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雑談  作者: waterflea
プロローグ
10/19

10

 ゼロダは、室温でそこそこ冷えた焼き芋を冷蔵庫に入れながら「それで停止条件の話ですが」と、話し始めた。「停止条件というのは、その事柄が生じた場合に法的効果が発生する、という条件です。明日天気なら洗濯物を干す、みたいなことです。それを債務に関して言うと、条件が成就したときに債務が発生する、或いは履行期になる、という話です。この2つは具体的な事案においては区別すべきでしょう。通常であれば、そのような条件は、債務者にとって有利になるものでしかありません。何故なら、条件が成就しなければ債務を負わないか、少なくとも履行の義務が無いからです。債権者からすれば、そんな条件など無いほうがいいので、自ら、その利益を放棄して履行することは、通常、問題になりません。故に、平時には、条件の利益を放棄することが認められています。時効の利益なんかもそうですね。期限の利益も勿論そうです。破産手続においても、同様に破産債権者が停止条件付の受働債権を有している場合に、その条件の利益を放棄することは自由です。そして、そうした放棄によって受働債権を弁済期にすることで相殺することも可能です。相殺と弁済とは異なるのではないか。相殺をする場合には、相手方からすれば自働債権が消滅するわけで、それが予想外の時においてなされるのだから、利益が害されている面がある。そうすると、相殺まで自由に行うことは出来ないのではないか。そういうことも考えられなくはないでしょう。そこにおいて、相手方が主張する権利は、現実弁済を受ける利益です。確かに、お金が無いならば、現実弁済は必要です。身体加害による損害賠償債務を相殺に供せないことは、加害の誘発防止のみならず、現実弁済による速やかで実効的な救済を意図したものです。しかし、そもそも相手方は、その前に履行期の到来した債務を負っており、その現実弁済を、先に迫られている状態なのですから、寧ろ、停止条件付債権の条件の利益を放棄して相殺に供してくれると現金が減らないことになりますから、利益にしかならないのです。もっとも、破産手続においては、まさに、そのことが問題になりえます。何故なら、破産債権者は3%とかに圧縮された債権の弁済しか受けられないところ、停止条件を成就したことにして相殺すれば、相殺分は全額弁済を受けたと同様の状態を実現出来うるからです。停止条件なので、無論、実際には成就しないかもしれません。なので、その分の確率的な損失は破産債権者の抱えるリスク、危険負担となるわけです。これが、相手方には利益にしかならない、とさっきから言っている事柄になるのですが、破産手続においては、相手方との関係ではなく他の破産債権者との関係において利益となりうる、というわけです。しかし、法は条文を置き、これを明示的に許容しています。ところが、民事再生手続においては、そのような条文が無いので、破産と同様に扱ってよいかどうか、兼ねてより議論になっていたのです」

「そこへ、裁判所が、条文に無いので駄目だと言ったと」

「そういうことです。先ほども言ったように、相手方には何ら不利益を与えないので、停止条件の利益の放棄は自由なのが原則です。しかし、破産もそうですが、差押のようなものが入ると、差押債権者らの利益を害することがありえます。何しろ、相殺を担保のように行使して、差押えに優先して弁済を受けることになるので。それでも、それも認められているわけです。なので、再生でも認められて何らおかしくはない。では、何が再生手続では異なるのか。再生手続は、ある一時点で、いったん債務を一部免除して、経営は続けながら残りの債務を支払っていく、という方法をとります。そのために、債権届出期間に弁済期に無い受働債権を再生債権者が相殺に供することは出来ないという期限の区切りを設けています。停止条件付受働債権を、その期間内に弁済期にして相殺に供した場合、再生債務者は、後に全額現物弁済を受けられたはずの債権について、手放してしまうことになります。これにより害されるのは、再生債務者の経済的復活であり、ひいては再生計画の実現性です。裁判所は、これを重視したものと思われます。破産であれば、一部破産債権が手続外で弁済されるという破産債権者間に生じる不平等が問題になり、平時であれば、差押債権者が差押えの実効性を奪われることが問題になります。再生の場合には、今言ったように再生計画の実効性が問題になりますが、再生手続自体、なかなか繊細な制度なので、こういう結論になったものと思われます」

「平時においても、差押債権の停止条件の利益を放棄するには、現実に放棄の意思表示を行って、相殺の前に債務の弁済期を到来させておく必要がありますよね。ところで、相殺の担保的利用の話が出てますが、普通は、相殺の担保的機能に対する合理的期待が問題になりますよね」

「通常は、その文言は、あくまで受動的な態度で、債権債務の発生と差押や倒産手続開始との先後が曖昧な場合に、相殺即ち特定の債権者の利益を優先させるか手続即ち債権者全体の利益を優先させるかの判断において、当該特定の債権者の意思を尊重する観点から用いられると思います。なので、いざとなったら停止条件の利益を放棄して弁済期にすることで相殺に供するという内容の担保的機能に対する期待が、どのような場合にどの程度合理的なのかは、誰も考えていないのです。単に、停止条件の利益は自由に放棄できるのだから債権を相殺にも供せる、としか考えられていない。でも、どうですか?その期待は合理的なんでしょうか?」

「停止条件の利益を放棄してまで相殺を行うことについての合理的期待ですか。停止条件が通常は債務者の利益にしかならないことを考えると、例外的事情を事前に想定して、本来自分にとって不利益なことを行うことで被害を最小化出来るか否かという次善策のリスク計算を求められるというのは、期待にしては少し複雑すぎるような気もしなくはない。しかし、別に複雑ではない場合も普通に考えられる」

 ゼロダは、問うてきた割に、この議題に飽きてしまったのか、冷蔵庫を閉めると、再び新聞を読み始めたので、リカは立ち上がって、少し外を散歩してみようかな、と考えた。

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