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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
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領域侵犯 06

 真理の裁定者。それは世界の門の奥に存在すると言われる真理の領域に足を踏み込み、何かしらの「テーマ」を会得した者たちのことである。世界の門、そして真理の領域が何なのかは未だに解明されていない。しかし、真理の領域にて「テーマ」を会得、すなわち領域から認められればそのものには想像を絶する知識と魔子、そして不老不死の権能が与えられる。何の為に真理の領域が存在しているのか、いつから存在しているのか誰も知らない。

 ネイランと相対するこの魔女、ダイアナ・アレスト・フォーレンライもまた真理の裁定者の一人である。

「勝手にしゃべらないでくれる? 不快よ」

 ダイアナは小さく舌打ちをする。

「私をわかった気にならないで気色悪い。私のことを一から百まで理解した人間は旦那様だけよ」

 ダイアナは杖の先端を相手に向ける。

「第一、真理の領域はあなたたちが考えているような代物じゃないわ。知ったかぶりは止めることね」

 ネイランは少し顔を歪めながらも切断された右腕を元に戻す。

「話が通じない女だな」

「それはお互い様じゃない?」

「そんなに夫を殺されたことが憎いか」

「そんなの興味ないよ。どうせあなたたちの命じゃ足りないもの。それ程までにあなたたちには価値がない。浅い経験に浅い知識、何処に私が求める要素があるのかしら?」

 ダイアナは肩をすくめる。まるで赤子が発する言葉と同じようにネイランの言葉を扱う。

「でも、殺すよ。価値のあるなしに関係なく、あなたたちには『生きている価値』そのものがないからね。私の旦那様に詫びろとか、そういうのは一切ないよ。ただ単に『死ね』」

 合図などなかった。強いて言うのであれば二人の視線が交錯した一瞬が合図だった。

『《白夜の天涙》』

『《繝ュ繝ウ繧ョ繝後せ》』

 ダイアナの杖からは先と同じように無数の銀光が何本もの曲線を描きながら放たれる。対するネイランは漆黒の槍を生み出しダイアナに目掛け発射した。

(ありがたいことに今は空気中に二酸化炭素が存分にある。因果を重ねれば最高硬度の槍を無数に作れる!)

 ネイランの頭の中はまだ余裕があった。自分の得意とする原初の魔術を制限なしに使える環境が整っているこの状況ではそれも致し方がないことである。

 しかし、その自信は三秒も持たず崩れ去った。

「は?」

 ネイランの間の抜けた声が、か細く喉から鳴った。ネイランの放った槍とダイアナの放った銀光が触れた瞬間、両者の勢いが削がれるわけでもなく、狙いがそれるわけでもなく、はたまた槍が光を打ち砕くこともなく。そう、いうなればあっさりと、あっけなく、まるで冷やした麺類の味付けのようにあっさりと槍が光に飲まれ、その姿を消した。

「ただの炭素の第三形態構造体が圧縮魔子に敵うわけないじゃない」

 ダイアナのクスクスという嘲笑がネイランの耳にまで届いた。その直後、ネイランの首を正確に一筋の銀光が捉える。

「クソッ!」

 ネイランは咄嗟に後ろに飛ぶが、そのせいで首を捉えていた銀光はまっすぐ左足首を貫通し、吹き飛ばす。

『《ぼん》』

 ダイアナが艶めかしい小声で囁くと同時にネイランから完全に離れた左足が爆発する。

「しまっ!」

 ネイランは目の前で赤く発光しながら爆ぜる予兆を見せる自分の足を見て咄嗟に防御の姿勢を取るが間に合わずその爆風をもろに受ける。爆風の勢いそのままネイランの体が地面で何度か跳ね、ゴロリと止まる音がした。

「私を殺すつもりなら早く本気を出して。でないとこの子を安全な場所まで連れて行くこともできないんだけど」

 その言葉に呼応するかのように爆風による土煙を切り裂きながらダイアナの脳天めがけて黒閃を帯びた槍が迫る。

「へぇ」

 しかし、それがダイアナに届くことは無かった。ダイアナは一歩も動くことなく、ただ杖を左に振っただけである。たったそれだけで槍は軌道が逸れダイアナの右耳の数寸横を通過する。しかも、ダイアナの後ろにいるレイには決して当たらないように操作しているあたり、余裕の色が透けて見える。

 時間が経つにつれて土煙は晴れていく。

「あら」

 しかし、そこにはネイランの姿はなかった。




 場所は移り、爆心地。

「レナ・アレストライ。貴様ではいささか期待外れだな」

 リューリアスバラハの右手にはレナの白い首が握られていた。レナはリューリアスバラハの右手首を必死に捻り抵抗しているものの微動だにしない。

「は、離せ!」

「自分の状況が理解できていないのか?」

 リューリアスバラハの右腕が次第に上がり、レナの身体がゆっくりと持ち上がる。

「貴様の生死など我々は気にしない。お前の持つその第二番さえあれば我々の計画は完遂する」

 レナの二十メル後方に《黒波》は転がっていた。

「そうは言っても邪魔というのは入るのだな」

 リューリアスバラハが呟くのと同時にレナは思いっきり左に投げられる。それと数瞬違わずに空から一人の女性が降ってきた。

「上院特殊対策部所属、第一隊隊長リファーゼ、ただいま現着。ダイアナ様の到着までレイ・アレストライを護衛する」

「チッ」

 リューリアスバラハは小さく舌打ちをする。厄介そうな、それでいて邪魔くさそうな反応を見せる。

「護衛対象ならびに攻撃対象確認……ん?」

 レナを視界に入れたリファーゼは首を傾げる。

「……女だ……えっ、私間違えた?」

 しかし、そんな様子を気にも留めずにリューリアスバラハはリファーゼの首に斬りかかる。

「危ない!」

 レナが叫ぶがリファーゼは眉一つ動かさない。

『《光翼展開》』

 その言葉と同時にリファーゼの背中、肩甲骨辺りから光の翼が生え、リューリアスバラハの太刀を受け切る。

「まぁいいや、間違えたなら間違えたでどうせあの魔女に勝てる人なんてほとんどいないしね」

 リファーゼは自信満々といった表情でレナに振り返る。

「あなたは私が護衛する」

 しかし、レナの表情は晴れない。

「女というのは揃いも揃って愚かな生き物なのか?」

 なぜならリューリアスバラハの左手に《黒波》が握られていたからだ。

「用は済んだ《飛翔》」

 リューリアスバラハは浮遊魔術を唱え宙へと舞う。そしてそのまま飛び去っていく。

「なっ! 待てっ!」

 レナは思いっきり叫んだが、肋骨にヒビが入っていたのかすぐに痛みに悶え、咳き込む。

「大丈夫か! すぐ治療する」

 リューリアスバラハを追おうとしたリファーゼであったが咳き込むレナの治療を優先した。治癒のスクロールを使い、レナを治療しきったときには既にリューリアスバラハの姿はなかった。

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