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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
35/50

魔術大会一日目 3

《嫉妬の派閥・本部》

 嫉妬の派閥。それは明確な意思を持って愛の派閥と対立する派閥である。

「さて一日目お疲れ様」

 嫉妬の派閥を仕切る女頭領アガリス。彼女を中心として幹部そして選手たちが集まっていた。議題はもちろん魔術大会一日目の成績と二日目についてだ。

「さて、手元にある資料を見てもらうとわかるけど一日目はどこの派閥もあまり得点に差はないわ。でも気になることはある。まぁ、主に今回は三つだけどね」

 彼女は右手の人差し指、中指、薬指を立てて一本ずつ折りながら示す。

「一つ目、新人戦での愛の派閥の躍進。二つ目、選抜戦での終焉の派閥の躍進。三つ目、愛の派閥の見えない腹の底」

 それを聞いて一同頷く。誰が見ても今日のハイライトはこれだと言える三つの出来事だ。

「一つ目については圧倒的に地の派閥が有利な魔導機兵戦で地の派閥の選手を破った愛の派閥の女傑たち三人。愛の派閥の三人は全員本戦への出場が確定。その一方で本戦進出確実とされていた地の派閥の選手については五人中二人のみ、その他に氷、命、狩りの派閥から一人ずつ。計八名が本選への出場が確定。そして愛の派閥の選手の全員が魔法陣でしか行使できないはずの『魔法《残響》』を使ったこと。まぁ、私たちは新人戦の魔導機兵戦には出場表明してないからあまり関係ないね」

 アガリスは資料を見ながら話を続ける。

「次、一般戦、選抜戦での終焉の派閥ね。これに関しては例外的に頭領を務めているレナ・アレストライがやりすぎてる感がすごいわね。前まで見えなかった腹の中があらわになったような、そんな感じね。とりあえず本戦に出ることだけに意識を向けるべきね。選抜戦に出場する先輩方は頑張ってください」

 アガリスは憎悪に満ちたような顔をして「そして三つ目」と明らかに声を低くして話し出す。

「楽園での決闘の予選での愛の派閥の三人目の非公開。やってくれたわね」

 初日の今日行われた予選は四十のうち二十五、うち五個は二日目まで継続される。その五個の競技のうちに「楽園での決闘」が含まれている。

「全くもって度し難い! 三人一組の最も点数割合が高い種目に一人を欠場させて状態で出場させるなんて、それで人数不利のなか勝っちゃうんだから憎らしいったらありゃしない! 舐めてるのか! あぁ! 憎らしい憎らしい憎らしい!」

 アガリスは拳を握りしめ机を何度も何度も叩きつける。

「愛の派閥めぇ! 今年こそは貴様らを地の底まで引きずり下ろしてやる! 女王様気取りのゴミカスどもがぁ! 特にお前だけはひねり潰してやるぞ! レイシナム!」

 そう言ってアガリスは大理石の机を叩き割った。それを見て総長、右翼、左翼が押さえつけてなんとか鎮めようとする。

 それ以降、会議という事を忘れるほどの憎悪に飲み込まれたアガリスの暴走によって会議は全く進行しなかった。かくして嫉妬の派閥の一日目の全予定が終了した。



《終焉の派閥・本部》

 嫉妬の派閥同様、ここでも一日目の反省会、ならびに明日へ向けた会議が行われていた。

「さて、会議を始めようか」

 レナ・アレストライ。終焉の派閥の頭領である。本来派閥の頭領は七年生が務め、大学校生の八、九年生は一般生徒に戻るのが通例である。

「みんな知っての通り、ボクたちの派閥は五年前の事件からとても不利な状況にある。七年生が一人も存在しない今年は特にね」

 五年前、当時の二年生が王都の外に演習しに行っていた時、犯罪組織「破滅の狂人」によって全滅した。文字通りの殲滅、虐殺。大魔道士である教員もまた為す術なく殺された、あまりに痛ましい事件。

 七年生がいないことの不利、それは七年生のみしか出場できない競技が存在するためだ。

「今日の反省としては愛の派閥の『楽園での決闘』での動きについてね。まさか一人非公開のまま勝ち進んでるなんて思っても見なかったよ。楽園での決闘の予選は総当たり戦、ボクとレイシナムはあと一回ずつ勝てば本戦進出確定。明日はボクたちとレイシナムの試合がある。どんな動きをしているのかくらいは調べてくるよ」

 ここの派閥でもやはり愛の派閥の動向について結論を出しかねているようだった。

(それにしても、レイ君が出場していないのは気がかりだ。あえて隠しているのか、それともこっそりと変更権を使うつもりなのか……はぁ、計画に支障が出てきたわね)

「それと今日試合があって明日もある人はしっかり休んでね」

 レナは努めて明るく振る舞っている。圧倒的不利のなかでも物怖じしない様子に下級生、九年生までもが、尊敬の眼差しを向けた。



《レイシナム視点》《愛の派閥・本部》

 すでに一日目の会議を終え、私は一人で座っていた。

「はぁ…………」

 深い溜息をつき、右手で眉間を押さえる。

「全く、難儀なものね。こんな時にもし彼氏がいて、抱きしめられたらどれほど気持ちがいいか……」

 魔導機兵戦でアイラちゃんが見せてくれた《残響》をアイラちゃんのみならず皆が使えたという事実。これに伴って上院の方から研究協力の嘆願書という名の命令書が届いた。

「上院からの提案なんて断れるわけないわよー。せめて大会が終わるまでは待ってもらわないと……あぁー! もう! 考えることが多すぎるぅ!」

 私は手足をばたつかせて赤子のように愚痴をこぼす。しかし、どこからともなくいい紅茶の匂いが漂ってきた。

「お疲れさまです、先輩」

 そう言ってレイ君がお茶を持って現れた。

「紅茶淹れたんですけど……いりますか?」

 急に現れたレイ君に驚きつつも可愛い後輩の淹れた紅茶を飲めないだなんて先輩失格だと思いありがたく受け取った。

「あ、おいしい」

 一口飲んでみて思わず言葉が口からこぼれた。

「お口にあったならよかったです」

 レイ君はそう言って私の隣に座る。レイ君は私に話があるようで何処かソワソワした様子だ。それを汲み取って「どうかしたの?」と優しく尋ねる。

「あの、楽園での決闘での僕の無茶振り聞いてくれてありがとうございます」

「ふふっ、それなら問題ないわ。あなたは秘密兵器なんだもの、もっと先輩を頼ってくれてもいいのよ?」

「いえいえ、これ以上先輩方に迷惑はかけられません。それより先輩、何か悩み事ですか?」

「えっ、あぁ……まぁねぇ」

 気遣いのできる後輩なのか、私があからさまに不機嫌な悩み様だったのかはわからないけど、心配してくれたようだ。

「アイラちゃんを含めた魔導機兵戦の出場選手についての件、楽園での決闘の件、その他にも他派閥の動向が気になる点は多いわ」

「す、すみません」

 楽園での決闘の話をしたからなのかレイ君は少し申し訳なさげに謝ってきた。

「いいのよ、おかげで多くのミスリードを与えられたわ」

 そう、メリットがあったからこそ私は予選では不利になりうるレイ君の提案を受け入れた。

「まず第一に私たちの連携のブラフ、二人だけしかいないときの連携と三人のときの連携とは全くもって別物、対策させないまま本戦に勝ち進めば私たちが圧倒的に優位に立てる。第二に出場選手変更権を使用していないこと、つまり途中で戦術を大幅に変える権利が私たちには二度残されていること。そして第三に嫉妬の派閥は荒れ狂ってるだろうし、何処の派閥も私たちの動向に釘付け、そうなるとやっぱりレイ君に目は行かなくなる。秘匿していたとは言え、事前に私たちの動向を察してレイ君が出場すると思ってた派閥もその考えを一旦捨てなくてはならない。事前に申請さえしていれば欠席扱いとして出場させずに済むというあなたの考えは私とエイリス二人で戦うという不利益を差し引いても余りある利益を生んでるわ」

 だから気にしないでと私は声をかけたがやはり何処か後ろめたいようだ。しょうがないなぁと思って私はレイ君にデコピンをした。

「あイタッ」

「そんなに後ろめたいなら明日の術式解体の新人戦の予選、しっかりと勝ちなさいね」

 こういう時は交換条件のようにすると相手の後ろめたさはある程度軽減されるものだ。人というのは無条件のものに基本的に恐怖する。それなら条件を与えればいい。レイ君にもそれは通じたようで顔が明るくなり「はい」と返事をしてくれた。

「ならよかったわ、紅茶ありがとうね。お礼に今度おすすめのお店連れてってあげるわ。予定あけておいてね……じゃあ、おやすみなさい」

「あっ、お、おやすみなさい!」

 なんとも可愛らしい後輩じゃないかますます愛でたいと思って私は本部を出た。早めに寝ないと明日の競技に支障が出てしまう。可愛い後輩が考えた作戦を成功させるためにもしっかりと予選で勝たなきゃね。

「にしても紅茶上手だったわね。これなら私もとびっきりの店に連れて行かないと」

 そこまで言って気づいた。

「あれ、もしかしてこれって………………デート?」

 生まれて二十二年、男の子と初めて二人っきりで出かけることになりそうだ。

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