魔術大会本戦 ①
『試合終了! 勝者、終焉の派閥!』
楽園での決闘第七試合。終焉の派閥対愛の派閥の結果は一瞬で決まった。開幕レナ先輩があの黒い鎌を取り出して大振りに薙いだだけで見えない斬撃が会場全体に渡り魔法陣を破壊した。レイシナム先輩とエイリス先輩は二人ともその斬撃でお腹を切られ重傷を負った。観客席にいた僕を含めて全員が言葉を失った。
「あはは、ごめんねぇ」
ほかの人にバレないように保健室まで行ってみるとそこにはピンピンしたレイシナム先輩とエイリス先輩がいた。
「怪我はもういいんですか?」
「私たちは魔術師だよ? 魔術で治せるに決まってるでしょ」
それに、ここには優秀な医務官が沢山いるからねとレイシナム先輩はなんも気にしていなかった。
「こんなことは日常茶飯事ですわ。過去の魔術大会では死人が出たこともあったんです。それに比べたら幾分もマシですわ」
エイリス先輩も優雅に紅茶を飲んでて寛いでる。
「そうそう、レイ」
「はい、なんですか?」
「レイシナムから聞いたんですけど、あなた紅茶を淹れるのが上手らしいですわね。一杯振る舞ってはいただけないこと?」
そう言われて僕は紅茶を淹れてその場をあとにした。結局心配して寄っては見たものの紅茶を淹れされて終わった。ちなみに好評だった。
何はともあれ魔術大会二日目が終わりを迎えた。夜に反省会といって昨日と同じように会議を催したけど一日目ほど長くはなかった。おおよそ他派閥の分析も済んで対応策が出来つつあったからだろう。明日はいよいよ本選が始まる。アイラは魔導機兵戦、僕は術式解体と楽園での決闘に出場する。リファーは残念ながら予選敗退。バルは特性上、今回の行事に参加することはできないため観戦に徹するらしい。
アイラ、バル、リファーとで夜ご飯を済ませ僕は早めに寝ることにした。
《楽園での決闘・第二試合・控え室》
魔術大会三日目、そして明日の四日目は本戦が行われる。選りすぐりのメンツの試合は観客からも好評が集まる。そして僕の試合も今日から始まる。
「レイ君、準備はいい?」
「あまり緊張なさらないでくださいな」
「あはは、が、頑張ります」
術式解体の本戦は明日で今日は楽園での決闘に参戦することになっている。術式解体と違って楽園での決闘は人気競技。それに加えて本戦ならなおのこと観客は集まる。緊張しないなんてことはムリだった。僕の行動一つ一つが勝敗に大きく影響するはずだ。ソファーに座ってもじもじしているのを見かねたのか、レイシナム先輩が隣に座ってきて頭を撫でてきた。
「大丈夫よ。レイ君はエイリスと一緒に前衛を張ってくれればいい。来る魔術を全てかき消せばあとは私たちが何とかするわ」
「そうですわよ、私たちがあなたに求めているのは前衛としての戦闘技能よりも、前衛という場所から私たちを支えることですわ」
「始まる前に最後の打ち合わせをしましょうか」とレイシナム先輩が言って今回の作戦の復習が始まった。
「今回の相手は命の派閥。回復系魔術を得意としている派閥ね。予選から読み取れる作戦の傾向は死なない限り永久に回復し続けるその無限の生命力。まぁ、継続回復の魔術ね。怪我することなんてお構いなしに突っ込んでくるわ」
「確か、対処法は麻痺や氷漬けなんかの拘束する魔術でしたよね」
「そう」
命の派閥は聞いた話によると愛の派閥と仲がいいらしい。協力して合同訓練なんかも定期的に催され相手方の幹部とはなかなかいい関係が築けているという。しかし魔術大会となれば敵同士。
そんな命の派閥の得意とする戦術はゾンビアタックと言われるものらしい。一昔前に王都で流行った劇を参考にした戦術だと聞いている。ケガを負っても瞬時に回復し戦線に復帰する。
「でも、今回だけはそれは例外よ」
「レイ、あなたの魔術があれば相手の継続回復の付与を打ち消すことができますわ。そうすると私もレイシナムも拘束し続けるために魔力回路を作動させ続けなくても済むというものです」
「はい」
僕たちの基本戦略は「待ちの姿勢」らしい。相手が攻めてきて、それに対しての罠や迎撃魔術で対抗する戦略。レイシナム先輩が一番得意な戦術だという。
「今回の会場は闘技場。遮蔽物が一切ないから私の罠が一番見破られやすい場所でもある。だからエイリスとレイ君には前衛で相手にプレッシャーをかけてもらう必要があるわ」
「が、頑張ります!」
「楽園での決闘はトーナメント戦、順当に勝ち進めば最後に当たるのは一昨年の優勝した派閥の終焉の派閥。レナ先輩がいるところね。正直もう戦いたくないわぁ」
「同感ですわ」
「どっかで負けてくれないかな、無理だろうなぁ」とレイシナム先輩は愚痴をこぼす。
(……レナ先輩)
僕はレナ先輩に襲われた。あれ以降レナ先輩からの接触は皆無。廊下ですれ違うことはあっても僕の方は一切見向きしない。
(僕が弟だって気づいたんじゃないのかな……レイラ様に救うって宣言した以上何かしなきゃいけないんだけど、何がレナ先輩にとっての救いになるんだろう)
レナ先輩については不可解な点が多すぎる。ひとまず今から始まる試合に集中することにした。
「愛の派閥の皆さん、会場までお願いしまーす」
「あっ、はーい! それじゃあ行こっか」
運営の人から呼ばれ僕たちは会場の方まで向かった。
《闘技場にて》
楽園での決闘、本戦第二試合の試合会場は「闘技場」。昔はここで奴隷たちを戦わせて貴族たちが道楽に興じていたと聞いているが、改修され今では魔術学院が管理し魔術大会や体育祭で使われているという。負の遺産だったものが意外な形で再建されたと当時、一躍有名になったらしい。
『出場選手の入場です!』
そのアナウンスとともに僕たちは会場に入る。ガチガチに緊張していたけどエイリス先輩が尻をひっぱたいてくれたおかげで少し緊張がほぐれたと思っていたけどいざ会場に入ってみると観客たちが思ってた倍いてガクガクと震えてきた。
『東から現れたのは愛の派閥! 予選では終焉の派閥にのみ敗れた期待の派閥です! そしてそして! 西から現れたのは命の派閥! 普段は保健室勤務の彼女たちも今回ばかりは気張ってくれそうです! それでは両者宣誓をお願いします!』
『私たち愛の派閥は全力をもって戦い抜くと誓います』
『私たち命の派閥は神の加護を持ってこの命を尽くすことを誓います』
今までとは違ってアナウンスや実況の声が直ぐ側から聞こえてくる。
「緊張しないで、って言っても多分ムリだろうけど……とにかくアナウンスとか歓声は始まると聞こえなくなるから安心して」
「は、はい」
何に安心しろというのだろうか……。目の前に視線を向けるとそこには三人の女性がいた。今回は遮蔽が無いせいでお互いが丸見えだった。
「魔法陣はレイシナムが持ちます。私とあなたで守り切りますわよ」
「はい!」
僕は大声をあげて自分を鼓舞する。どうせ緊張してたって始まるんだ、それなら堂々としていよう!
『それでは試合開始です!』




