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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
34/50

魔術大会一日目 2

《アイラ視点》

 試合開始を告げるアナウンスとともに相手選手が詠唱を始める。

『土の王よ、ここに現れよ!

 全てを蹂躙し私の望みを叶えなさい!

《土の精霊!》』

 相手がおおっぴらに詠唱してくれたおかげで相手の魔術がなんなのかすぐに分かった。土系統魔術、土の精霊。任意の土の塊に精霊を宿し傀儡とする土系統魔術のなかでも中位に位置する魔術。これを初手で出してくるあたり短期決戦と見て取れる。相手の残りの土の量を見る限り七割程度を使って土の精霊を使ったようだ。

(詠唱するなら静かにしなさいよね)

 私も作り出さないと話にならないから詠唱を始める。

『《生まれろ》』

 私は土の三割ほどを使って小型の動物型の人形を三体作り出す。外見としてはいつかに討伐した魔獣の見た目と同じ。

「……コード使用」

「ちょっと違うけどね」

 相手が私に向かって話しかけてきた。会話自体は禁止されていない。それで他者を妨害するのならそれ相応の処遇が与えられるがこの程度なら問題にはならない。

「でも、その程度の人形で土の精霊がどうにかなるとでも!」

 相手の言葉とともに相手の人形がこちらに向かって突き進んでくる。

『《回避》』

 私は全ての人形に回避を命令したがそれが叶ったのは内二体だけだった。すぐさま散会の命令を出し二体が同時に破壊されるのを防ぐ布陣に置く。

「ハハッ! あなた、さては土魔術は苦手ね! 動きにキレがないわよ!」

 相手はそう言って私から見て右側の人形に攻撃を仕掛けてきた。

『《回避》』

 しかしそれは叶わず無残にも砕かれる。

「ハハハッ! ほらほらどうしたのよ! 追加で召喚したらどうなのよ!」

 相手が身を乗り出しながらそんな事を言ってきた。私はイライラする気持ちを抑えながら相手に向かって言い返す。

「安っぽい挑発ね。《生まれろ》」

 とは言え残りの一体が壊れた時点で私の負けになる。追加で四体を私は召喚する。

「いくら出そうと無駄よ! 破壊し尽くしなさい!」

 相手の人形はその言葉に従うように私の人形たちに向かって突進してくる。

『《穿て》』

 私は相手の人形の膝の関節に向かって自分の人形二体を突っ込ませた。私の人形が砕けるのと同時に辺りには砂ぼこりが舞う。それと同時に会場が沸く。

「クソッ! 精霊よ、砂埃を晴らしなさい!」

 土の精霊がその巨腕を振り回すと同時に砂ぼこりが消えていく。盤面に残っているのは膝関節が少し削れた土の精霊と私の人形三体。すでに私の残りの土の量は三割ほど、つまり相手と同じ。

「何か奇抜なことしてくるのかと思ったけど、どうやら私の勝ちみたいね」

 相手は自分の勝ちを確信したのかそんな事を言ってきた。その傲慢な姿勢に思わず眉がピクピクと震える。

「あなたの土の残りも三割、私も三割だけどあなたの人形はすでに何体も砕かれている。私の人形は少しの傷があってもまだまだ動ける! 愛の派閥なんて所詮、ビッチの集まりだものね!」

 高笑いをする相手にそろそろ額の血管が切れそうになる。私もここまで煽られるとそろそろ堪忍袋の緒が切れてくる。いや、キレた。

「ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるさいわねぇ」

「は?」

「うるさいって言ったのよ」

 もういいや、必要な情報は集まった。そう思って私は切り札を使う。

『《レイ! 結婚してー!》』



《レイ視点》

『レイ! 結婚してー!』

 アイラの唐突な愛の告白が会場に響き渡る。それと同時にピンク色の光が相手の人形の中に入り込んでいく。

「なっ!」

「フュー! お熱いねぇ!」

「お熱いねぇ!」

 バルとリファーが茶化してくるが僕としてはたまったものじゃない! 恥ずかしさのあまり全身の血が煮えたぎるように身体が熱くなった。

「いきなり何言ってるんだよアイラ!」

 そう思っていたがどうやらフィールドの様子がおかしい。

「いきなり愛の告白とか狂ったの? まぁいいわ! 精霊よ、破壊し尽くしなさい!」

 アイラの相手、メリオダスさんだっけ? その人の命令を人形が受け付けない。

「何してるのよ! 早く動きなさい!」

 メリオダスさんが何度も何度も命令するがやはり動かない。

「アレって」

 バルが感づいたかのようにつぶやく。

「そうだよ、『愛の隷属』。アイラの魔術だよ」

 答え合わせは済んだ。

『自壊しろ』

 アイラの低い声と同時に相手の人形がパァンと弾け飛んだ。

「は?」

「は?」

「え?」

「え?」

 会場が疑問の声で満ちる。みんなの困惑した顔とは裏腹にアイラは腕を胸の下で組み、胸を持ち上げ強調し手を頬に添えて相手を見下すように言葉を紡ぐ。

「泥遊びは楽しかったかしら?」

 そのセリフを聞いて僕もバルもリファーも「エゲツねぇ」と煽りセンスに脱帽する。

「な゙ぁ゙め゙ぇ゙る゙ぅ゙な゙ぁ゙!」

 相手も怒りで我を忘れたのか高速で魔術を使用した事が功を奏し、核まで弾け飛ぶ前に残りの土を使って先ほどよりも小さいが密度の高そうな、そしてより頑丈に見える人形を作り出す。それを見て観客たちは大いに歓声を上げ熱狂する。しかし、そんな様子でも一切気にする様子の見せないアイラ、それどころか「はぁ、バカの一つ覚えってこういうことよね」と言って煽る始末。

「クソッ! ぶっ壊してやる! 『壊し尽くせ!』」

 その命令とともに人形はドスンドスンと重い足音を立てて地面に大きく、深い足跡を残しながらアイラの残りの人形たちに迫る。傍から見ればアイラのピンチ。しかしそんな状況でもアイラは笑っていた。

「ご照覧ください! これが神話の時代に作られた、至上、最強、無慈悲の対抗術式!」

 むしろこの状況を待ちわびていたと言わんばかりのセリフで迎え撃つ。

『《残響!》』

 アイラが呪文を唱えた途端、辺り一帯が魔力の波動で包まれる。キーンという甲高い音とブォーンという腹の底を揺らすような音が会場全体に響く。思わず耳を塞ぐほどの大音量。無論その音圧に耐えきれず、相手の人形は木っ端微塵に砕けた。アイラの人形も一体、また一体と砕けていく。

「バカなの! 相打ち狙いだなんて!」

 リファーがそんな事を言った。確かに、アイラの人形は壊れてしまった……一体を残して。

 音が鳴り止んで試合終了の合図が流れる。

『試合終了! 勝者! 愛の派閥所属! アイラ選手!』



《愛の派閥・本部》

 そこには愛の派閥であるが試合に出場しない、あるいは試合まで時間がある生徒が集まっていた。所謂本部のような場所だ。真理の裁定者であり、東の魔女の異名を持つダイアナ・アレスト・フォーレンライの協力のもと各種目の中継が行われていた。

「さて、ナリス、ニリス説明しなさい」

 愛の派閥の本部では頭領であるレイシナムの前に右翼、左翼担当の双子が正座させられていた。

「何で一年生が《残響》を使えるの? 確か魔導機兵戦での後輩の指導はあなたたちに任せてたはずよね?」

 そう言ってレイシナムは静かな怒りをあらわにする。

「頭領、落ち着いて」

「そうそう、言い分聞いてほしい」

 そう言って双子は弁明をした。

 そもそもこの競技で地の派閥以外が出ることは不利であること、地の派閥はここでの勝利を疑っていないから油断していること、それを突くには突飛で強力な魔術か魔法が必要なこと、ちょうどいいのが《残響》だったこと、魔法陣で使わせてたらいつの間にかアイラを含む全ての一年生がコード使用で使えるようになっちゃったこと。

 つつみ隠さずすべてを話した。それを聞いてレイシナムは「はぁ…………」とため息をつく。

「あなたたちの言い分はわかったわ。確かに私たちみたいに精神干渉系や付与魔術の使い手はこの競技には不向きね」

 その言葉に双子は「わかってくれたか」と安堵の表情を浮かべる。

「でもね」

 しかし、そのひと言でこの空気感は一変する。

「《残響》は魔術の因果改変の残りを波として増幅させる『魔法』よ。コード使用とは言え魔法陣なしに使ったとなれば……考えただけでも恐ろしい」

 レイシナムは新入生の思いがけない実力を少し嬉しく思う反面これから起こるであろう後々の事務処理のことを考えてどうしようかと途方に暮れた。

「取り敢えず、ナリスとニリスには面倒事が起こったら全て丸投げするから覚悟してなさい」

「え?」

「え!」

 双子は絶望した。



《アイラ視点》《魔導機兵戦・新人戦部門・控え室》

「アイラ!」

「おつかれぇい、アイラ!」

「アイラちゃーん!」

「レイ、バル、リファー来てたんだ!」

 控室に戻るとそこには見知った三人がいた。

「お疲れ様! アイラちゃん!」

「ありがとう! リファー!」

 私たちは備え付けのソファーに座った。私の隣にはリファーが、対面にはバルとレイが座った。隣のどこからどう見ても女の子にしか見えない男の子から甘い匂いがする。

(ときどき、本当にこの子が男の子なのか分からなくなるわ)

 私にとってリファーは妹みたいなものだ。人懐っこくて甘え上手な妹。

 そんな事を考えていたらレイが急に私の名前を呼んだ。

「さて、アイラ聞かせてよ。よりにもよってなんで『結婚』にしたのかな? 『好き』とかでもできたよね?」

 その質問に私はドキッ! とした。

「な、なんでって……えぇっと」

 私はしどろもどろになった。なんでかなんてあまり理由はない。強いて言うなら私がレイのことが好きだから、変な虫がレイの近くに現れる前に私のものだって宣言したかったからだ。

「まぁまぁ、レイの言い分もわかるけどわざわざ女の子にそれを聞くのはさすがに野暮ってもんだよ」

 リファーが援護射撃を撃ってくれて、レイが「それもそうか」と丸く収まる。私はリファーに親指を立てて「ありがとう!」と伝えるとリファーもニッコリと笑って「問題ないぜぇ!」と返してくれた。

「なぁなぁ、にしても最後のやつ凄かったけどアレなんなんだよ」

 バルがいつ言おうかいつ言おうかと悩んで、今だ! といった様子で質問してきた。

「あぁ、《残響》のこと?」

 バルは頷く。私は少し悩んで右手の人差し指を立てて唇に添えて「他派閥のバルには秘密」と答えた。


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