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界律師と神殺し  作者: 桐ケ谷漣
第二章「王都学院編」
14/21

運命の出会い

僕はこういうのが好きなんだよ

「なんでお前が最後なんだよ」


「道に迷っちゃって……」


 僕が体育館に着いた頃にはもう既にみんな到着していたようだった。皆それぞれワンドやスタッフを持っていており、いかにも魔術師といった風貌だ。対して僕は《産声》を召喚すべきか少し悩んでいた。


「三十一人…………いるな」


 しばらくして、ヒルベルト先生と他数人の教師が入ってきた。


「じゃあ説明を始めるぞ。今からやってもらうことは主に二つ、一つ目は魔力回路強度測定、二つ目に実習測定だ。ここでの結果の良しあしは成績には影響しないため気にしなくていいことだけは言っておく。それぞれの説明だが、魔力回路強度測定は俺の持っているこの魔法陣に限界まで魔力を流し込んでもらう。一応発熱も考慮して医務官を待機させているから安心して全力を出すといい。二つ目の実習測定はここにいる教 師たちと五分間ずつ実戦想定で戦ってもらう。ケガは心配しなくていい、医務官が継続回復の魔術を予め君たちにかけておく」


 ヒルベルト先生は医務官の一人に自分に回復魔術を使うように指示し、緑色の光が先生を覆う。そして先生は腰からナイフを取り出し説明を始める。


「この魔法がかかっている場合は即死以外なら

死なない。例えばこうやって腕に傷がついたとしてもすぐに回復する」


 先生は安全を説明するため、ナイフで自らの腕を切りつけたが、またたく間にその傷は塞がった。


「傷は治るが、痛みはある。耐えられなくなったら降参することだな。では質問のあるものは?」


 誰も手を挙げるものはおらず、先生は話を続けた。


「では出席番号の十六番から後ろは私について来い。実習測定を先に行う。それ以外のものは医務官の指示に従って測定をしろ」


 先生がそういうとぞろぞろと生徒たちが二つのグループに分かれた。


「じゃあなバルまた後で」


「おう!」


 バルの出席番号は十番、対して僕は二十七番。そのためここで一旦お別れだ。僕は出席番号が後ろのクラスメイト達と固まってヒルベルト先生の後ろをついて行った。




 先生についていくと外に出た。そこには先ほどの教員含め十六人の先生方がいた。


「さて、一人ひとり奥から順に教員のもとへ向かえ」


 僕は一人の女性の先生と相対していた。杖を持ち身長が高めでどこかリサさんににている気がした。


「さて、今、目の前にいる教員はお前たちの審査官だ。攻撃もしてくるし防御もしてくる。何人か魔剣を持ってきているようだが、使ってもらって構わない、魔工製品の類の使用は許可する。君たちの実力を遺憾無く発揮してくれ。今から医務官が一人ひとり回復魔術をかけて回る」


 僕はとりあえず前の先生に「よろしくお願いします」と言うと相手もあいさつを返してくれた。


「よろしくお願いします♡ あ、ここで教員をやってますレティシアと言います♡」


 物腰柔らかそうな態度と声だ。優しそうで良かった。


 しばらくすると僕を含めみんな回復魔術の恩恵を授かったようでヒルベルト先生が合図をする。


「さて、回復魔術もかけ終わったな。俺の合図で始める。両者、構え」


 ヒルベルト先生の言葉に従い、レティシア先生は少し離れてこちらに杖を向けてくる。初手から攻撃魔術の構えだろうか。みんなが定位置についたのを確認してヒルベルト先生が大声で言う。


「始め! ゴホッゴホッ」


 ヒルベルト先生が咳き込んだような気がして少し気が散ってしまった。気がつくとレティシア先生は詠唱を済ませ杖の先には火炎球が四つ出来上がっていた。


(あれは《火球》か?)


 大魔術事典のはじめのページに載ってるような単純な魔術。王都に来る前に読み込んてよかった。いかにもテストらしい魔術だ。


『《火球♡》』


 魔術の完成と同時に僕に向かって四つが連続して放たれた。


「速っ!」


 僕はとっさに左に避けるとさっきまで僕がいたところを一つの火球が素早く通過した。


「まだ終わってないですよ♡」


 レティシア先生は残りの三つの火球を指先で操り僕を追撃する。


「は? 直線運動しとけよ!」


 僕は文句を垂れながら後ろに飛び、一つの火球を避け、さらに左にもう一つの火球を避けた。二つの火球が地面とぶつかりドゴォン! と音を立てて辺りに砂埃を巻き起こす。砂埃に気を取られてレティシア先生の位置を探っていると目の前に火球があった。


(まずい!)


「チェックメイト♡」


 レティシア先生の艶めかしい声が聞こえてきたが、残念ながら僕もあきらめるつもりは毛頭ない。


『《不動心!》』


 僕が魔術を唱えると火球が弾け、熱気を帯びた風と共に辺りの砂埃が晴れる。


「あら、仕留めたと思ったのに……魔術師って言うよりも戦士みたいな戦い方してるのね♡」


 レティシア先生が話しかけてくる。何を考えてるのか、これも試験なのか分からないけど応えないのはそれはそれで酷い人間だろう。


「友人が戦士なもんで」


「ふーん、まぁ次はこれで行きましょうか♡」


 レティシア先生はそう言うとパチンと指を鳴らす。その瞬間足元に鋭い痛みが走った。


「イッタ!」


 慌てて足元を見ると両足と地面が氷漬けになっていた。でもおかしい。僕はずっとレティシア先生を見ていた、魔術を詠唱する素振りもなかった。いつの間に魔術を……とにかく今はこの氷をどうにかしないと!


「詠唱してないのに!」


 僕は足を必死に動かすがびくともしない。


「気になってる学生の君に少しだけ授業をしてあげる♡」


 レティシア先生はそう言うとまたこちらに杖を向けてくる。


「魔術には二つあるのよ♡ 原理が判明してる体系化魔術、そして個人の感覚に基づく非体系化魔術♡ でもね、それらはすべて個人の体内の魔子を利用して行われるのよ♡ 原理がわかってようとなかろうと、それならはじめから自力で魔子を動かせば詠唱しなくてもいいと思わない?」


 そこまで聞いてレティシア先生のからくりがわかった気がする。それならなおさら早くこの氷をなんとかしないと!


「つまり、詠唱省略ってこと♡」


 次の瞬間、レティシア先生の杖から大量の水が真っ直ぐこちらへ向かってきた。


『《不動心!》』


 避けることのできない僕は魔術を唱えて大量の水をかき消す。辺り一帯に散らばりそこら一帯が水だらけになる。ついでに足元の冷気によって地面が凍っていく。


「またかき消されちゃった……それがあなたの魔術なのかしら?」


「……さぁ、どうでしょう、ね!」


 足に魔子を循環させて魔力回路を発熱させる。その熱で氷が溶け始めたのを確認して、足に力を入れ思いっきり地面を踏み抜くとバギッと音を立てて氷が砕ける。足先はヒエヒエで感覚がないが、しっかりと動く。


「あらあら、若い子って元気ね♡」


「先生も十分お若く見えますよ」


「あらあら、お世辞も上手ね♡」


 少し話して確信した。この人は強い。ほかの試験をしている人を見てみたが、先生側を倒したのが二人、それ以外は戦闘中か既に先生側に負けている。


「さて、あなた他の魔術は使わないの? それとも使えるのがあの魔術だけなのかしら♡」


 レティシア先生の言うことはもっともだ。攻撃魔術自体は体系化魔術に多くある。万人が使えると言っても過言じゃない。せっかく魔術を掻き消しても攻撃してこない様子を見るとそう思うのは必然だろう。


「……念のため確認ですけど、武器って使っていいんですよね?」


「ええ、構わないわ……でも見たところ何も持ってないようだけど♡」


 確認が取れた。それならもう出し惜しみはしない。レティシア先生は僕が何も持っていないと思っているらしいが、手元にないことと所持していることは決してイコールではない。


「今から呼び出せばいいんですよ」


「呼び出す?」


 レティシア先生はよくわからない様子だが、そんなのどうでもいい。どうせ、もう終わる。


『出でよヴァディゴスの化身

 その名を世界に知らしめよう

 産声は今ここに!』


 僕が唱えると空から槍が降ってきた。漆黒の刀身に柄、全体に赤色の線が張り巡らされた槍。僕は《産声》を手に取る。


「さて、《産声》。あの先生を倒したいんけど協力してくれる?」


 僕がそう問いかけると《産声》も『かしこまりました』と返答してくれた。


「まさかそれ、ディゴスシリーズかしら♡ あらあらあまぁまぁ、この学院二人目ね♡」


 レティシア先生はどこか興奮しながらも、瞳の奥には諦めの感情を浮かべていた。僕は魔子を体内、体外、槍の順に巡らせる。あの時と同じで界力の反動が僕の体をグングンと加速させ、レティシア先生の眼前にまで迫る。あのときと同じで世界が引き伸ばされる感覚、すべてがゆっくりに見えて世界に孤立している感覚を覚えた。


『《第三形・空斬》』


 《産声》がそう言うと槍先が白く光った。レティシア先生はただ瞳孔を開き、目線だけは僕を捉えていたが、脊髄の反射だけが避けようと先生を動かそうとし、避けようとしていた。


 しかし、それを僕らは許さない。僕はレティシア先生の喉元の直前で刃先をピタッと止めた。


「そこまで! ゴホッゴホッ」


 その時、ヒルベルト先生が終わりの合図をした。始めの時もそうだったが、先生は持病でもあるのだろうか。


 僕はレティシア先生から離れてお辞儀をする。レティシア先生もお辞儀を返してくれた。


「最後のアレ、なかなか良かったわ♡ でも第二形ならまだ目で追えるかなぁ♡ これから頑張りなさい♡」


 レティシア先生はそう言うとヒルベルト先生の元へ向かっていった。意外にも先生は恐怖はしておらず平然としていた。一応あとから謝罪しにいこう。僕はそう思った。


 僕たちは皆ヒルベルト先生の前に集まった。


「さて五分間の戦闘、ご苦労」


 僕たちが集まるとヒルベルト先生は話し出した。


「まぁ、今回の結果は自分のなかで上出来だと思っていようと不出来だと思っていようと忘れろ。ここにいるのは大魔導士たちだ。負けて当然、勝ったのなら相手は試験だからと手を抜いていることを忘れるな。さて、君たちには体育館に戻って魔術回路強度測定をしてもらう。疲れているだろうが、まだやることはたくさんある。素早く移動してくれ」


 僕たちは言われるがまま体育館に戻った。体育館に着くとバルが「そっちはどうだった?」と聞いてきたから「とりあえず、語尾がハートマークで侵食されてそうな先生には気を付けろ」とだけ伝えた。




《バル視点》

 レイと入れ替わりで俺は外に出た。そしてヒルベルト先生の指示で一人ひとり先生と相対していた。


「語尾がハートマークで侵食されてそうな先生……」


 俺は目の前の先生を見て小さく呟いた。この人かな? って思ったが。まぁ、十五人いるんだからそうそう当たることはないだろうと思い挨拶をする。


「よろしくお願いします!」


「よろしくお願いします♡」


 ……………………ん? 気のせいかな、気の所為だよねきっと。レイが言っていた「ハートマーク」つまり艶めかしさを感じたのはきっと気の所為だ。


「ここで教師をしてます♡ レティシアと言います♡ あなたのお名前は?」


 俺は悟った。この人だ……。



《レティシア視点》

 学院の入学式。割り振られた仕事は実戦想定での試験の審査官。新入生を適当にあしらって戦いぶりを評価して終わり。単純で簡単な仕事。ちょっとしたイレギュラーがあったけど全然問題ない。次もちゃちゃっと終わらせるか、って思ってた矢先。思わぬ出会いがあった。


「よろしくお願いします!」


 私の目の前には男の子がいる。ここに来ている時点で新入生。


(えっ、えっ、えっ! ちょー、ちょーーー、タイプなんだけど!)


「よろしくお願いします♡」


 私の好みどストライクの男の子だった。男の子らしい体つきに、シャープな顎、目元もキリッとしていて肌の色も健康そうな日焼け具合、茶色の髪の毛が風に乗ってゆらゆらと揺れている。さっきの白髪の子もなかなかに綺麗な見た目をしていたけど、こっちは少し粗暴さの残る容姿。


 今思えば一目惚れ。


「ここで教師をしてます♡ レティシアと言います♡ あなたのお名前は?」


 私はこの高まる感情を押し留めながら、自然と振る舞う。


「バルです。名字はありません」


 その日、私は決して忘れることのできない名前を知った。二十八年間の人生のなかで初めて男の人に恋をした瞬間だった。

あっ、今回も色々あります



用語『レティシア』


本名:レティシア・ティノーサル

元々はアメリア帝国の貴族だったが、慣習などに縛られる生活が嫌になり家出をして王国までやってきた。実はカリフィスにも身を置いていた時期がある。そこで眷属であることを王国に伝えられリーヤシュヴァレン魔術学院に入学、大学校まで進学し大魔導士に認定される。その後はリーヤシュヴァレン魔術学院で教師を務めている。実力は高いが、言葉遣いがエロくよく生徒からオナネタにされてる。本人もそのことは知ってる。ちなみに独身二十八歳。実はバルが好みの男性のタイプどストライクらしく一目ぼれ。教師である立場から恋愛をすべきか真剣に葛藤している。



用語『王国立眷属育成機関リーヤシュヴァレン魔術学院/大学校』


ダリア・リーヤ王国にある教育機関。年に一回十五、六歳の眷属を召集し一斉教育を施す。来たるべきルインとの対決に向けてウルスラが設立した。七年間の学院教育と試験を受ければ大学校へ進学できる。大学校は二年間、その後の進路は自由である



用語『メル』


長さの単位 1メル=1メートル



用語『魔線』


魔子を流して各家庭に供給している



用語『レインロッド』


本名:レインロッド

七百年前、たった数年で王国の文明レベルを数百年レベル進めたと言われる神匠と呼ばれる三人の一人。俗世とのかかわりが嫌いでただひたすら研究に熱中した。学問の才があり学問の神『スガザネ』に見初められた眷属である。アルカナの作成のほかに霊鉱石を用いた小型兵器『銃』を作り上げた。護身用として広まり多くの人々を盗賊の侵略から守ったと伝えられている。

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