入学式
一週間後。烈日の月、第一週月曜日。今日は待ちに待った入学式。これから新生活が幕を明け、新しい友人たちもできて楽しい学院生活が始まる! そう思っていたのだけど……。
「いいか! お前らは今日からウジ虫だ! 人として扱ってもらえると思うなよ!」
入学式、学院長挨拶。開幕の言葉がそれだった。
王都に来てから一週間が経ち、いよいよ入学式を迎えた。朝はいつもより早く起きれたが、アイラが騒がしくない朝というのが新鮮すぎてどこかむず痒かった。
この一週間、生活費を稼ぐための自分たちの職場探しや、生活必需品の買い出し、レナ先輩に話を聞いたりして寮の生活に少しずつ慣れることに費やして、初日以降一向に休めなかったが、これも新生活の花かな、って思って過ごしてるとあっという間だった。
そして今日の入学式に朝から期待に胸を躍らせ先輩たちに連れられるまま講堂へ向かった矢先のひと言が「ウジ虫」……ここは、本当に眷属育成機関なのだろうか……蛮族の集いではないのだろうか、とおそらくみんな思ったことだろう。
「さて、先ほどはああ言ったがまずは入学おめでとう!」
壇上の学院長は背を伸ばし威厳のある態度のまま話を続ける。
「ここは世界に八つしかない魔術大学校を備え
た栄えある眷属育成機関リーヤシュヴァレン魔術学院である。今年は眷属が三百六名、一般公募枠から三十二名の新入生がきてくれた。さて、もう一度言うが、ここは眷属育成機関である。故に魔術学院ではあるが魔術のみならず体力や武術などの肉体的な訓練も怠らない。そちらの方が主となる時期もある。故に! この一年で弱音を上げるものはこの学院に必要ない! そのような軟弱なウジ虫にいずれ訪れると言われている反逆者ルインとの戦争で戦えるはずがない! 眷属としての名折れである! 故にこの学院は君たちを屈強な戦士、魔術士、研究者に育て上げる! 覚悟して学院生活を送るように! 以上で私の話を終わる!」
学院長は綺麗なお辞儀をし、壇上から降りた。みんな学院長の風格に圧倒されて完全に動きを止めていた。
「生徒会会長挨拶。今期生徒会会長ルクス・フレイヤホーンさんお願いします」
司会の人は気にせずに進行する。名前を呼ばれて一人の制服を着た男子が壇上に上がる。壇上でお辞儀をすると何人かの女子生徒が恍惚したようにため息を吐いたのが聞こえた。確かに目を見張るような美男子、所謂イケメンと言っていいだろう。女子生徒がため息をつくのも頷ける。それほどの美男子。
「皆さん、ご入学おめでとうございます」
息を呑むほど美しい声。男女関係なく魅了す る力がそこにはあった。
「まずはこの栄えあるリーヤシュヴァレン魔術学院への入学を心よりお祝い申し上げます。さて、先ほど学院長が言ったようにこの学院では得手不得手関係なく、あらゆることを強制されます。今体力に自信がないという人も無理やり走らされることもあるでしょう。しかし、人というのは成長できるものです。皆さんなら乗り越えて一層成長できることを期待しています。何か心配事がございましたら、上級生に相談してください。私も含め上級生は皆さんの味方です。では、この学院でのさらなる飛躍を期待しています」
美しい所作で生徒会長は壇上を降りた。
その後も順調に入学式は進み、僕たちは教室の方に移動した。
「アイラだけが違うクラスか」
「まぁ、僕はバルがいてくれて少し安心だよ」
「へっ、そう言ってくれるとうれしいけどよ、どうせなら三人一緒がよかったな」
「まぁ、そうだねぇ」
僕とバルは一年三組、アイラは一年五組に割り振られていた。だいたい一組三十人ほどでこの学年は十一組ある。その内一組が一般公募枠の生徒のクラスでそれ以外が僕たちのような眷属のクラスになる。もしレイラ様が僕を眷属にしてなかったらそもそもアイラやバルと同じクラスになるということすら叶わなかったと思うとある意味魔獣討伐は意味のあったことだと思った。
バルと少し話していると部屋の扉が開き一人の男性が入ってきた。
「三十一人……いるな」
貫禄を感じる低い声に皆各々話していたのをやめ、前を向く。
「あぁー、この一年三組を担任することになった。ヒルベルトだ。名字はない。ヒルベルト先生と呼んでくれたら結構だ」
ヒルベルトという名前にあたりが少しざわつく。しかし生憎と僕とバルは一体何が何だか分からなかった。王都では有名な人なのだろうか?
「まぁ、俺のことを知ってる人は居るかも知れないが、ここではしがない教師だ。研究者としてのヒルベルトではなく教師としてのヒルベルトとして接してくれ」
どうやら有名な研究者のようだが……これは王都だと常識なのだろうか? 田舎者だと馬鹿にされないよう驚いたふりくらいしておくか。わぁ、すごーい。
「さて、入学してそうそうだが、君たちには今日のうちに済ませてもらわないといけないことが山積みでな……えっと、眷属判定、身体測定、体力試験、入学前成果の有無の確認、体術授業の希望調査、魔力試験、これを今日中に終わらせないといけない。早急にしなきゃいけないのが眷属判定だ。学籍番号の早い順に並べ」
そう言われ僕たちは教卓の前に並ばされた。
「この水晶に触れていけ、色の違いでどの神の眷属かがわかるようになっている。この後の行事に関わるから早くするぞ」
僕たちは言われるがまま水晶を触っていく。後ろから見てるとどうやら少し法則があるように見える。白なら雪の神、緑なら命の神、微妙な違いだが、黄緑なら風の神のようだ。
「次、レイ」
「はい」
僕の番が回ってきた。そう言えば、レイラ様が自分の眷属とは語ってはいけないと言っていたが、どうなっているのだろうか……。何やらほかの神様にお願いしたと言っていたが。そんな事を考えながら水晶に触れると水晶がピンクの色に光った。
「愛の眷属か……男で?」
どうやら僕は愛の神の眷属という扱いらしい……なぜ? まぁ、レイラ様がお願いしたという神様が愛の神様だったのだろう。僕は少しの困惑と疑問を持ったが何とかそれを押し込んだ。それよりも先生の言葉のほうが気になる。
「何か問題でも?」
「……いいや、だが少しこれから苦労するかもな」
男の愛の眷属がいてなにか不都合があるのだろうか? もしレイラ様にお会いすることがあれば聞くことにしよう。僕は列を外れ席に戻った。
「レイ、お前は愛の神の眷属じゃないだろ。なんでピンクに光ったんだよ」
席に着くなり隣に座っていたバルが話しかけてきた。
「なんか、僕の主神は『私は無名の神だからその神の眷属と知られれば差別を受けたりいじめられるかもしれないから知り合いの神によろしく言っておく』って言ってたよ」
「まぁ、確かに今見てる感じ十二暦神の眷属しかいないからな」
バルは納得してくれたらしい。バルと少し話しているとどうやら終わったらしく、先生がもう一度話しだした。
「さて、次は魔術試験だ。君たち各々自分の一番実力を出せる装備で体育館まで来い、今からちょうど二十分後に開始する。寮に戻る必要のあるものは早急に戻るんだな」
そう言ってヒルベルト先生が部屋から出ていくとぞろぞろと自分の部屋に装備を取りに行く人たちが出ていって教室の中には数人が残った。
「バルはいいの?」
「いいも何も俺は剣士で魔工師だぞ? 魔術師の装備なんてないぜ」
「でも連続して体力試験するかもしれないよ? 無いかもしれないけど剣術に関する試験もあるかもよ?」
僕がそういうとバルも「確かになぁ」と頷いて「取ってくるわ、先行っててくれ」と言って走って寮に戻っていった。一人取り残された僕はほかのクラスメイトに話しかけようかなぁって少し悩んで、諦めて体育館へ向かうことにした。しかし道が分からず到着したのは最後になった。バルから「何でお前が遅いんだよ」ってバカにされてしまった。
あっ、色々あります。
用語『ルクス・フレイヤホーン』
本名:ルクス・フレイヤホーン
第六百九十三期リーヤシュヴァレン魔術学院生徒会会長を努めている。めっちゃイケメン、文武両道を体現している人物。しかし、武術、魔術の実技分野ではレナ・アレストライに劣る。カリスマ性を持ち合わせ自然と周りの人を魅了していく。実はファンクラブがあり会員数は一万人以上。
用語『ヒルベルト』
本名:ヒルベルト
リーヤシュヴァレン魔術学院で教師をしつつ、リーヤシュヴァレン魔術大学校で研究者をしている。大学校で教鞭を執ってもいる。主な研究成果としては「小型アルカナの作成」が有名である。しかし、アルカナそのものが動作原理が非公開なため事実上それがアルカナを小型化したかどうかはわからない。しかし、効果としては寸分違わないためおそらく同じものだろうとされているが、大型にすることもアルカナほどの魔力発生は原理的に不可能なことも分かっている。何であれ、神匠に近い成果を上げられたことは間違いない
用語『リサ』
本名:リサ
神殿直轄の使者。普段からお金がなく見かねた同僚からよく奢られてるためとても残念なお姉さんに見えるが、実は転移魔術が使える。使者としての仕事だけではお金が足りないので、副業としてメイド喫茶でメイドをしている。一旦は夜職も考えたそうだが、ライラックから必死に考えを改めるように言われ今に至る。
『座標変換』
魔術区分:転移魔術
詠唱文
『(転移先)に運んでちょうだい
《座標変換》』
リサの魔術。一度行った場所に任意にアンカーを残し、魔術を唱えることでその座標に転移できる。アンカーは最大一つ。転移前の座標に戻ることはできない。いつもは家にアンカーを置いており、帰宅スピードはナンバーワン。しかし、同僚は誰も彼女が転移魔術を使えることを知らない。




