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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第二章「王都学院編」
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交渉

「ただいま」

「おかえりー」

 部屋に戻っても私の頭は冴えなかった。

「あ、そうそう。レナがこの前調べろーって言ってたやつ、調査結果届いたよー」

 そう言ってエリナはガサゴソとカバンの中を漁る。

「意外と早かったね」

「まぁねぇ、クロネウス家を舐めてもらっちゃあ困りますよ、お嬢さん」

 あったあったと言いながらエリナは封筒を渡してきた。蝋で封がされてある、いかにも貴族の手紙といった感じだ。なかの紙を取り出し、開く。

「私もお兄様から結果は聞いてるよ。結果は……」

「不適合……状況的にあの子がカリフィスにいるわけがない……ね」

「そうらしいよー」

 詳しい内容にも目を通して見た。いかにも合理的な調査だった。

 当時私の家に侵入した賊の目撃情報自体は北東の村で途切れていること、その後に東に行く理由があるとすればアメリア帝国への亡命。しかし、その時点で私の家は身代金を払ってはいない。ゆえに亡命する理由はない。仮に身代金を受け取り、カリフィスを経由することがあるとしてもそれはアメリア帝国への亡命であり、奴隷制度の残る向こうに弟を連れて行かない理由はない。そもそもカリフィスからアメリア帝国への道は離れすぎている……とのことだ。何とも合理的……合理的だ。

「まぁ、あのレイ君って男の子はレナの弟くんじゃあ……」

「……魔子解析」

「へ? え、マジでしたの?」

 エリナは目を丸くし、固まった。

「魔子解析の結果は、レイ君は私の弟だった」

「で! でも! 弟なら初見で姉だってわかるはずじゃない?」

「そんな事はワタシが一番わかってるのよ!」

 私は封筒をクシャクシャに丸め、私はその場に膝をついた。嗚咽が喉を突く、言い表すことのできない黒い感情が心を渦巻く。

「と、とにかくせっかく会えたならお互いに話すべきじゃない?」

 エリナはそう言いながら私の背中を擦ってくれる。

「もし、レイが私のことを本当に覚えてなかったら! 私は何のためにこんな事続けてきたのよ! それに本当は覚えてて知らないふりをしてたら……私はどうしたらいいの? 今まで生きてくれてありがとうって言えばいいの? 連れ去られて十年間も助けることのできなかった私が? そもそもレイじゃない誰かがレイのふりをしてるかもしれない! これはそれほど単純じゃないの! そんな軽々しく言わないでよ!」

 私はエリナの手を振りほどいて部屋を飛び出した。

「ちょっと! レナ!」

(なんで! なんで今になって!)

 宛もなくただ走る。それでしか今の私の頭の中を空っぽにする方法が思いつかなかった。私はどうするべきなのだろう、レイ君をレイだと受け入れるのか……エリナの調査を信じるのか。

 走っても走ってもその答えは出てこなかった。



《レイ視点》

「失礼します」

「どうぞー♡」

 レナ先輩と別れ僕はレティシア先生の部屋に入った。

「来たのね♡ どうぞ座って、いまお茶を淹れるわ♡」

「あ、ありがとうございます」

 部屋の第一印象は「意外」だった。一度ヒルベルト先生に質問があって研究室に行ったとき、ヒルベルト先生の研究室は魔術や魔法陣関連の本や論文が散乱していた。だからてっきりレティシア先生も魔術の本なんかが散乱してるのかと思ったらそうではない。きれいに整理整頓され、なんならお香が焚かれているのかほんのり甘い匂いがする。

「はい、紅茶だけどよかったかしら♡?」

「あ、全然大丈夫です。ありがとうございます」

 差し出された紅茶を一口飲む。

「あ、おいしい」

「それならよかったわ♡」

 レティシア先生も対面に座り、紅茶を飲む。

「そ、それで本題なのだけど♡」

「バルについてですよね」

「そう、それ♡」

 レティシア先生は顔を赤くしながら少しもじもじとする。先生の年齢は知らないけど大学校を出て大魔道士になって教師をやっているなら相当なはずだ……そう思うとちょっとキツイ。

「先生は僕に先生とバルの架け橋になってほしい、あわよくばバルについての情報を僕から聞き出してどうにかして手籠めにしたい……そういうことでいいですか?」

「言い方は好きじゃないけど合ってるわ♡」

「先生ならバルを幸せにできるんですか?」

「こう見えても私、高給取りなのよ♡ それに大魔道士を舐めないでちょうだい、危険から守ることだって造作もないわ♡」

 僕はもう一度考える。

 バルは彼女が欲しくないわけではない。そして年齢差はあまり気にしていない。それに加えて先生はバルの好みに合っていると言えばあっている。ちょっと話し方はキツイけど顔は美人だし、金銭面でも問題はなさそう……あれ、レティシア先生って優良物件?

「はぁ、わかりました。先生の提案を受けましょう」

「本当♡!」

 僕はコクンと頷いた。だが、タダというわけにはいかない。

「そのかわり、対価を要求します」

「対価♡? お金かしら♡? それとも情報♡? 人♡? 魔術の特別講義とか♡?」

「魔術の特別講義は少し興味ありますけど、違います」

 先生は僕の回答に「残念、私の講義人気あるのよ?」と言う。なおのこと気になってきたがそれよりも重要だと思ってることがある。


「レナ先輩について知りたいんです」

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