礎性能の向上

 固有成長:特定の使用者の場合での成長。これは使用者が変わると引き継がれない)

自我がある



《不動心》

魔術区分:付与魔術、超短文詠唱魔術

詠唱文

『《不動心》』


完成された魔術の根源の「使用者の欲望」を断ち切り、魔術の効果を消し去る。ただし相手の欲望が深ければ深いほど効果は薄くなる。



用語『大魔術事典』


魔術関連の事がめちゃくちゃ書かれてる本。そして体系化魔術が全て記載されており五年に一回新版が出る。



用語『体系化魔術』


魔術は本来神からの贈り物であるが、その動作原理を完全に解き明かした魔術は同じ工程を経ることで他者でも行使できるようになる。そのように動作原理を完全に解明したのが『体系化魔術』で、未だに動作原理が不明、または一部のみ解明されてるものを『非体系化魔術』と言う

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