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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
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領域侵犯 01

 ある人はその光景を『悪夢』と表現した。

 ある人はその光景を『幻想』と表現した。

 ある人はその光景を『暗黒期の再来』と表現した。

 いずれにしてもそれは誤りではないのだろう。確かにこの日、ダリア・リーヤ王国は思い出したのだ。災禍に覆われ、まるで歩いた時に、流れるように自然と、踏みつぶされる雑草のように、人の命が散る様を……

 約二千年前、王国を覆った災禍の時代を……



 レイは瓦礫の下で目覚めた。

(ここは……それに、何が)

 未だ意識は朦朧としていたが周りからの音が少しずつレイの耳に入ってきた。

 パチパチと火花の散る音。ガラガラと建物の崩れる音。ドカンドカンと何かが爆ぜる音。ドタドタと誰かが走る足音。

 そして、人の悲鳴。

 レイのそばで急に爆発が起こった。

「グアァ!」

 レイの背中にのしかかる瓦礫をささえる柱が崩れ、レンガ造りの壁の瓦礫がレイの背中に食い組む。

「誰……か!」

 爆発によってできたのか小さな隙間からレイに向かって細く光が伸びる。赤く燃える炎の色の光。レイは必死になってその光に手を伸ばした。

「誰……か、助け、て!」

 全身の力を振り絞って声を出す。それはまさに、お願いだから誰かに聞こえていてくれ、僕はここにいる、助けてくれと生を渇望するレイの悲鳴だった。

 しかし、答える声はなかった。

 ──たった一柱の神を除いて。

『君に死なれるのはきっと面白くない。それに循環ちゃんに借りを作るのもそれはそれで楽しそうだ』

 その声がレイにははっきりと聞こえた、何もかもを面白がる、気まぐれで、怠惰そうな神の声が。

 次の瞬間、聞き慣れた声が穴の奥から光に乗ってくるように聞こえてきた。

「レイ! レイ! そこにいるのね! バル! こっち来て!」

「見つけたのかアイラ!」

「ア、イラ……バ、ル」

 バルはアイラに少し離れるように言うと、レイの背中にのしかかっていた瓦礫を蹴り飛ばした。今までかかっていた圧力が一気に消え去り、肺が思いっきり広がる。

「エホッ! ゴホッ!」

 急に入り込んできた灰を含む空気に思わずレイはむせ返った。その様子を見たアイラは血相を変えてレイを抱きかかえた。

「レイ! レイ! 大丈夫! リファー、回復魔術を、早く!」

「わかってるって!」

 リファーは口早に回復魔術を唱える。レイは知る由もないが、レイの背中は広い範囲にわたって変色しており、痛々しい様だった。

「取り敢えずこれで大丈夫だと思う」

 リファーの回復魔術のおかげか、レイの背中は綺麗に治り、加えて消耗した体力や細かなかすり傷まで治っていた。

「初めてみたけどすげーな」

 バルが感嘆の声を漏らす。

「非体系化魔術だから私にしか使えないけど、多分上位魔術だと思うよ」

「二人ともおしゃべりしてる暇はないわよ! 早くここを避難しないと、ここら一帯じゃ私たちが最後よ。レイ、歩ける?」

 喋っている二人をアイラが制止する。レイは小さく頷いた。

「取り敢えず、学院まで行くわよ!」

 四人は固まって学院まで走り出した。痛みも消え、クリーンな頭になったレイは改めて辺りの様子に戦慄した。

「一体何が起こったの?」

「覚えてないのか、レイ」

 レイの質問にバルが答える。

「さっき、空中要塞が落ちたんだよ中央区の西側に……」

「落ちたって、誰がそんなこと!」

「破滅の狂人よ」

 アイラが短く答える。

「先輩と先生たちが言ってた、大昔から存在する犯罪組織だって。西区側から侵攻してきてるみたい」

 走りながら話を聞くうちに少しずつ思い出してきた。

「レイシナム先輩とエイリス先輩は」

「大丈夫、二人とも学院まで帰ってきてみんなの護衛についたってよ。でも、終焉の派閥のあの三人だけは行方不明」

 リファーのその答えにレイは少しの安堵と大きな違和感を覚えた。

(レイシナム先輩とエイリス先輩が無事で、レナ先輩が行方不明……そんなわけない)

 レイが考えながら走っていると遠くから人の声がした。

「誰か! 逃げ遅れた人はいませんか!」

 聞き覚えのある声。それこそ休日にメイド姿で給仕をしていそうな女性の声。

「あっ、いた! 君たち!」

「えっ! リサさん!?」

「アイラちゃん!」

 その人はいつぞやレイ達を王都まで送迎した使者であった。

「リサさんがどうしてここに……」

「王国政府からの依頼よ、《開門》で学院まで避難させろってね」

 リサはみんなを自分の側に集めた。

「みんな、しっかり捕まっててね」

 懐からスクロールを取り出したその瞬間近くに砲弾が落ち、爆発が起こる。

「きゃー!」

 アイラの甲高い声が辺りに響く。爆風に体が煽られたレイは思わずリサから手を離してしまった。

「待って! レイが!」

 アイラはそれにいち早く気づいたが、爆発により建物の残骸に火がついたのか辺り一帯が次第に火の海になる。リサは必死にレイに向かって手を伸ばしたが、その手は炎によって焼かれる。

「熱っ!」

「レイ! レイ!」

 アイラは必死になってレイの名前を呼ぶが、答える声は現れない。アイラはリサを掴む手を離しレイを探しに向かおうとした。

「バカ! アイラ、お前までどっか行ってどうすんだよ!」

 半ば錯乱状態にあるアイラを必死にバルが抑え込む。

「もう行ってください! リサさん!」

 そう言うリファーの眼には涙が溢れていた。それを見たリサは苦悶の表情を浮かべ、唇を噛み締めながら、腹から絞り出すような声で唱えた。

『《開門!》』

 アイラのレイの名前を呼ぶ叫び声を残して、レイを除く四人の姿は消えた。

軽く説明があります。

ここまで読んでくれた読者のなかにもし、『《爆ぜろ》』と言う呪文が頻出してるな、と思ってる方がおられるのであればそれを解説したいと思います。

結論から言うと、それは「スペルキーだから」ということになります。スペルキーとは魔術の詠唱の簡略化と思っていただいて相違ありません。つまるところ、魔術使用者本人にとって魔術を発動するに足るイメージと欲望を具現化し、技術的な面で魔子を動かし、魔力回路を起動させることができるのであれば何でもいいわけです。

つまり、バルにとって魔剣を爆発させるイメージにちょうどいい単語が《爆ぜろ》であり、前回最後の方で唱えられたのも使用者本人にとってイメージが最も近い単語が《爆ぜろ》だった、というだけの話です。

魔術個々には確かに固有の詠唱がありますが、スペルキーに関しては例外です


以上説明でした。

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