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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第二章「王都学院編」
17/22

愛の巣に絡みつけ

いやらしくはないですよ?

 時間は午後八時過ぎ既に日は落ちてしまった。男子寮の入り口に着くとそこには既に先客がいた。

「あ! レイ! こっちだよー!」

 そこには今日出会った女の子のリファージがいた。しかもドレス姿で。

「リファー、ドレスコードはいらないんじゃなかったのかい?」

「そんなの私が決めるんだよ! 私は着たい服を着るの、それがファッションってやつだよ」

 僕は自分の服装を改めて見る。制服……目の前の子と対になると、少し見劣りする。と言ってもこの学院内だと普通の格好ではあるから、悪いという評価はないだろう。それにしてもリファーのドレス姿は似合っている。

「それじゃあ行こっか!」

 そう言ってリファーは腕を組んでくる。

「あのさ、ちょっと近いかな」

「そう?」

「そうだよ」

「普通だよ」

「それでもだよ」

「気のせいじゃない?」

「気のせいじゃないよ」

 リファーは渋々といった感じで腕を離してくれた。

「そうだリファー、僕の幼馴染も愛の眷属なんだけど合流してもいいかな?」

「へぇ、入学して早々に周りに女の子はべらせるつもりなのぉ?」

 リファーはからかうような笑みを浮かべてそういってきた。

「女の子って言ってないのにどうしてわかったんだ?」

 アイラのことはリファーには伝えていない。なぜ知っているのだろうか? 僕は疑問を素直にぶつけた。

「んー、だってだいたいフレイル様の眷属って言ったら女の子ばっかりだもん。それに私が教室を出た後に誰かが走って入って行ってレイと話してるの聞いちゃったからね」

 アイラとの会話を聞かれていたのか。僕は納得し、改めて一旦合流してもいいかと尋ねた。

「まぁ、いいよ。まだ眷属会合までは時間あるしね。私も付き合ってあげる」

 リファーがそう言うと僕たちは横に並んで歩き始める。


《第一棟入口前》

「で、その女誰だよ」

 僕は絶賛アイラに怒られていた。それもそうだろう。わざわざ誘ってしかも言質まで取ったのに女性をはべらすとは言語道断。

「く、クラスメイトのリファージだよ」

「リファージと言います……よろしくね」

 リファーが持ち前の明るさで話しかけるが、アイラの威圧感の前に敬語を使うほどだ。

「一年五組のアイラだよ。よろしくね」

 この感覚、覚えがある。あれは、そう、レイラ様に怒られたときだ。鬼の形相で笑っていながら笑ってない。心の奥底と瞳の奥底でゆらゆらと嫉妬の炎が燃えているのが肌で感じる。

「ア、アイラさん……ちょっとあっちでお話しませんか?」

 リファーがそう言うとアイラは「ふーん、度胸あるじゃない」とでも言いたげな表情でうなずいて僕を残して離れて話しだした。何を言っているのかは全く聞こえなかったがしばらくするとアイラがニッコニコの笑顔になって帰ってきた。

「ア、アイラ……何かあったのか?」

 恐る恐る僕が聞くと、リファーが答えた。

「いいやー、友達になっただけだよ! ね!」

「ね!」

 さっきまでの蟠りはどこへやら、二人満面の笑みで話しているではないか。女性というのはそういうものなのだろうか……。

「取り敢えず、いきましょ! レイ、リファー!」

「そうだね」

 僕の右隣にアイラが、左隣にリファーが陣取り三人横並びで会場まで向かった。道中生徒たちに見られて、「初日から盛ってんな」みたいな目で見られたのだけが屈辱でならない。



 眷属会合は二部構成で行われる。第一部が大広間で開催される生徒会主催の立食パーティー。第二部が各派閥拠点で行われる派閥主催の各々独自のパーティー。

「あら、バルじゃない!」

 大広間に着くとそこにはバルがいた。

「お、アイラにレイ……それと」

「リファージだよ!」

「リファージ……さん? お前らも来たのか」

 バルはリファーとあんまり話していないからか少しよそよそしかった。

「当たり前でしょ! こんなに楽しそうな所に来ないなんて選択肢ないわ!」

「まぁ、僕は二人に連れてこられただけなんだけどね」

 僕のその言葉に対してアイラは僕の尻をつねる。めっちゃ痛い! 本当に痛いときは声を上げることもできないとよく聞くが、まさにこの事!

「何か言ったかしら?」

「いえ! 何も!」 

 僕がそう言うとアイラはやっと手を離してくれた。血、出ていないだろうか……。僕のその様子をどこか慈悲ある目で見るリファー。

「一応、回復魔術かけとこうか?」

「いいよ、いつものことだし」

 僕は少し強がって……いや、かなり強がってその提案を断った。

「そんな事よりご飯食べようぜ!」

 バルがそう言うとリファーもアイラも「もちろん!」と呼応して卓上の皿を手に取り、食べ物をよそう。

「バルはご飯食べたんだろ?」

 僕もローストビーフを取りながらバルに問いかける。

「あぁ、結局食べてないぜ。バイト先の先輩に挨拶しに行ってたんだよ。この学院の二つ上の先輩」

「そうだったんだ」

 そう言えば僕のバイト先にも一人ここの生徒がいた気がする……。

「それよりも、ほとんど制服のやつらなのにたまぁにドレス着たりタキシード着てるやついるよな」

 バルにそう言われ、辺りを見渡すと確かにポツポツと着飾っている人が目にはいる。

「大抵は貴族の人たちだよ、まぁ中には私みたいに好きできているって人もいるかもだけどね」

 お皿に目一杯の料理をよそいながらリファーが教えてくれる。よく見てみると確かにリファーのドレスよりも綺羅びやかで派手だ。それに取り巻きも何人かいる。特に興味もないので僕もお皿に料理を盛り付けていく。

 しばらく食べて飲んで話してを繰り返していると壇上に一人の生徒が上がった。その姿にみんなの視線がくぎ付けになる。

「生徒会長のルクス・なんとかホーンさんだ」

 バルが彼の姿を見てそう言った。

「ルクス・フレイヤホーンさんね」

 リファーが訂正する。

「新入生の皆さんパーティーは楽しめていただけているでしょうか?」

 綺麗で透き通った声が響き渡った。

「当初の予定通り、時間が十時となりましたので、これより各派閥での眷属会合となります。開催場所は各派閥の派閥棟で行われます。お食事をお楽しみかもしれませんが、参加する方々はお忘れなきようお願いします」

 そう言って生徒会長は壇上から降りた。

「貴族なのにあそこまでへりくだった言葉使うなんなてね」

 アイラがそんな事を言った。

「フレイヤホーン家って言ったら武家貴族だからね。暮らしぶりは庶民と変わらないはずだよ」

 リファーが補足してくれる。リファーは貴族絡みや世情に詳しいらしい。

 僕たちは割と十分ご飯を食べたのでそのまま各派閥の場所に向かうことにした。バルとは真反対の方向だったので大広間で別れた。しばらく歩くと次第に人が減っていき、最終的に周りには三十人弱になった。辺りは全員女子で、両隣に女性を侍らせている僕を時折チラチラと見てくる。僕は少し肩身の狭い思いをしていた。

(ヒルベルト先生が言っていた、苦労するかもってこういうこと?)

 そんなことを思っているうちに建物の前に着いた。

「愛の派閥の棟ってここかな?」

 アイラが扉の前まで行って表札を確認する。

「えぇーっと、なになに。『愛の派閥棟・愛の巣』って……ここの名前?」

 アイラの目から光が消えた。一瞬にして失望と懐疑とそして軽蔑の眼差しへと変わった。

「なんだか……その、いかがわしい名前だね」

 リファーがこの場にいる新入生の全員の言葉を代表してくれた。

「と、取り敢えず入らないか?」

 僕はそう言って扉を開けた。扉を開けた瞬間一斉にクラッカーが鳴り響いた。僕たちがその音に驚いていると真正面の階段から誰かが降りてきた。

「ようこそ、愛の派閥へ」

 そう言って現れたのは一人の女性。それに続いて続々と何人もの女性が降りてきた。

「私の名前はレイシナム、愛の派閥の頭領を務めてるわ」

 優雅な所作、体の節々、頭のてっぺんから爪先、指先に至るまでの全ての動きが相手を魅了するためだけに振る舞われている。そう、錯覚させられるほどまでに優雅で気品溢れる振る舞い。

「では宵闇も深まってきたことですし、始めましょうか……私達、愛の派閥の眷属会合を」

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