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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
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魔術大会二日目 2

エイリス先輩まじかっけー

《楽園での決闘・第五試合・北区・第三大温室》

 北区、それは何年か前に計画された王都構想によって魔術、魔法関連の産業が集中する地区である。そこには大温室と呼ばれる九つの薬草や、魔術の実験で使う植物、樹木を大量に飼育している最早森とも言える半球状の巨大飼育施設が存在する。リーヤシュヴァレン魔術学院はこの内の第三、第四、第五大温室を所有しており、これらは一年おきに魔術大会の時期には楽園での決闘の試合会場となる。そんな会場周辺では……

「ザッケンナコラー!」

「何してくれとるんじゃ!」

「私たちの育てた植物たちなのよ!」

 といったふうに魔術大学校の卒業生が団体で抗議運動を行っている。それもそうだ。放置されているとは言え大学校時代に必死に研究で育てた植物たちだ。思い入れもあるだろう。

 しかし、この運動を無視し、すべての植物を楽園での決闘で吹き飛ばす。このことすらも魔術大会の醍醐味の一つとなっている。

 内部の様子は毎年ダイアナの協力で事前に契約されている店、家庭、団体施設などに霧の窓が設置され、そこに試合の様子が同時中継で映し出される。特に大温室での戦闘は人気が高い。

『楽園での決闘、第五試合! 選手入場です!』

 アナウンスの声が会場とその周辺に響き渡る。それと同時に歓声と、今から農園が破壊されることを嘆く声が会場周辺に響き渡る。

「おわった」

「もうだめだ、おしまいだぁ」

「あぁ、わたしのりっちゃん」

 植物にりっちゃんと名前をつけるほどの愛着を持っている人間の嘆きの声。毎年この声の滑稽さをみんなゲラゲラと笑うのだ。人の不幸は蜜の味、不幸すらも愉悦。ここにいる人々はそういう生き方をしているのだ。

『第五試合は愛の派閥と嫉妬の派閥の対決です! この二派閥は何十年、いや、百数十年も前から良く言えば切磋琢磨、悪く言えば殴り合ってきた派閥です。それでは両者位置についたようですので互いに宣誓をしてもらいましょう!』

 次の瞬間画面はまずレイシナムに移り変わる。

『あっ、もうみえてるのかな? はいはーい、愛の派閥頭領のレイシナムです。相手は長らく厄介をかけてくる嫉妬のなんちゃらですね。皆さーんいつも通りを期待しててくださーい。愛の派閥はここに全身全霊で全力を尽くして戦うことを誓います』

『地味に意味が被ってますわ』

 エイリスのツッコミにほんの少し観客が笑いに包まれる。続けて画面にはアガリスが映し出される。

『嫉妬の派閥の頭領、アガリスだ』

 低いその声には確かに憎悪が乗っかっていた。

『私たちのところまでレイシナムの言葉は聞こえてこないがどんなアホ面で話していたのかは容易に想像できる。今日こそお前らに、自ら女皇を名乗る雌豚どもに膝をつかせてやる! ここに嫉妬の派閥は死力を尽くして戦うことを誓う!』

 その言葉に王都中の観客から感嘆の声と馬鹿にするような笑いが湧き上がる。ある人はその自信に感服し、ある人は「毎年負けていると言うのに何処からその自信が湧いてくるのか」と嘲笑う。

『では、試合開始です!』

 何にせよ、皆が期待する一戦がいま幕を明けた。



 競技「楽園での決闘」は通常三対三で行われる。お互いの初期位置は最低三百メル離れており見晴らしがいい会場以外ではなかなかお互いを視認することはできない。今回の大温室では尚のこと。初期位置には魔法陣が用意されており、これを無効化、あるいは破壊することで勝敗がつく。それ以外にも相手全員を無力化することでも勝敗がつく。

「レイシナム、結界と偽造をお願いしてよろしくて?」

「了解」

 勝敗条件の関係上一回も接敵せず相手の魔法陣を破壊するという戦術も存在する。それへの対策として定石とされているのが結界と偽造の二つである。結界とは自陣周辺に広大な魔力回路を展開し、敵がそれを超える際に生じる微細な魔子の揺れを検知する魔術の総称。敵が近づいていることのみならずその方角まで分かる。偽装とはその名の通り光の屈折率を乱し魔法陣を見えにくくするという魔術の総称だ。

『揺らぎ、隠し、繕え

 私は幻想を求む

《蜃気楼》』

 レイシナムが偽装の魔術を使い、周囲の十三カ所に蜃気楼が発生する。

『囲え、守れ、探せ

《愚者の足跡》』

 続いてレイシナムを中心に半径百メルの結界が生じる。

「予定通り十二カ所の囮と結界を張ったわよ。まだアガリスたちは来てないみたい。いつも通り、待ちの姿勢で行きましょう」

「わかりましたわ」

 そう言ってエイリスとレイシナムは罠を張り巡らせ始める。魔術的なものから物理的なもの、さすがに半径百メル全方角には展開できない。狭いが確実に目の届く範囲と自分たちの攻撃の射程内が重なるところにのみ罠を仕掛ける。ある程度仕掛け終わると同時にレイシナムが魔子の揺れを感じた。

「エイリス! 三時の方角から接近物体!」

「あいよ!」

 前衛にエイリスを据え、レイシナムは少し下がり杖を構える。エイリスは大地を強く踏み、コード使用で身体の血流を上げ身体能力を高める。

 直後、レイシナム達が仕掛けた罠が発動し魔術が起動する。

(思ったより早かったわね。何処からか監視されてるのか……とりあえず今は目の前の対処! 三時の方角に置いた罠は地雷と爆破だったはず! 見たところ起動したのは爆破だけ! それなら……)

 この間半秒未満。

「エイリス! 敵の接近まで五!」

 レイシナムは敵の接近速度を罠の位置と起動時間から算出しカウントダウンを始める。

「四!」

 カウントダウンが一秒。

「三!」

 また一秒と減っていくごとにエイリスの額から汗が流れる。

「二!」

 エイリスが拳を固め、魔力回路を集中させているのかゆらゆらと蜃気楼がたつ。

「一!」

「見つけたぞ! レイシナムうぅぅ!!」

 アガリスが前方の茂みから勢いよく飛び出してきた。右手に持つ杖の先は怪しく黒色の光に包まれている。

「エイリス!」

「了解!」

 次の瞬間、アガリスの杖とエイリスの拳が交わる。

『《擬・天撃!》』

『《宵闇!》』

 直ちに辺りは漆黒の炎に包まれた。あれほどの愛情をかけていたであろう植物の一角が灰燼と化した。

実は今日が誕生日なんですよねぇ

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