魔術大会本戦 ⑧
実はこれは3/15には完成していたやつです
策略とは、物事の手順をうまく進めるための道具である。知識をもとに状況を分析し、知恵を持って状況を予測する。しかし、それが容易にできるほど世界は単純ではない。故に、人々は幾重にも策略を巡らせる。多くの情報を手に入れ多くの予測を立てる。ことによってはそれができて初めて策略ということだってある。
《一週間前》
愛の派閥、地下訓練場にてレイはレティシアに指導を受けていた。槍を使った実戦想定の訓練だ。レイもレティシアも槍を構え、お互いに相掛かりの手合わせをしている。しかし、実力の差は歴然だった。
「グハッ!」
レティシアの石突がレイの胸を突いた。
「レイ君、休憩にしましょう♡」
「は、はい」
レイは胸を押さえながら立ち上がる。レティシアは手招きをし、そこへ向かってレイはゆっくりと歩いて行く。
「はい♡ お水♡」
「あ、ありがとう……ございます」
幾度となく繰り返されているこの相掛かり。レイは挫折とは何かを心に刻みこまれていた。
「レイ君♡」
水を飲むレイをよそに、レティシアは話し始める。
「あなた、本気の出し方知らないでしょ♡? いいえ、知らないというよりも、『手加減』してるでしょ♡」
その言葉にレイはハッと目を見開く。
「そういうつもりはないのかもしれないけど、どことなく『出し惜しみ』を今までもどこかでしてきたんじゃない♡?」
レイはレティシアに返す言葉がなかった。実際にレイは自分のことを優柔不断な性格だとは思ってるし、カリフィスでもそれが災いしたことは確かにあった。
「出し惜しみか悪いとは言わないわ♡ 私だって実戦なら初手は出し惜しみする♡ よっぽどの格上相手でないと初手から全力なんてことはしないわ♡ でも、レイ君の場合はそれを意図的にじゃなくて無自覚のうちにしている、それが問題なのよ♡」
それならどうすれば良いのかと、レイは尋ねる。それに対してレティシアは怪しく微笑みながら
「囮、そして演技♡」
と返した。
「すべてを欺きなさい♡ 敵も味方も、観客も審判も、自分さえも♡」
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魔術の上書き。それは古代から存在する魔術に対する対抗手段の一種である。古代言語から取ってきて『オーバードライブ』と呼ばれている技術だ。レイの《不動心》が本来存在しない因果をもたらす魔術に対して、本来の因果で上書きするように、魔術の上書き自体はそんなに珍しいことでもない。火に水を注げば収まるように単純なことだ。
『業火の法』
世の中に多くあるオーバードライブの一つがそれだ。周囲の魔子を喰らい魔術回路に流す。本来体内にのみ存在する魔子を超えた量を持って魔術を起動する、相手の魔力さえも利用して……それが業火の法。
アガリスの奥の手。
パチン
慌てふためくレイシナムたちを見て勝利を確信したアガリスの顔を歪めたのは一つの小さな指を鳴らす音だった。
瞬間、アガリスらが起動していた魔力回路中の魔子をつなぎ留める魔力が弾け、そして魔術が崩れた。
「は?」
全員の間の抜けた声が場を支配する。ただ一人を除いて……
「魔法陣が砕けただとおぉぉ!」
アガリスはそんな芸当が出来る人間はこの場に一人しかいないとレイを睨みつける。同じようにエイリス、レイシナムさえもレイを見つめる。
レイは再び指を鳴らす。
パチン
それと同時にレイに巻き付いていた泥の人形がドロドロと溶けてレイを拘束から解き放つ。
「貴様、貴様貴様貴様貴様きさまぁぁ!」
アガリスは奇声を発しながら杖を再び剣の形に変えてレイに斬りかかる。しかしその刃がレイに届くことはなかった。
『レイ様は私がお守りします』
アガリスの刃がレイの首筋を確かに捕らえ、円弧を描き襲いかかる寸のところで自律的に《産声》が動き、宙を舞い、防ぐ。
ジリジリと火花が散り、金属同士の擦れる甲高い音が辺りに響く。
「貴様! 謀ったな! コード使用の条件を欺いていたな! 味方諸共!」
その言葉に皆がハッと目を見開く。
レイは静かに笑っていた。
「策略とは、知識を持って今を解き明かし、知恵を持って未来を予見することです。でも、知識が間違っていたら……結果は火を見るより明らかです。そして敵を騙すならまず味方から……なんてね」
レイは静かに《産声》に手を添える。
次の瞬間、レイの姿が消える。
そして次にその姿が見えた時には全てが終わっていた。レイの手にはビリビリに破かれた魔法陣の破片が握られていた。
『し、試合終了! 勝者、愛の派閥!』
アナウンスの声にさえ、動揺が伺えた。
その様子を霧の窓を通じて三人の男女が笑って見ていた。




