恋愛相談(笑)
レティシア……好きですよ?
その日の放課後、僕は愛の派閥棟まで来ていた。
「失礼しまーす」
入学式の時に自由に出入りしていいとは言われたが一応挨拶する。玄関には誰もおらず、僕は指定された部屋まで向かうことにした。
「えっと、第二会議室ってどこだろう」
とりあえず宛もなく歩くかと思っていたところ突如声をかけられた。
「お困りかしら♡ レイ君♡」
階段の上からハートマークに語尾が侵食されたような声が聞こえてきた。
「レティシア先生……なぜこちらに」
「なぜって……私、こう見えても愛の派閥の所属教師なのよ♡」
「そ、そうなんですか」
知らなかった。別にレティシア先生に苦手意識があるわけではないが、どうもこの艶めかしい話し方は調子が狂う。
「それでどうかしたのかしら♡」
「あ、第二会議室ってどこですか?」
「あら、会議室なんて……なんのようなのかしら♡」
「レイシナム先輩に呼ばれてて」
僕がそう言うとレティシア先生は何か察したような顔をした。レティシア先生はズバリ当ててみせましょう、と言った顔をして
「魔術大会の話ね♡」
と、見事用件を的中させた。
「あ、そうです」
「それなら案内するわ♡ ついておいで♡」
僕はレティシア先生についていった。第二会議室に着くまでの間、割と話した。最近学院に慣れたかどうかとか、授業は難しいかどうかとか、ヒルベルト先生の調子がどうかとか。
「元気そうで何よりだわ♡」
それよりも気になるのが第二会議室の遠さだ。もう何段階段を登っただろうか……
「あの、まだつかないんですか?」
「第二会議室は最上階の一個下の階だからあと五階かしら♡」
「遠いですね」
しばらく会話がなかった。いや、僕は会話をするだけの元気がなかった。それほどまでにこの階段は凶悪だった。それなのにひょいひょいとレティシア先生は進んでいく。
「ねぇ、レイ君」
語尾に違和感を感じ僕は顔を上げるとレティシア先生が踊り場で手招きをしていた。少し早足で踊り場まで登る。
「どうかしましたか?」
僕が尋ねるとレティシア先生はもじもじとしていた。本当にどうかしたのだろうか。どこが顔も紅く見える。
「バ、バル君って……彼女とかいるのかしら」
「………………は?」
「だ、だから……バル君って彼女、いるの?」
僕は絶句した。
「一応、なぜそんな事を聞いたのかを聞いてもいいですか?」
僕の問いかけにレティシア先生は俯いてより一層体をくねらせ、もじもじとしている。
「ひ、一目惚れ♡」
「うわー」
僕は引いた。めちゃくちゃ引いた。
「と、とりあえず、バルには彼女はいませんよ」
「本当♡!」
レティシア先生は表情を明るくし、パアァっと顔を上げる。
「な、なら私に協力してくれないかしら♡」
「何のです?」
「バル君のハートを撃ち抜く♡」
レティシア先生はもう有頂天なのか、さっきまでの態度はどこへやら、手で銃の形を作りバキューン! と撃ち抜くポーズをとる。
「とりあえず、進みながら話しましょう」
「あ、それもそうね♡」
階段を登りながら僕はレティシア先生に話しかける。
「バルの彼女になりたいってことですか?」
「ええ、そうよ♡」
「まぁ、それに協力すること自体はやぶさかじゃないですけど……生徒と教師の恋愛っていいんですか? それに仮に付き合ったとして年の差とか相当なものでしょう?」
「レイ君、レディーに年の話をしてはいけないのよ」
レティシア先生のガチトーンに僕の身体はブルッ! と震える。
「す、すみません。でも事実でしょう?」
「まぁそうねぇ♡ でも年の差の方は問題ないわ♡ 私、年の差四百歳のカップル知ってるもの♡ それに教師と生徒の恋愛は……まぁ、割とタブーよね♡」
「それにバルはああ見えて人見知りです、根気強く話しかけに行かないと懐いてくれませんよ」
「あら、そうなの? それならなおのこと萌えるわね♡」
「それに派閥が違うじゃないですか」
「そこはいいのよ♡ 私は教師、派閥に雇われた講師とは違うから誰を教えようと自由♡ ただの業務の一環に過ぎないわ♡」
そんなこんなで話しているうちに目的の部屋の前まで来ていた。
「とりあえず、協力する件に関してはまた後日話を聞かせてください。僕も友人としてバルに変な虫が寄ってほしくないので」
「あらあらまぁまぁ、私信用されてないのかしら♡ まぁいいわ、それなら明日の放課後、私の研究室まで来てちょうだい♡ 第三棟の三階の一番奥の部屋よ♡」
そう言うとレティシア先生は階段を降りていった。本来の目的の前に飛んだ前座が入ったものだ。それにここ、入り口から遠すぎる。僕は扉をノックして中に入った。
「失礼します!」
僕が元気に挨拶をして中に入るとそこには四人の女性たちがいた。
「いらっしゃいレイ君、どうぞ座ってください」
僕はレイシナム先輩に促されるままに椅子に座った。
「さて、さっそく本題に入りましょう」
レイシナム先輩が真剣な顔つきで僕を見つめてくる。
「要件は魔術大会についてです。魔術大会についてどれほど知ってますか?」
「各派閥同士の研鑽の機会であり、次年度の予算を決定づける重要な行事と聞いてます」
「えぇ、その通りよ。それでものは相談なのだけど、ここにいるエイリス、そして私と三人である種目に出てほしいのよ」
レイシナム先輩がそう言うと、エイリス先輩が立ち上がって一枚の紙を手渡してきた。
「『楽園での決闘』?」
「そう、種目名『楽園での決闘』、私たちが出場する種目です」
渡された紙には種目についての説明が書かれていた。楽園での決闘、それは三対三に分かれ魔術で戦い合う決闘種目と呼ばれる競技。相手陣地にある魔法陣を起動させるか破壊する、もしくは相手全員を倒す。このどれかの条件が満たされたとき決着となる。
「でも、どうして僕なんですか?」
「わたくし、ちょっと小耳に挟んだんですが、あなた相手の魔術を無効化する魔術を使うそうじゃないですの」
エイリス先輩のその答えに、なぜ知ってるのかと思ったが、先ほどの年下の男の子に恋をしてしまう教師のことを思い出して一人で納得した。
「去年まではわたくしたちを敵の魔術から守る、優秀な前衛の先輩がいたんですが、残念ながら卒業されたので代役が必要なのですわ」
「それで魔術を無効化できる僕を採用したいと」
「その通りでございますわ。どうでしょう、わたくしたちと組みませんこと? 連携なんかに関してはご心配なさらず、手取り足取りわたくしたちが教えてあげますわ」
正直、やってみたい。魔術大会、村にいたときとは比べものにならないほど魅力的な祭りじゃないか。それに、色々と上級生と関わるいい機会だ。正直、レイラ様の眷属である僕が、その身分を隠しているとは言え、愛の派閥で出場することは憚られるが、それでもやってみたい。
「もちろん、その話是非とも受けさせてください」
僕は二つ返事で了承した。僕の答えに満足したのか四人の幹部は大きく頷いた。
「では、練習は明後日から行います。そうそう、来週の派閥会議には必ず出席してくださいね。ほかの競技に関する説明と出場者を決めますので」
レイシナム先輩は続けて「この事は他言無用ですよ」と微笑んだ。何故かと聞いてみた。
「派閥の予算にかかわる重要な行事です。他派閥に出場者の情報が知れ渡ったら、それだけで不利になってしまいます。なのでそれは避けなければなりません。これは派閥同士の戦争です」
とのことだ。僕は了承し、会議室を出た。とりあえず今日一日だけで今後の予定がいろいろと埋まってきた。バイト先にも伝えて、時間帯を調節してもらわなきゃいけないかもしれない。そんな事を考えながら僕はまたあの長い階段を降りた。




