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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
36/50

魔術大会二日目 1

《術式解体・新人戦・控え室》

 僕は昨日の夜のレイシナム先輩との会話を思い出していた。

(『予定あけといてね』か)

 多分、先輩に悪気はない。からかってるつもりもないんだろう。

(でも、個人特訓の時やたらベタベタ触ってきたからなぁ、着替えも何回か見られたし)

 アイラも怒るだろうなぁ、と考えながらぽわぽわと部屋の中でくつろいでいた。

 僕の出場する『術式解体』は所謂早いもの勝ちの競技だ。運営から与えられた防御魔法陣をいかに早く解除するのかを競う。新人戦での最高記録が三十秒よりほんの少し早い程度、選抜戦や一般戦まで含めての最速は二十五秒丁度。

 そんな事を考えていたら扉を叩く音がした。まだ時間はあるはずだけどと思って扉を開けてみるとそこにはアイラとリファーがいた。

「やっほー!」

「やっほー!」

 ニコーっと笑って見せる二人。初見では気づけまい、片方が男だと。とりあえず僕は二人を部屋に上げた。

「それで、僕とリファーの時みたいに二人とも僕の応援に来てくれたのかな?」

 僕の対面にリファーとアイラが座った。二人とも僕が自分のために淹れたお茶をさも自分のものかのようにカップについで飲んでるんだから許せない。

「そうだよー、緊張してるかなぁってアイラちゃんと話してねぇ」

「で、どうなのよ調子は?」

「絶好調だよ。まぁ、正直魔人と戦ったときのほうがしんどかったかなぁ。それに比べたらマシだし術式解体は僕と一番相性がいい競技だからね」

 僕の答えにリファーは「チェ、つまんないの」といった表情を浮かべる。なんで?

「緊張してないならよかったわ」

 アイラの言葉と同時に扉の外から僕を呼ぶ声がした。

「それじゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい!」

「いってらー!」

 僕は部屋を出て会場まで向かった。



《アイラ視点》

 レイが出ていって部屋には私とリファーだけが残された。

「アイラちゃん、よかったの? そのまま行かせて」

 「抱きしめるつもりだったんでしょ?」とリファーは続けて尋ねてきた。

「まぁ、緊張してたらしてたかもだけど、あんなに自信満々なレイ久々に見たし」

 レイは普段割と内気だ。最近は本人もそれを気にしてるのかいろんな人と交流するように心がけているようにも見える。みんなにレイの良さを知って欲しい反面、レイのかっこよさは私が独占したいという気持ちも最近芽生えてきた。きっと、あの自信満々な顔を知ってるのは私とバルとリファーくらい。ホントは私だけのものであってほしいけど、それはわがままだ。

「でも、最近様子が変だって言ってて心配してたのはアイラちゃんでしょ?」

「……まぁ、ね」

 レイは普段同級生、先輩、先生と割と積極的に話している。入学したての頃は手探りって感じだったけど最近は交流の輪が広がってきているように見える。でも、何日か前を境にそこに陰りが見えてきている。

(絶対的な安心感を求める感じかな)

 はじめは自分らしくないなんて悩んでるのかなって思ったけど、見てる限りある人との交流が完全に途絶えている。

「心配なのは心配よ。でも、少なくとも今じゃない。レイが一番誰かを頼りたいって思うときにそばにいられれば、今はそれでいいわ」

 私はカリフィスで魔人と対峙した時を思い出した。あの時、私は死んでいたはずなんだ。一番非力だったはずのレイに覆いかぶされて守られたからこそ私は生きていられる。なら、私の命、身体、魂、記憶、感情は全てレイのもの。歪んでいるのは自負している。でも、それで構わない、レイとの繋がりを保つことができればそれでいい。

「そっか、それじゃあ観客席に行く?」

 その問いに私は首を横に振る。

「観客席に行くほどの競技じゃないわ。どうせすぐ終わるんだから」

「それもそっか」

 レイは至って元気だ。願わくば、その魂に陰りが生まれないことを……



《レイ視点》

 術式解体の会場は魔導機兵戦の様に屋外ではなく、体育館の一角で行われる。と言っても相当の広さはあるのだが。

 僕が着いた頃にはすでに何人か選手がおり、各々あらかじめ防御魔法陣のパターンを考えてきたのかノートや手帳を見て復習しているようだった。

『術式解体に出場する選手は目隠しをつけてください。所定の位置までは職員が案内します』

 そのアナウンスとともにみんなノートや手帳を体育館の端に置き目隠しをつけ、各々決められた場所に連れて行かれる。僕も例外じゃない。直前に観客席に目を向けてみたが、やっぱりアイラ、リファー、バルは来ていない。

(そもそも来なくていいって言ってたしね。すぐ終わる試合をわざわざ見るくらいなら別のやつ見たほうが楽しいだろうし)

 術式解体は人気が低い競技だ。理由は色々あるが大きな理由はその地味さだろう。同じような速いもの勝ちの競技よりも体を動かすこともなければ目に見えて戦略が分かるわけでもない。それを理解するにはそれこそ大学校生か教員でなくてはならないだろう。それ故にこの競技を観る人は総じて大学校の教授の方々か北区にある魔術関連の企業の引き抜き団くらいだろう。研究職を夢見ている人以外が出場することもあまりない。

『これより防御魔法陣を配布します。開始の合図があるまで目隠しを取ってはいけません』

 そのアナウンスがあってからしばらくの間紙のビラビラといった音が会場全体に響く。さらにしばらく待つとそれすらなくなった。聞こえてくるのは各選手の呼吸音くらいだ。

『始め』

 開始の合図は唐突になされた。僕は急いで目隠しを外し、防御魔法陣を視認すると両手を叩く。それと同時に解析する間もなく防御魔術が弾け飛んだ。

 当然の一位。二位とは二十九秒の差をつけての勝利だった。記録は〇・二五秒。大会新記録だった。

「……え?」

 一拍遅れて会場には困惑の声が響いた。



《楽園での決闘・一般戦・控え室》

 レイのバカみたいな記録はここまで届いていた。

「なぁ、レイシナム。さすがにやっちゃいけないことしたんじゃありませんか?」

「そんなことないわよエイリス。要項に魔術を打ち消す魔術の使用禁止を明記していない運営に問題があるわ。それに取れる点数はすべて取らないと」

 レイに術式解体に出るよう言ったのは実はレイシナムだった。始めは術式解体のコンセプトが『陣の解析と無力化』であって無力化だけをおこなうレイを出場させるべきではないとしていたが、どうも要項にはそれらしき記述が見当たらない。「それならもうよいのでは?」という感じで出場させた。

「相変わらず抜け穴を見つけるのが得意ですわね」

「作るほうが悪いのよ」

 そんな事を話しているうちに私たちの試合の時間になった。相手は宿敵……というより一方的に嫌悪されてる嫉妬の派閥。

「後輩がしっかり予選突破したんですもの私たちも鮮やかに勝ってみせましょう」

「はいはい」

 私たちは並んで会場に向かう。

「女皇は私たちよ」

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