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リカとゼロダは、取り立てて言及することの無い、どこにでも在る様な地下道や地下のショッピングモールを通り抜けて、何番かの出口で地上に出ると、そこは開けた台地であり、それほど遠くない崖の上に城と呼ぶべきお洒落な作りの建物が建っていた。ゼロダは、茂みの近くにある小さな小屋にリカを案内した。
小屋は煉瓦で建てられており、内部には暖炉とベッド、机椅子があった。最中が壁際に高く積まれていた。リカが最中に言及すると、ゼロダは、「冬の間は、外に出るのが億劫なので、最中を買い溜めて年を越したの。単に甘いものが好きだということから、そうしたと言うべきなんだろうけれど、餡子を主原料としているし、餡子は小豆を主原料としている。小豆は豆なので身体に悪いものではない、そう考えて、他よりは、つまり、ショートケーキやかりんとうよりはいいかな、と思って、そうしたというわけよ。でも、意外と余ったわね。冬の間は、凄く重宝したのよ。ここは、零下にもなるし、外へ出ると、忽ち凍てついてしまうわ」と言った。
「そんなところで生活していたんですか。少なくとも城の姫なのに。城からは何も言われなかったんですか?」
「城からはね。何も言われない。城は私無しでも回るし。寧ろ、私が余計なことを言うと、業務が滞るらしいのよ。なので、こっちにいました」
「それで、冬の間中、最中を食べて過ごしていたんですか?」
「そうね。最中を食べて、勉強をして、水鳥を観て、過ごしていたわ。鴨類は、冬に、もっと寒い地域から海を越えて渡ってくるでしょう?そして、水面があまり凍らない、この地域の湖で冬を越す。それらの渡り鳥がいなくなるときに冬が終わり、亀達が現れるときに、春が訪れるわ」
「鴨類はまだいましたね。でも、亀類もいました」
「そうね。つまり、未だ冬は終わっていなくて、しかし春は既に来ているのよ。だから、花粉も飛んでいる。室温は、20度もあるでしょう?」
リカは、他に話すことが無いかと部屋の内部を見回してみたが、最中以外の食材が無いことを除いては、話の種になりそうなものは何も無かった。
「買出しに行ってきますよ」とリカは言った。
「どこへ?」
「さっき、ショッピングモールがあったでしょ」
「どこにあったの?」
「地下の通りですよ」
「そうでしたかね」
「結構色んな店がありましたよ。ジュース屋、カレー屋、駄菓子屋、牛丼屋、寿司屋、天丼屋、弁当屋、ドーナツ屋、ラーメン屋、様々な食料品を売っている店もありました」
「そうでしたっけ。全く気づきませんでした。分かっていれば、最中ばかり食って糖尿病予備軍にもならずに済んだのに」
ゼロダは、小屋の鍵から靴下の糸を取り除いて、新しく、金色の小さな鎖を取り付けた。それを首にかけると、他は古代ローマ人が羽織っている一枚の布を服にしているような格好が、急に荘厳な趣を獲得した。リカが見とれていると、ゼロダは、暖炉の裏から、長い棒のようなものを取り出した。リカにそれを渡すと、棒は少し、形を変えたように見えた。それは、長い剣だった。リカは、それを腰に下げた。リカは緑色の森の小人が着る様なぼろ衣装を着ていたが、その衣装すら、急に荘厳な趣を醸し出した。しかし、その剣は、抜けなかった。
「これはどういうことでしょうか」とリカは言った。
「抜くべきときには抜けるのです。御安心なさい」とゼロダは言った。「仮に抜けなかった場合には、そのまま直接に人を殴ればいい」
「えっ?」
「そのまま、直に人を殴ればいい。敵が剣を持っていて、剣で戦ってくるのであれば、それに対応すればいい。鞘は相手の剣で?がれていき、遂には剣の本体が現れることになるでしょう。そのとき、敵は思い知ることになるでしょう。本当の??の剣の威力というものを」
「マァ、これは飾りの様なもので、実際に使うことはないでしょうからね。寧ろ抜けなくて良かった」
リカは上機嫌にそう言って、「さあ、ショッピングモールへ行きましょう」とゼロダを急かした。リカは剣を得てご機嫌な反面、酷い空腹で、何を食べるかしか考えられていなかった。正直なところ、何でも良い、とさえ、思っていた。最中でもいい。しかし、最中は食後にでも食える。また、リカも、実のところ、最中を日常的に食っており、そのせいで見ただけで口の中が甘くなるような気さえするような有様だったので、食事らしい食事がしたかった。「出来るだけ、食事らしい食事がしたい」とリカは切に思った。オムライス、食事らしいが、少しお菓子っぽくもある。ラーメン、天丼、寿司、牛丼、カレー、これらも、どこかお菓子っぽい。そうなると、弁当か食料品売り場の総菜になるのではないだろうか。何かを自分達で作っている時間は無いのだから。一番いいのは、弁当と総菜を買ってきて、小屋に戻り、そこでゆっくり食べることだ。そこで、リカは「私が一人で行ってきてもいいですけど」と付け加えた。




