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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
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魔術大会本戦 ⑨

《楽園での決闘・控え室》

「すいませんでしたああぁぁ!」

 控え室で二人の女性に向かって土下座をする男が一人。そう、僕である。

「いや、もう本当に! ここぞというときの切り札として取っておいたんですうぅ!」

 二人の女傑の顔は見えないけど予想はできる。実際に……

「あのなぁ、自分が何やったんかわかっとるんかや! あぁ!」

「ヒィィ!」

 いつもは淑やかな雰囲気と言葉遣いのエイリス先輩がなんだか不良のような詰め方をしてくるんだから。

「頭領からもなんか言ってやれ」

「うーん、とりあえず顔を上げて」

 レイシナム先輩の言葉に従って僕はゆっくりと顔をあげる。そこには鬼の形相の エイリス先輩と少し困った表情のレイシナム先輩がいた。

「まず初めに、私は怒ってます」

「は、はい」

「ものすごーく、怒ってます」

「は、はい」

「お前ははいしか言えんのか!」

「ヒィィ!」

 僕の淡白な返事が気に入らなかったのか、エイリス先輩が大声で怒鳴ってきた。

「エイリス、少し黙りなさい」

 レイシナム先輩は耳を押さえながらエイリス先輩に向けて冷たく言い放つ。それにシュンとしてエイリス先輩は一気に覇気を失った。そしてレイシナム先輩はため息をつきながら話し始める。

「レイ君、私が怒ってるのは私たちのことを信用してくれなかったことに対してよ。まぁ、誰があなたに入れ知恵したかなんて大方予想がつくけど……それでもやっぱり悲しいわ」

「はい、すみません」

 僕は正座したまま俯く。

「でもね、同じくらい感謝もしてるのよ」

 その言葉に僕はハッと顔をあげる。そこには少し困ったようなでも慈愛に満ちたような表情を浮かべるレイシナム先輩がいた。

「はぁ、わたくしはこれで失礼しますわ。決勝に向けて少し一人で頭を冷やします」

 そう言ってエイリス先輩はそそくさと部屋の外に出ていった。

「まったくあの子は……レイ君、座ってお話しましょう」

 そう言ってレイシナム先輩は右手で僕の左手を優しく取り、部屋に備え付けてあるソファーまで引いた。僕がレイシナム先輩の対面に座ると先輩はゆっくりと話し始めた。

「エイリスは私を神聖視しすぎてるのよね。私はそんな器じゃないのに……。エイリスの言ったことは気にしないでちょうだい。昔からああなのよ。私のいうことが絶対、私のいうことは間違いない、私の言うことこそが真実……そういった思い込みでもあるのでしょうね」

 先輩は「はぁ」と深いため息をついた。

「あなたは私をしっかりと信用してくれていなかった、私はそのことが悲しい。でも、私の作戦じゃ完璧じゃなかった。だから、逆転へと導いたあなたにはとても感謝してるわ。多分、あのままだと確実に負けてたわ。これからは私たちのことをしっかりと信用してちょうだい。特に、今日の夕方の決勝ではね」

「はい」

 僕の返事に満足したのか、先輩はうんうんと頷いた。

「それじゃあ、あなたの隠し玉、全部教えなさい」

 僕は自分のできること、《産声》ができること、レティシア先生から教えてもらった技術、魔術とその活用法のすべてを先輩に明かした。すべてを伝えたあと、先輩は考え込むようにして、

「意外に多かったのね。はぁ……それじゃあ、作戦の草案を考えるから二時間後に派閥塔の第三会議室に来てちょうだい。会議の後昼食、そして決勝よ」

 「またね」と言って先輩は部屋を出ていった。

(申し訳ないことをしたな……)

 僕は一人残された部屋の中で静かに反省していた。しばらくすると使者の方がいらっしゃって僕を一度学院まで送ってくれた。



《レイシナム視点》

 ゆっくりと部屋の扉を出て、私は一旦自分の部屋に向かって全速力で走った。私が走ったそばから疾風が吹いて木々や落ち葉を吹き飛ばす。使者の方が呼び止める声が聞こえたがそんなの一瞬にして後方の彼方。

 思いっきりバン! と自室の扉を開け、そしてまた勢いよく閉める。運よくエイリスは帰ってなかったようでこの醜態は見られずに済んだ。

「はぁ……はぁ……」

 私は肩で息をしながら 扉の前にへたりこんだ。ワラワラと震える右手を見ながら私は顔を熱くさせた。別に走ったから、運動したから熱いわけではない。

「て、手を……つ、繋いだ」

 初めて異性と手を繋いだ。私を紅潮させるにはそれだけで事足りた。練習の時にペタペタと筋肉を確かめるように触ったことはあっても、状況が違えばこうも意識するものなのかと驚かされた。別にペタペタと触ったときに興奮しなかったかと言われれば全然興奮したのだけど……。

「ごつごつ、してた」

 筋肉質で、男らしい手のひらだった。それにレイ君は細く見えるけど意外に筋肉質だ。いわゆる細マッチョっていうやつ。

「え、エッチだった」

 こういうのは良くない。かわいい後輩にこんな劣情を抱いてはいけないとは理解していた。なぜならこれは世の中が想像するようなピンク色、あるいはバラ色の淡い恋愛感情ではなくドロドロの紫色をした黒い濁りの籠もったただの性的な感情だったからだ。

 ただただ抱かれたい。

 心の奥で今まで誰にもいうことのできなかった欲望を満たしてくれるかもしれない男、いや雄に身体が震える。そんな感覚。

「抑えなさい、抑えなさい、抑えなさい!」

 私は肩を抱き丸まって自分に言い聞かせた。

「エッチなのはだめ、エッチなのはだめ、エッチなのはだめ!」

 ちなみに、そうこうしている間に三十分が経ち、後々の作戦立案を急ピッチで進めて慌てたのは言うまでもない話だ。


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