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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
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魔術大会本戦 ⑦

《レイ視点》

 広範囲殲滅魔術《白夜の天涙》は数ある体系化魔術のなかでも群を抜いて火力面に大きな性能を持つ。

『ここに来たれ! 《白夜の天涙!》』

 僕が唱えるのと同時に立体魔法陣が砕け無数の光の粒が空気中に漂う。全ては純白の、混じり気のない純粋な魔子。

「クソッ! 全員退避!」

 アガリス先輩が味方に向けて叫ぶと同時にみんな僕から離れていこうとするが、残念ながらそれは叶わない。

「させるわけないでしょう!」

「よく持ちこたえましたわ!」

 レイシナム先輩とエイリス先輩が岩陰から飛び出す。

(ドンピシャです!)

 



《数時間前》

「レイ、今日のあなたは囮兼最終兵器です」

「はい」

 僕たちは試合前にほんのちょっと軽く打ち合わせをしていた。

「攻めの姿勢は変わらないし、あなたを前線において相手を無力化するのも変わらない。でもトドメはあなたが決めるの」

 レイシナム先輩の言葉に少し違和感があった。

「僕ですか? エイリス先輩でもレイシナム先輩でもなくて?」

 今までだったら最後の締めはレイシナム先輩がやっていた。それをいきなり一年生の僕がするとなると技術的にも経験的にも不安の残る選択に思える。

「普通に考えたらあなたに任せるなんてありえないでしょうね。だって相手にとっての脅威はあなたの《不動心》と《産声》で真っ先に潰しにかかるはずたもの。アガリスは魔術の成績が良すぎて霞んでるけど体術だっていける、あなた一人を組み伏せるくらい状況が整えば余裕でしょうね」

 レイシナム先輩は肩をすくめながら「まったく、やっかいな奴よ」と少しおどけた口調で言う。

「だからこそのあなたよ」

 今度は打って変わって真剣な表情で話し始める。

「相手にとっての脅威はあなたそのものではないのよ。つまり、情報がない相手にとって『あなたが《不動心》を使うこと』こそが最も警戒すべきこと、あなたが攻撃魔術、それも特大の『白夜の天涙』を使えることなんて想定できていない。この心理的余白を突くのよ」

 そこでエイリス先輩が口を挟む。

「筋書きはこうです。まずレイが単独で行動します。そうすると相手は姿が見えない私達を警戒することになります。でも相手はあなたの《不動心》と同時に私たちが攻撃を仕掛けてくることを予想しているはず。それが最悪の台本ですもの。つまり、相手に取る選択肢は二つ」

 エイリス先輩曰く。一つ、僕のことを完全に無視してレイシナム先輩、エイリス先輩を狙ってくること。二つ、僕に無効化されない魔術を使って応戦してくる。

────

───

──


(今のところは二つ目!)

 本当に、レイシナム先輩の先見眼には驚かされるばかりだ。あの人は未来でも見えているんじゃないか、とでも言いたくなるほどに先読みが素晴らしい。

「やはりそう来たか! レイシナム!」

 しかし、アガリス先輩は一切の動揺を顔に出さない。

(まさか、想定済みだっていうのかよ!)

 僕は急いで魔術を発動させる。

 空気中にあった純白の魔子が少しずつ集まり、無数の水滴ほどの大きさの球になる。

「舞い踊れ!」

 僕の言葉と同時にそれらが一度天高く舞い上がり、雨のように、しかし、それとは比べ物にならない速度で振り注いだ。

 レイシナム先輩の予見通りならこの時点で勝敗は決まっている。そしてそうなるように、順調に、そして確実に事を進めて来た……はずだった。

「かかったな!」

 アンノウン先輩の一言が僕たちを戦慄させた。

「頭領!」

「わかってる!」

 アンノウン先輩とアガリス先輩が互いに駆け寄る。

(なんとなくだけどこのままあの二人を引っ付けちゃだめな気がする!)

 僕は《産声》を構えてそれを阻止しようとするが……

「あなたはダーメ」

 その言葉と同時に僕は無数の泥の人形に四肢を絡め取られた。

「なんだコレ!」

 なんとか抜け出そうと手足に力を入れて引っ張ったり押したりするがびくともせず、魔力回路の発熱も効果をなさなかった。《不動心》を警戒してか、しっかりと両手が叩けないよう大の字に固定されてしまった。

「あなたはここで見学よ」

「あんた、知らない先輩!」

「あらあら、一般公募枠の生徒には興味ないのかな? 一応同学年なんだけど……悲しいなぁ」

「なんのこれしき!」

 僕は口で《不動心》を唱えたが、少し泥の力が弱まっただけで依然として抜け出せなかった。

「なんで!」

「魔術は本人の欲望によって効果が左右される……常識よ?」

 まさかこの女がアガリス先輩の憎悪さえも打ち消した僕の『無欲』を掻き消すほどの欲望を隠し持っている可能性を完全に失念していた。それにこの女、《白夜の天涙》を軽々と避け続けている。

(なんなんだよこいつ!)

「エイリス!」

「わかってますわ!」

 先輩たちも危機を感じ取ったのかアガリス先輩とアンノウン先輩のところに向かって走り出す。

 しかし……

「やった」

 目の前の女が『アンノウン先輩とアガリス先輩が背中合わせの体勢になった』タイミングでそう言った。二人の杖が銃の形から、剣の形からもとに戻り怪しく光を放つと同時に、二人を囲むようにそれぞれの杖から紫色の魔力回路が流れ出る。

「まさか、立体魔法陣!」

「正解、別に使えるのはあなただけじゃないのよ?」

 エイリス先輩が「クソッ!」と呪詛を吐きながら走っていくが同時に結界が張られていたのか立体魔法陣の外縁で阻まれる。

 ものの数秒で魔法陣は完成したらしく、光が強まる。加えて僕の《白夜の天涙》の魔子さえも弾き返すことなくその回路のなかに吸収し、その規模を高める。

「感謝するぞ一年生! 使う魔術が《白夜の天涙》でな!」

 アガリス先輩は一瞬こちらを見てそう言った。言い表せない悔しさが僕に絡みつく。

「仰ぎ見よ! これが神話の時代の業火だ!」

 アガリス先輩が顎を少し上げ、見下ろすような視線で言葉を紡ぐ。

『《業火の法・薪尽火滅!》』

 僕たちの足元に魔法陣が展開され、紅く光り出す。

「逃げろ! レイシナム!」

 エイリス先輩がレイシナム先輩を咄嗟に突き飛ばした。その様子をアガリス先輩は憎々しい笑顔で見つめる、が……


 ────次の瞬間、パチンと指を鳴らす音が会場に響き渡った。


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