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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第三章「魔術大会編」
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策謀の始まり

時系列は大会より前です

《愛の派閥・地下訓練場》

「こんなところがあったんですね」

「はい、ここなら他派閥に見られる心配もありません。隅々まで掃除しようとすると時間がかかるせいで普段使いには少し向いていませんが、まぁここ数日で頑張って掃除しました」

 僕とレイシナム先輩は地下訓練場に来ていた。ここへは特殊な道を通ってでないと来ることはできないらしく、その道は代々頭領にしか教えられず僕は目隠ししたまま手を握って連れてこられた。目隠しを外すと辺りの作りに圧倒された。

「では私は助っ人を連れてきますのでしばらく待っててください」

 そう言ってレイシナム先輩は来た道に戻っていった。僕も後からついて行ってみようかと思ったが、それに気づいたレイシナム先輩から「ここから先は冗談抜きで迷宮です。迷っても助けてあげられませんよ」と釘を刺され、おとなしく待つことにする。

「にしても本当に大きな場所だな」

 闘技場とでも言うべきか、観客席までついている。昔の先輩方は何がしたくてこんなものを作ったのか。それに筋トレ室などの多くの施設が備わっている。興味本位で扉を空けてしまったが大量のほこりが宙を舞い思わずせき込んでしまった。ここは掃除されていなかったようだ。

「レイくーん!」

 しばらく観客席で待っているとレイシナム先輩が戻ってきた。隣には……なんか見知った人がいる。

「もう目隠し外してもいいかしら♡」

「あっ、すみません」

 そう言って目隠しを外した女性。そう、レティシア先生だ。

「んー♡! ここに来たのも久々ね♡」

 レティシア先生は辺りをぐるりと見渡して懐かしさに耽っている様子。

「では、レティシア先生後はよろしくお願いします」

「分かったわ、レムちゃん♡」

 ……レム、ちゃん? 誰のことだろうかと一瞬思ったがよくよく考えてみるとここには三人しかいない。みるみるうちにレイシナム先輩の顔が赤く染まっていく。

「ちょっ! 先生! こ、後輩の前ではその言い方しないでくださいって言いましたよね!」

「えぇー、なんでー♡ 可愛いじゃない♡」

「そういう問題じゃないんですよ!」

 慌てふためくレイシナム先輩が少し可愛く見えた。

「レイシナム先輩、結構可愛いニックネームなんですね」

 僕が思わずクスクスと笑いながらそう言うと一瞬で闘技場の壁まで吹き飛ばされた。

「ぐへぇ!」

「あらあらあらあら♡」

「フン!」

 レイシナム先輩は足早に出口に向かっていった。

「大丈夫♡?」

「だ、大丈夫です」

 手加減してくれたのか思ったよりも怪我はない、まぁかすり傷が五、六箇所できたが……。それにしてもこの学院の女性たちはなんて力強いのだろうか……

「念のため回復魔術をかけてあげるわ♡」

 レティシアは僕の額に人差し指を添え詠唱を始める。

『逋偵@縺ョ轤弱h縲∝す繧堤剪縺♡

《繧「繧ケ繧ッ繝ャ繝斐が繧ケ》』

 聞き取れない言語、しかし、先生の言った通り魔術だったようで僕は一瞬にして炎に包まれた。

「アッツ! ……っくない?」

 不思議な感覚だった。炎に体は包まれているのに熱くもない。なんなら心地良い。

 次第に炎は収まり体の傷は癒えていた。

「先生、今のは一体何ですか?」

 僕は聞いたことのない言語を使った魔術という点に好奇心を刺激され先生に質問した。

「アレは原初の魔術の一つよ♡ 原初の魔術っていうのは、神々が恩恵として魔術を与えるよりも前にこの世界の法則に気づき、人間が己の力だけで開発した魔術のことよ♡ 習うのは三年生だったかしら♡」

 そう言ってレティシア先生は僕に手を差し出す。僕はその手を握り立ち上がった。

「ありがとうございます」

「ふふっ♡ いいのよ♡ そのかわりまたバル君の情報頂戴ね♡」

 僕は苦笑いした。僕は一旦観客席まで移動し、レティシアは壊れた壁を直した。

 その後、レティシア先生は僕がこれから魔術大会までにできるようにならなくてはいけないことを示してくれた。

「まずレムちゃんから頼まれてることはあなたに攻撃魔術を覚えさせ実戦で使えるくらいまで仕上げること♡ そしてあなたの魔術《不動心》だったかしら♡? それを無詠唱、あるいはコード使用で使えるようにすること♡」

「コード使用?」

「あら、まだ習ってなかったかしら♡」

 頷く。まだ魔術基礎論では魔術とは何かとか、魔術の原理そのものを理解するための理論の分野しか授業されてない。

「コード使用っ言うのはね♡ 魔術の詠唱を別の動作に置き換えることよ♡ 詠唱は魔術回路の組み立て、そして魔子を動かすこと、この二つのステップを内蔵しているわ♡ この二つの動作を別の動きに移し替えることよ♡」

「別の動作?」

「そうよ♡ 私がよく指を鳴らして魔術を使ってるじゃない♡ アレのことよ♡」

「あー」

 僕は理解した。そう言えば先生は詠唱せずに指を鳴らして魔術を使うことがあった。レイシナム先輩も確か指を鳴らしていた気がする。確かに指を鳴らして相手の魔術を打ち消す……かっこいいかも!

「他にも私が個人的にあなたに教えたいことを全て教えるわ♡ ってことで♡! これから毎日ビシバシ鍛えていくから覚悟してなさい♡」

 僕は大きな声で「はい!」と返事をした。この事を後悔するのは次の日のことだった。



《無の狭間》

「レイにはあの教師がついたのね」

 レイラはレイの様子を観察していた。

「まぁ、あの女ならレイにベタベタ触れたり、誘惑したりなんてことはないでしょう」

 レイラはいつかのように指を鳴らしてソファーを作り出す。そこに横たわり、ふと考え事をする。

「まさか助けるって選択肢になるなんてね。意外ではないけど……」

 考えてないは嘘だが、考えたうえで放棄した考えであったのは事実だ。

「まぁ、これに彼が介入することはないでしょう。それをするほど彼もバカじゃない」

 レイにはディゴスシリーズの第三番を渡した。このことはここから先、ある意味彼にとっての呪いになるだろうとレイラは考えた。

「アレストライ家に興味を持たないように仕向けてたのにね……まぁ、姉弟の因果はそうそう断ち切れないということか」

 レイラはそのままため息をつき、物思いにふける。

「姉弟……ね。エルフィは今頃どんな顔をしてるのかしら」

 神ですら及ばない人外。人の域を超え、神の域すらも超えた超越者。

「いつか会わせてあげるわ。循環の神として……いいえ一人の村娘として、ね」

 巡り合った先で何が起こるのかは彼次第、と呟きレイラは眠りについた。


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