残酷の夜
「レナちゃん♡?」
「はい」
レティシア先生は「なぜ♡?」と言う顔を浮かべて首を傾げた。ここで本名について伝えるべきだろうか……レナ先輩と僕が仮に親戚だとして、それを確定視させる情報をレティシア先生に伝えてもよいだろうか、と考えた結果。
「僕も、レナ先輩とお近づきになりたくて」
そう、誤魔化すことにした。正直何処かでレナ先輩について知らないと僕のことも分からない。
「あらあらまぁまぁ♡! 学生同士の恋愛なんて♡! なんてかわいらしいのかしら♡ なら、報酬は先払いにしましょう♡」
レティシア先生はそう言いながら生徒名簿を取り出した。
「さて、レナちゃんの何が知りたいのかしら♡?」
「そ、それじゃあ……」
「あ、ちょっと待ってちょうだい♡」
先生は質問しようとした僕を手で制止する。
「お互い交互に質問していきましょう♡ 聞きたいことがなくなったらその時点でお互いに質問は終わり♡」
僕はコクリと頷き「わかりました」と返事をする。
「なら、僕から質問しますね。レナ先輩の学校での立ち位置を教えてください」
「分かったわ♡ レナ・アレストライ、女性、大学校所属の八年生♡ 入学前に魔人を五体討伐♡ 終焉の派閥所属♡ 定期テストはもちろん、魔術大会、体育祭なんかの行事でもとてもよい成績だわ♡ この学院全体で二番目の実力者と言われてるわね♡ じゃあ、私からの質問ね♡ バル君の好きな食べ物、趣味、特技、女性のタイプを教えてちょうだい♡」
「分かりました。バルの好きな食べ物は表向きはビーフストロガノフ、本音はマフィンです。趣味は工作。特技は魔工製品製作。女性のタイプは……年上としか聞いてません」
「よしっ!」
「うわぁー」
引いた。ものすごく引いた。だって大人が子供の女性の好みを聞いて拳を握るだなんて……。やっぱりこの人との取引やめようかな。
「じゃ、じゃあ僕の質問です。レナ先輩の家について聞きたいです」
「あらあらまぁまぁ♡ その事聞いちゃうの♡?」
急に先生は目を細めて、僕の目を鋭く射抜く。
「まぁいいわ♡ 約束だしね♡」
そう言って先生は指を鳴らす。その瞬間、部屋から音が消えた。と言うよりも、外から音が入ってこなくなった。さっきまで廊下から、外から聞こえてきた人の声や、足音、鳥の鳴き声なんかがピタリと止んだ。
「レナ・アレストライ、彼女には弟がいたわ♡ 今じゃ行方不明だけどね♡ 当時弟くんは五歳、レナちゃんは十一歳だったわ♡ 犯人の目星はついてて『破滅の狂人』だとされているらしい……そう言えば、弟くんはあなたと同じ名前ね♡ レナちゃんを除く当時館にいた使用人、お父さん、お母さんは全員殺害された……レナちゃんが魔術の鍛錬だけじゃなくて戦闘技術に精を出してる理由もなんとなく分かるわ♡」
先生は少し悲しい顔をして「かわいそうに」と呟いた。
「レイ・アレストライ……」
僕の本名……らしい。だが、僕にはどうしてかレイ・アレストライとしての記憶はない。五歳までレナ先輩と過ごしていたのなら覚えているはずだ。僕は本当にレイ・アレストライなのだろうか。
「僕から聞きたいことは以上です」
「そう♡ それなら約束通りここまでね♡」
あれからしばらく情報交換をして僕が聞きたいことがなくなって話は終わった。
「そこそこな時間になったわね♡ 今からだともう夕食かしら♡ 一緒にどうかしら♡?」
「……ご遠慮します」
「そう♡ それじゃあ気をつけて帰りなさいね♡」
僕はお辞儀をして部屋を出た。
《レティシア視点》
「はぁ♡ 聞けば聞くほど素敵な子ね♡」
私は思ってるよりもあなたに大きな思いを寄せていたらしい、と改めて思った。
「なかなかいいことを聞けたことだし♡ 次は食事中か、勉強中に話しかけに行こうかしら♡」
これからあなたにアプローチする方法を考えることが何よりも楽しかった。
《レイ視点》
レティシア先生とのお話からバルとご飯を食べた。バルは派閥会議が今日らしく、一人で部屋まで帰ろうとしたとき外にレナ先輩が立ってるのが見えた。何処かぼーっとしてるような、それでいて寂しい雰囲気を纏っていた。
「レナ先輩」
「…………レイ……君」
話しかけた。話しかけてしまった。
「ねぇ、レイ君」
レナ先輩は真剣な眼差しと押しつぶされるのではないか、呼吸すらも止めてしまう明確な殺意を持ってこう言った。
「あなたは……何者」
第二章「王都学院編」 完
次話 第三章「魔術大会編」開幕




