「貴様らは愚鈍の身なのだからしっかりと勉強して『人並み』になることを第一にしろ大体無知の分際で何を意見するのか身の程を知れ(以下略)」
小難しい理論はいつかまとめて解説します
《三限目》
「今から魔術基礎論の授業を始める。教科書の五ページを開け」
三限目はヒルベルト先生の授業だった。
「まずはじめに魔術とは何か、から始めよう。レイ、一行目から読め」
「はい」
僕は指名され、起立して教科書の内容を読み始める。
「魔術とは、魔子および魔力を使って現実世界の因果を改変する技術である。魔子とは魔力を発生させる物体で存在は確認されているが実態は不明。魔力とは魔子が魔力回路の中を移動する際に魔子の移動方向とは逆向きに発生する魔子の流れのことである」
「そこまででいい」
ヒルベルト先生に言われ僕は着席する。
「さっきレイが読んでくれた通り、魔術とはすなわち魔子、魔力を用いて世界の因果を改変する技術のことだ。間違っても魔法と混同させるなよ」
その後もヒルベルト先生の魔術に対する解説は続いたが、あらかたの内容は生まれてくるときにレイラ様から頂いた知識にあったとおりだった。
「ではリファージ、魔法とは何か応えてみろ」
「えっ! は、はい」
リファージはこっちをチラ見してくる。
「チラ……チラチラ」
僕は察した。きっとわかんないんだと思い、そっと耳打ちする。それを聞いて納得したのか立ち上がった。
「えっと、魔法とは魔術で再現ができない因果改変であり、魔法陣を経由することでしか発生させられない未知の法則の事です……かね?」
「なぜ疑問形なのかは分からんが、正解だ。よく予習しているな」
その言葉にリファーは胸をなで下ろして着席して、僕の方を向いて「ありがとう」と小声で言ってきた。
「リファージが言った通り、魔法とは魔術で再現不可能な因果改変を行う法則ないし現象のことだ。一年の後半、まぁこの魔術基礎論の講義が終了したら魔法陣基礎論に移るから興味のあるものは楽しみにしてるといい」
その後もヒルベルト先生の話はしばらく続いた。まとめると、魔術とはあくまで技術であって万能ではないこと、魔術を行使する際は因果改変を行う欲望の度合いによって効果が変動すること、魔術の効果は使用者の知識、知能によっても左右されること、魔術であっても改変できない法則は存在するということ、などなど。この授業が始まっておおよそ授業の半分が過ぎたが非常に内容が濃い。
「さて、今日の理論はここで終わろう」
僕がそう考えている時、ヒルベルト先生がそんな事を言った。
「これからは実習の時間だ」
ヒルベルト先生は魔術で生徒一人一人の目の前に紙を送ってきた。
「その紙に今から魔法陣を刻んでもらう、そして魔力回路の設計を視覚的に理解してもらおう」
ヒルベルト先生自身は紙の代わりに黒板上で書き始める。
「まず先に言っておく、魔法陣と魔力回路は同値だ。ただ一つ違いを挙げるなら目に見えるか否か、それだけだ。今から魔術にある《閃光》の魔法陣を作っていく」
ヒルベルト先生は黒板に大きく円を描く。僕たちも続いて円を描くが、ヒルベルトのように綺麗にかけない。コンパスを取り出し書き始めたが、すでにヒルベルト先生は次の段階に入っていた。
「今書いた円を外回路という。今から作っていくのが内回路と呼ばれる部分だ。外回路は魔力暴発を防ぐ補助抵抗、内回路がメインだ」
そう言いながらヒルベルト先生は迷いなく魔法陣を描き進める。僕たちも遅れないようにと手早く描いていくがやはり間に合わない。
「《閃光》の抵抗部分の記述式は小さくなりがちだからな、見やすいように大きめにこっちに書いておくか」
ヒルベルト先生はそう言って黒板の端の方に五文字の魔術文字の単語を板書した。
「最後に今回はほんの少し光る程度にするために追加で抵抗を置いていく」
そう言ってヒルベルト先生は魔法陣の所々に抵抗を加えていく。
「これで完成だ。一旦全員顔を上げろ」
ヒルベルト先生の言葉にみんなが顔を上げる。ヒルベルトが魔法陣に手を置くと魔法陣が光りだす。その光景にみんな感嘆の声を漏らす。
「まぁ、こんな感じに効果が発動する。特定の魔力回路をあらかじめ書いたものをスクロールという。あと、流す魔力を強めると明るくなり、弱めると暗くなることがやってみれば分かると思う。そして肝心なのが、魔法陣は『詠唱文が本人の意思に関係なく作り上げる魔力回路』を自分で作るため、詠唱を必要としない。ここは一般人にとっては大きなメリットだ」
ヒルベルト先生が魔法陣から手を離すと光が収まる。
「さて、あとは好きにするといい。私は研究室に戻る。何か質問があるなら来るといい」
ヒルベルト先生はそう言うと教室から出ていった。クラスのみんなは大きく二つに分かれた。授業が終わったと喜びワイワイと話し出す人と、ヒルベルト先生の魔法陣に魅せられ自分で魔法陣の続きを描く人。もちろん僕は後者だった。
「よし、出来た」
僕は魔法陣を完成させ実際に手を乗せ、魔力を流すと光り出した。僕は自分一人でできたことが少しうれしかった。何気にこういうのは楽しいものだ。満足した僕はアイラ、リファー、バルと話して残りの時間を過ごした。




