領域侵犯 02
西区と中央区のちょうど中間、そこでは絶えず鎌を振る音が鳴っていた。
「な、なんでここにお前がいるんだ!」
フードを被った男が壁際に立たされている。目の前では到底仲間と言えるほどの関係性はないものの、少なくとも同じ考えを持つ同志の首が胴体から泣き別れする光景が広がっていた。
「別にそんなことどうでもいいだろ」
「なんで、なんで! レナ・アレストライ!」
レナはその男に向かって、一歩、また一歩と近づく。
「お前たち破滅の狂人に生きてる価値はない」
「来るな……来るな!」
男は叫ぶがレナの歩みは止まらない。
「お、俺の側に近寄るなあぁぁぁ!」
その言葉が男の最期だった。男の頭が宙を舞い、ゴトンという鈍い音を立てて地面に転がった。
「頭領、ここにいたのか」
「……ミラ、それにダンテも」
レナが周囲の敵を全て殺し終えたあと、ミラとダンテが現れた。
「ちょうどよかった。ここら一帯の殲滅をお願いできる? それと逃げ遅れた人がいれば避難誘導も」
「それは構わないが……一人で行くつもりか?」
ミラはレナの要望に答える意を示したものの少し思うところがあるらしく、問い返す。
「会議のときにも言ったけど別にあなたたちを信用してないわけじゃないわ。ただ、あなたたちじゃ足手まといになるってだけ」
レナの言葉に二人とも黙り込む。そんな二人をよそにレナは走り出した。
「ダンテ、俺たちは俺たちの仕事をするぞ」
「……わかったよ」
《レナ視点》
(破滅の狂人の暴動、資料にあった通り実行されたね)
私は走りながらレイ君を探していた。いいや、君をつけるのも名前で呼ぶのも気色悪い。化け物を殺すという目標だけが今の私を突き動かしていた。
「チッ、出血が面倒ね」
しばらく気にしなかったが、頭から流れる血が目に入っているせいでやたら視界が悪い。手早くスクロールを取り出し、治癒すると流血は収まり、少し目をこすると視界も次第にもとに戻った。
(まだ少し赤いけど……別に支障はない)
辺りがよく見えるようになって気づいたけど血が目に入ってようと入って無かろうと目の前に広がるのは赤一色だけだった。
「悲惨ね」
今からちょうど十分程前、空中要塞が何者かの手によって爆破された。爆発のおかげっていうのは少し癪だけど、そのおかげで冷静になれた。
(大丈夫、まだ計画通り)
以前、上院からの依頼で秘密捜査を請け負ったことがある。王国城地下を捜査したときに手に入れた資料に今回の計画が書かれていた。その結果を上院に報告してさらに捜査を進めたところ王国城の警備兵のなかに、いや、それどころか政治機関の内部まで破滅の狂人に属する者が潜んでいる事が分かった。
主犯の名は、リューリアスバラハ。
破滅の狂人の最高幹部の一人で、今まで起こってきた数多くの重大犯罪事件に関与しているとされ、余罪の数は推定不能。
(手早く済ませる)
私はより一層速度を上げ、計画書にあった地点に向かう。
意外にもそいつはすぐに見つかった。要塞が落ちた爆心地、地面に大きなへこみができていて、その中心に奴は立っていた。
「いた!」
私は《黒波》を両手で構え、奴に突撃する。
「《第一形・断絶!》」
上段から振り下ろした一撃。物体が存在する確率を限りなく零にする一撃。私は前方三百メルにわたって地面を抉った。
「なるほど、貴様がレナ・アレストライか」
後ろから声がした。咄嗟の判断で後ろに振り返り防御の姿勢を取る。
「グアァ!」
直後、腕に鋭い衝撃が走る。両手で構えた鎌の柄と相手の剣の刃が交差している。両手のひらから骨を伝って肩までぐっと押し込まれる。
(押される!)
私は体全体を左に移動させながら右手の力を抜き、腕にかかる力を横に流す。受けた回転エネルギーをそのままに、くるりと一回転し奴に斬りかかる。
しかし、奴は悠々とその攻撃を躱しきった。まるで水が上から下に流れるかのように自然と、疑いようもないほど当然のことのように避けた。その様子にあっけにとられた。
「さて」
奴のそのひと言で私はハッとした。それと同時に大きく後ろに跳躍し距離を取る。
「貴様……何処かであったか」
「さぁね、ただ私はあなたを知ってるし、許すつもりも逃がすつもりもない」
「……なるほどなるほど」
奴は顎に手を当て考える仕草を取る。さっきの一瞬の攻防で確信した。コイツの一挙手一投足は私の命に届くと。
「それなら、ネイランが言っていた《黒波》がそれか」
次の瞬間私は大きく踏み込み、奴に斬りかかった。
「乱暴だな」
奴は依然変わらず、平然と片手に握った剣で受け止めた。しかし、そんな事を気にする余裕など私にはなかった。ただただ激昂だけが私自身を包み込み、支配していた。
「その名を何処で知った!」
「は?」
「その名を何処で知ったかと聞いているんだ!」
『ネイラン・アレストライ』
私の叔母に当たり、アレストライ家の汚点。そして、父さんと母さんを殺し、弟をさらうように手はずを整えた人物。それが、奴が口にした名だった。




