魔術大会一日目 1
リーヤシュヴァレン魔術学院魔術大会は四日間に渡って開催される。一日目、二日目は予選。三日目、四日目は本選。競技数は二十。内十種目に一年生のみが出場できる新人戦の枠、大学校生のみが出場できる選抜戦の枠が存在する。実質的に四十種目、それぞれの競技に基礎配点が割り当てられ一位から五位までで分割される。総合得点が最も高い派閥の優勝となる。
そんな熱狂の初日、僕たち愛の派閥の控室は……妙な緊張感に包まれていた。
「愛の派閥の皆さんおはようございます。昨夜はしっかり寝れましたか?」
派閥ごとの決起会。競技が始まる前に派閥ごとに集まっていた。レイシナム先輩ら幹部が前に立ち演説をしている。
「皆さんの顔に闘気が満ち満ちていて私はうれしい限りです。さて、私たちが今回出場する競技は合計で三十五、無論すべてで優勝するつもりでいてください。特に一年生、この大会の熱気に当てられないようしっかりとついてきてください。では総長、決起の咆哮を」
レイシナム先輩と入れ替わるようにしてエイリス先輩が前に立つ。大きく息を吸い込み、胸を張る。
「お前ら気張れ! これは戦争だ! 派閥の誇りと威信をかけた戦争だ! であれば死するその時まで立て! 戦え! 我々はここでの女皇と成るのだ!」
一年生は皆、呆気にとられていたが上級生の先輩方が一斉に「オーッ!」と咆哮を上げる。それに乗っかるように一年生も戸惑いながら叫ぶ。
「栄冠を手にし、真に女皇として返り咲こうではないか同志たちよ!」
エイリス先輩はその迫力ある演説を終えた後倒れた。
「えっ」
一年生は皆、呆けた。しかしやはり上級生はさも当たり前かのような様子で立っている。
「一年生は知らないはず」
「説明、総長の咆哮は酸欠で倒れるまでがセット」
「心配することはない」
「エイリスは頑丈、もうそろそろ起きる」
右翼、左翼の双子の先輩が解説してくれる。そんな事よりも僕とリファーは死ぬほど気まずかった。それこそエイリス先輩の心配なんてどうでもよいほどに。
「ねぇ、リファー」
「うん、言いたいことわかるよ、レイ」
僕とリファーは顔を見合わせて、声を合わせた。
「女皇って」
「僕たち」
「私たち」
「含まれてない」
「含まれてないよね」
はぁ…………………………ここでもハブられるのか。
《魔導機兵戦・新人戦部門・控え室》
私は自分の出場する種目の控室に来ていた。
「大丈夫よ、アイラ。私ならできる」
自分に言い聞かせて、鼓舞する。その時扉をノックする音が聞こえた。
「アイラ、入ってもいい?」
レイの声だ。後ろから「アイラちゃーん、入れてー」というリファーの声まで聞こえる。私の強張った顔がほぐれ、ふと笑みを浮かべて扉を開ける。
「もう、試合前なのよ」
「ごめんごめん、でも様子見ておきたくてね」
私は取り敢えず二人を中に上げた。
「調子はどう?」
リファーのその質問には素直に「まぁまぁね」と返した。
「でも、緊張しすぎて心臓バクバクよー」
私がそう言うと二人とも何とかして緊張をほぐそうとしてくれたのか、色々と話しかけてくれたが私の緊張は一向に治らない。でもさっきよりかはマシだ。
「一年五組、アイラさん用意できてますか?」
係員がドアを開け、次だから用意しろと言ってきた。
「じゃ、じゃあ行ってくるね」
用意を済ませていた私は部屋を速やかに出ようとしたけど「ちょっと待って」とレイに呼び止められた。
「なに?」
私がそう言いながら振り返ると、レイは私を思いっきり抱きしめてきた。
「ふぇ?」
「はわわわわ!」
リファーが手で目を覆いつつも指の隙間からチラチラと見てくる。
「頑張ってね、応援してる」
耳元でレイの声が響く。ゾワゾワと脊髄を通って全身に響くかっこいい声。ビクビクって肩が胸がお尻が強烈な快感に襲われて震え、全身の骨が抜けて身体に力が入らなくなる感覚に襲われたけど寸のところで留まった。
「も、もう! 急にしないでよ! じゃあね!」
私は素っ気なく部屋を飛び出したが頬はたるみ切って口角は上がっていた。浮足立ってさっきまでの緊張は何処へやら私は会場まで向かった。
私の出場する『魔導機兵戦』それは土魔術で作り出した人形たちを操作して戦い合う競技。一対一で行われ術者への攻撃は禁止、人形は合計質量が一トンの土の塊が用意されそれを使って生み出す。相手の人形をすべて破壊し利用可能な土を無くす、あるいはフィールド上に存在する人形が無くなる、あるいは相手の魔力回路暴発をもって勝敗が決する。その他にもいろいろと細かいルールがあるが、とにかく……
「ぶっ壊してやる!」
レイに抱きつかれた私は最強なんだから、ここ二ヶ月の成果見せつけてあげるわよ!
《レイ視点》
「あっ、おーい! こっちだよこっち!」
僕とリファーは控室から戻り観客席まで来ていた。
「席取ってくれてありがとう、バル」
「いいってことよ!」
僕とバル、リファーはアイラの出場する競技「魔導機兵戦」を見に来ていた。
「なぁ、アイラの使える魔術ってあのスキスキだーいすき! の魔法だけじゃねぇの? 土系統って言う明らかに優遇される派閥がある競技に出るなんて意外だったぜ」
始まる直前にバルがそんな質問をしてきた。確かに、僕は派閥としてアイラの練習の様子を見ていたけど他クラスで他派閥ともなればバルは知る由もない。
「見ていればわかるよ、アイラ曰く秘策があるらしいしね」
「そっかー、あむ」
バルはあらかじめ何処かで買っておいたのか焼き菓子を食べながら返事をした。
『魔導機兵戦、新人戦、第三試合! 選手入場です!』
アナウンスの声が会場に響き渡る。
『東から現れたのは地の派閥所属! メリオダス・グレンジャー!』
アナウンスのひとこと一言に観客の大きな歓声が付随する。割れんばかりの歓声が拡声器を用いたアナウンスよりも遥かに会場を沸かす。
『西から現れたのは愛の派閥所属! アイラ!』
「がんばれー!」
「おっしゃー! やっちまえ!」
「キャー! アイラちゃーん! がんばってー!」
僕たちは三者三様の応援をした。声が届いたのかアイラは僕たちの方を向きほほ笑んで手を振り返してきた。
『両者位置につきました。審判の合図で試合が開始されます』
アナウンスのひと言で会場のざわめきが嘘のように消える。鳥の鳴き声や風の音が聞こえる中、それを断ち切る試合開始の「ゴーン!」という合図が会場に響き渡った。
『試合開始です!』




