遭遇 後編
なんだかんだ改行してた……
《魔女の森・最奥》
「すごい魔力だこと、『大魔導士』でも来てるのかしら?」
大陸の東の魔女の森、そのさらに奥にはある魔女が住んでいる。その魔女は、西の彼方、ちょうど自分の森の境界辺りで『大魔導士』と同等の魔力の波動を感じた。
「まぁ、見ればわかるけど。《来なさい》」
彼女がそう唱えると、足元から魔女が使うにはあまりにも清廉潔白に見える真っ白な杖が現れた。
「《第二形・世界の鏡》」
空中に楕円形の霧のような物が現れ、次第に色を変えていく。そして森の景色が映り始める。
「さて、どんな人かなぁ」
映し出された光景は森の一部分が吹き飛ばされている場所で、横たわる男女と武器を隣に寝ている男の子だった。
「子供?」
この魔女、子供だからといってありえないとは片付けない。自分自身も幼いころから天賦の才に見舞われたからだ。でも、不審な点はある。
「それにしても、魔力は感じたのに魔術の形跡がない……」
魔術と魔力は互いに深い関係があるが常に共存するわけではない。魔力とは魔子という物質が体内から体外または体外から体内に向けて流れる際に発生する力である。そこに霊力が加わると界力という力が発生し直接的に物質に干渉できる。逆に言えばここまでしないと現実世界に影響はない。魔力単体で世界に干渉するには魔術という装置に魔力を流す他ない。
「直接的干渉……現代に霊力を扱える人間がいて、おまけにあの子供だって言うの」
正直、魔女は自分のその考えを否定したかった。自分も霊力を扱える人間ではあるのだが、それが出来るのは自分を含め世界に八人の『真理の裁定者』と『大魔導士』のほんの一握りだ。
あれこれ考えていると、立っている男の子の武器に目が行った。
(あの武器……見覚えが)
「鏡、あの武器を拡大して」
魔女がそう言うと画面一面に武器が投影される。
「間違いない、《産声》だわ。あの人の武器をなんであの子供が……」
その時、突然霧がかき消された。
「はぁ、気づかれちゃた?」
『第三番《産声》の干渉を検知しました。これ以上の投影は不可能です』
予想通り、杖はその結果を示した。もう一度、魔女は考える。
「はぁ……杖、一応確認だけどあの武器あんたのお兄さんの第三番《産声》で間違いない?」
『兄、という表現は私たち武器にとって不適切ではありますが、第三番《産声》なのは保証いたします。あと、《産声》の性自認は女性だったはずです』
《産声》はヴァディゴスと言う名の鍛冶師が生前作った十二の最高傑作の第三番目。そして、魔女の杖はその第六番目である。
(《産声》が、子どもの手に渡っている。そしてもともとあれは夫の作品、そして循環の神が祝福を……)
そこで一つの仮説が生まれた。
「あの子供、循環の神の眷属。あの人と同じ……」
そして、魔女はこんな話を聞いたことがあった。循環の神は一人の人間に執着しているようで、その人間が死んでは天界で魂が漂白される前に自分の元へ連れてきて自分の権能で転生させているという話。
「つまり、あの子は……」
魔女の涙。この世界でそれを目にしたことがあるのある人間がどれほどいるだろうか。
「あぁ、ヴァディゴス!」
魔女は歓喜に体を震わせていた。
「必ず迎えに行くわ! 転生して記憶をなくしていても! アハハハハッ!」
魔女の名にふさわしい、不気味な笑い声。
「あぁ、ヴァディゴス! やっとあなたの子を産める!」
魔女は歓喜に体を揺らしながらしばらく笑っていた。六百年の時を経て、魔女の愛は歪みに歪んでいた。
《レイ視点》
目を開くとそこは見知った天井だった。窓の外からは暖かな日差しが入ってきている。
「帰って……きたのかな」
起き上がろうとしたとき腹筋に鋭い痛みが走った。
「いったぁぁぁぁ!!!」
あまりに痛すぎて体を腕で支えようとしたが、ついた腕からも鋭い痛みを感じた。僕はゆっくりとまた横になった。痛みが落ち着くと辺りを見回してみる。どうやら孤児院の保健室のようだ。ベッドの隣の机には花束が飾られている。
「見舞いに誰かが来たのかな」
ということは僕はしばらく寝ていたのだろうか、とそんな事を考えていると扉がガラガラ音を立てながら開いた。
「レイ、今日もお見舞いに……」
入ってきたのは手に花束を抱えたアイラだった。
「おはよう、アイラ」
僕を見るやいなや、花束を投げ出して駆け寄ってきたから、僕も腕を広げる。
「レイ!」
案の定、アイラは抱きついてきた。
僕はアイラが駆け出してきたとき密かに家族同士、感動の再会と言うのを思い描いていたのだが、どうやら幻想だったようで。
「いったぁぁぁぁぁあ!」
アイラが加減できないことをすっかり忘れていた。アイラの腕が背筋を圧縮してゴリゴリとその形を歪めていった。
(あっ、死んだわ)
僕の意識はまたそこで途切れた。
目を開くとそこは見知った天井だった。
(あぁ、二回目)
「レイ」
隣から声が聞こえた。知ってる声。彼女は僕の手を握っていた。
「おはよう、アイラ」
「おはよう」
彼女はそう言うとそっと体を僕と同じ病床の中に滑り込ませてきた。
「おい、出ていきなさい」
「やぁ」
ベッドの真ん中に寝ていた僕を無理やりおしやってとうとう全身潜り込んでしまった。入ってくるやいなや彼女は僕の背中に腕を回した。さっきとは違って優しく腫れ物を扱うような手つきだった。
僕は彼女の肩に手を置いて外へ追い出そうとしたが、彼女の顔を見てその気が失せてしまった。
「……今日だけだよ」
「……やぁ」
「だめ、今日だけ」
「やぁー」
「じゃあ、出て行って」
「やぁー!」
彼女は腕の力を強めてきた。さっきほどとは言わないが、そこそこ強い力が僕の上半身を圧迫する。私はいつだってまた気絶させられるんだよ、と言う静かな圧力を感じ取った。
「痛い痛い! わかった、わかったから弱めて!」
結局、僕が折れる形になった。彼女は力を弱めてでも腕を解くつもりはないようだった。
「僕、どのくらい寝てたの?」
「……一週間」
それは悪いことをしてしまった。僕はアイラの頭を撫でた。せめてもの償いのつもりだった。
あれからしばらくたった。外の太陽の色が
段々と赤みを帯びてきた。その間も彼女が僕を離すことはなかった。
「……ごめんね、レイ」
「何が?」
「私、レイのこと守れなかった」
彼女は、そう言って僕の胸に頭を擦り付けてきた。僕もそっと彼女を抱きしめて頭をなでた。
「別にいいよ、こうやって生きてるんだし」
「違う、そうじゃないもん」
そう言って彼女はまた黙ってしまった。すっかり日が沈んでしまっても彼女は出ていかなかったし、なんならそのまま寝息を立て始めた。
「また来ていい?」
次の日の朝、そんなことを言われて当然お断りしようとして、また腕に力を入れられそうになり、結局その日から完全に身体が治り切るまで彼女は毎晩僕と一緒に寝た。
用語『大魔導士』
魔術に関する任意の分野のうち八分野を極め、最難関の試験への合格、魔術師としての最高峰の技量を認められた者に与えられる称号。
全世界八つの魔術学院で教諭を勤めることができる。
……勤めない人もいる。
用語『東の魔女』
本名、ダイアナ・アレスト・フォーレンライ。
世界で八人しかいない『真理の裁定者』。
長年生きており、齢二千を超える。二千数百年前の大戦でルインと衝突。激戦の末敗れ、封印される。封印から解放されてしばらくの後、ヴァディゴスに保護される。その後はヴァディゴスと共に平穏に暮らすことになり保護者の役割を果たしていた。が、不思議なことにヴァディゴスに恋をしてしまい、そしてヴァディゴスも恋をする。暮らしぶりはそのまま森の奥に隠居し二人で余生を過ごした。
レイラからものすごく嫌われている
《来なさい》
魔術区分:招来魔術スペルキー
詠唱文
『来なさい』
裁定者の杖の召喚文を省略することができる
用語『魔女の杖(真名:裁定者の杖)』
武器区分:神造武器
召喚文
『出でよ、ヴァディゴスの化身
今一度、貴女に愛を誓おう
裁定者の杖は今ここに』
《産声》同様、刀匠ヴァディゴスによって作られたディゴスシリーズの第六番。
用語『霊力』
霊鉱石という石が常に発していたり、魔力が流れる際に自然と発生する。基本的に人間の意志で大きさを変えたりすることはできない。媒介となる魔力の操作を経由してそれらを引き起こす。因果改変を行うことはないが、辺り一帯の魔子に影響を及ぼすため、間接的に因果改変を行うこともある。
用語『真理の裁定者』
世界に八人しかいない、魔術を究めた先にあるとされる『真理の領域』に足を踏み込み、一つのテーマを会得した者たちの総称。
かつては九人いたが、一人除名され八人になった。
膨大な魔子をその体内に内包しており、神々に匹敵、あるいはそれ以上の者もいる。例外なく不老不死であるが滅びないわけではないため、その点で神々とはやはり絶対的な壁がある。
用語『ヴァディゴス』
本名:ヴァディゴス・アレスト・フォーレンライ
かつて、神匠と謳われた鍛冶師兼建築家。
彼の作品は名のある者の手に渡りその武功に貢献してきた。設計した建物は後世の者たちにとって建築学という学問の基礎となった。
魔女ダイアナと出会い結婚。子供はできないまま一生を終える。
循環の神を心から信仰し、神々の悲願である反逆者ルインを殺せる武器を作ることに生涯のほとんどを費やした。その結果生まれた十二の作品は現在そのほとんどが外界の人間の手に渡っていない。




