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雑談  作者: waterflea
プロローグ
9/19

9

「おや、もう桜が咲いているようですね。花見をしながら寿司を食いましょうか」とゼロダは言った。

「咲いているって言ったって、ちらほらと咲き始めたばかりでしょ。今日ぢゃないんですか?開花日は。それに、まだ花粉が沢山飛んでいて、全く油断できない状態ですよ」

「そうですかね」

 しかし、ブリストルマウスの握り寿司は、作った傍から食われたので、花見を行う余地は残らなかった。食べ終えると、外から焼き芋の匂いがしてきたので、ゼロダは、外に飛び出し、ホクホクのサツマイモを数本購入してきた。

「この焼き芋が甘くて旨いんでさぁ」とゼロダは言った。「普段は、冷蔵庫に入れて冷やして食べてるの。それなら一日くらい持つかな、と思いつつ。更に、所謂スイートポテトみたいな風味で旨いわけよ。特に、蜜の多い芋だからね」

 ゼロダは、郵便受けに入っていた朝刊も芋と同時に取ってきていたが、一通り目を通した後、それについて文句を言い始めた。

「こんな特集を組んだって、誰も分からないわよ。再生債権者が受働債権に付着している停止条件の利益を放棄して債権届出期間内に相殺を行うことは許されないと裁判所は判断したって。それがそんなに凄いことなのかしら?別段、その相殺を許すと判断していても、何もおかしくないわよね」

「何もおかしくないからこそ、今後取引をする人達が迷わないように、報道の必要があるのでは?」

「本気でそんなことを言っているの?そんな必要あると思う?仮に普通に生活していてお金が足りなくなり債務の弁済が出来なくなることがあるとしても、多くは破産してしまうから、再生手続を行うことになる人は稀でしょ?その手続きの中で、停止条件付の受働債権を持っている再生債権者がいることは更に稀」

「そうなんですか?停止条件付債務なんて数限りなくあるでしょう。各再生手続きの中に一人以上いてもおかしくない。更に、個人再生であれば、結構多いんぢゃないんですか?そりゃ企業の再生は少ないでしょうけど。スポンサーがなかなか見つからないでしょうし、自力再建といっても、経営に問題があった故の破綻なら、取引先や銀行は離れていくんぢゃないんですかね。でも個人については、金額と関係者の人数が少ないこともあり、また取引の内容が割と単純なこともあり、更に会社勤めとローン返済であれば、会社も銀行も離れる離れないの問題にはなりにくい。この国の内実は知りませんけど」

「そうなのかしらね。でも、そもそも相殺が何なのか。この新聞を読んでいる子供達はあまり知らないでしょう」

「子供用の新聞なんですか?」

「そうです。子供新聞です」

 しかし、特段、子供用であることを示した文言は新聞上には見当たらなかった。

「兎も角、相殺が何なのか、分かっていない読者もいるでしょう」

「皆知ってますよ。チャラにする、って、よく言うぢゃないですか」

「そうですね。よく、そういう発言を街角でも聞くことがあります。右の頬を打たれたので、相手の股間を蹴飛ばして、これでチャラだ、と、よくやりましたよね、子供の頃。しかし、古代ローマ法では、相殺は、元々は認められていませんでした。時代を経ると、認められることもありましたが、それでも、やや迷走しています。即ち、相殺というのは、現代では、相対立する弁済期にある同種の債務を対当額で消滅させる、というように定義されたと思いますが、見てわかる通り、結構要件が多いです。それが何を意味しているかと言うと、やはり、相殺は、気軽に認められるものではない、ということでしょう。なんせ、弁済に寄らずに債務を消滅させる行為ですから。先の子供の喧嘩の例で言うと、そもそも対当額ではない可能性があります。しかし、意外にも、他は満たされていると言えなくもない。いずれも、今、痛いのをどうにかせよ、という債務ですので。そうしてみると、要件は厳格に見えるだけで、案外何でも相殺出来るのかもしれません。現に、基本的に市場取引においては、金銭債務が多いので、殆ど相殺対象になり得ます。特定物の引渡債務や、労務提供の債務にしても、究極的には損害賠償債務となりますので、相殺出来ることになります。それでは、使用者に対する労働者の労働債務と、その労働者に対する使用者の安全配慮債務、これらは相殺できるでしょうか。多分、同種とは言えず、出来ないでしょう。使用者が労働者に対して労働債務を有していたら、代わりに労働をする、ということなので、同種といえるかもしれません。労働者が使用者に対して安全配慮債務を有していたとしても、具体的な内容が別個のものである可能性があるので、同種とはいえないかもしれません。そう考えていくと、金銭債務でも、ある商品を買って負った金銭債務と、他の商品を買って負った金銭債務、貸金返還債務、賃料債務、損害賠償債務…。こうしたものは、その原因を考慮するならば同種とは言えないのです。それで簡易決裁を認めると、濫用を招くのではないか、という不安が生じるでしょう。具体的にはこうです。債務の返済が出来ない債務者に危害を加えて損害賠償債務を意図的に負い、それと債務とを相殺する。これは、先の子供の喧嘩の例に近いですが、こうした不法が罷り通ることになる。そこで、現行法は、そういう損害賠償債務を受働債権として相殺することはそもそも出来ない、という相殺禁止を定めています。程度の差はあれ、他にも、債務者に、別の不利な契約を強要するなど起こり得るでしょう。そうしたことを踏まえて、古代ローマ法では、相殺が一切禁止されていたのではないかと思います。もっとも、相殺が認められた時期があったようです。しかし、その相殺も、同一の契約によって生じた債務間の相殺に限っている等、今とは全く異なります。つまり、その場合に許容される相殺は、請負代金支払債務と修補に代わる損害賠償債務などに限られるということです」

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