表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑談  作者: waterflea
プロローグ
6/19

6

 それにしても、夢、というのは、脳の無意識的な働きにより偶然的に知覚するその場限りの現象なのだろうか。それとも、別次元の世界で永続的に存在するもう一人、或いは複数人の自分の体験なのだろうか。私は、後者もあり得ると思っている。何故なら、繰り返し夢に見る風景と世界、その中で完結した社会、環境といったものが存在するから。そして、それは、現実世界の活動には何ら影響してこないし、普通に生活しているときには忘れている。今、思い出そうとしてみると、ある程度、思い出すことが出来る。その場所の大体の地図が分かる。それらは、現実世界の何かに似ているかもしれないが、別に似ていないかもしれない。そんな場所は、現実世界には決して無いから。夢の中にいるときには、もう少し土地鑑を使うことが出来る。故に、鮮明に記憶を呼び起こすことが出来る。しかし、科学的に、そういう異次元に別の自分がいる、というような説は根拠づけられていないため、前者なのかな、とも思う。また、前者であることの裏付けとして、現実世界で会ったことのある人達が比較的よく出てくる。最も、彼らの役職や年齢はかなり異なっている場合がある。それは、自分についても同様である。更に、先ほど言ったような、ある特定の場所・環境にいつもいるわけではないように思える。しかし、それについても証明は無いのである。いったい、あれはどこなのだろう。もう一度行ってみたいのだが。木の長椅子が斜面に並べられている森の会議場。込み入っている宿泊施設。四方八方からの廊下が一点で交わる宿泊施設と一体化した駅。その駅の中の書庫の様な動く大きな本棚のある書店。その駅を通り抜けたところにある喫煙所のようなカフェ。そこで我々は待ち合わせを行った。

「それで国と言えるのですか?」

 ゼロダは、吸い殻入れに盛られた土に穴を掘って巣にし、そこから今は出てきて、土の上に座っているハムスターめいた小動物に対して言った。

「国かどうか、というと、国なのです。何故なら、城がある。領土の境界を決めるのは難しいですが、城の周りの人達は、城のことをよく知っているし、城に税金を納めているし、兵隊が雇われていて、国防と治安維持を担当している。裁判所もあり、判事もいる。貨幣経済が浸透していて、隣国との貿易も行われている。米、小麦、トウモロコシなどの穀物や、キャベツ、トマト、大根などの野菜の生産も盛んだし、湖や海での漁業も盛んだ。慈愛の制度もある」

 小動物は、穴から、古びた鍵を引き出してきて、「これが城の鍵だヨ」と言った。

「ハムスターって喋れるんですね」とリカは言った。

「ハムスターが喋れるかって?そんなわけないでしょう。腹話術ですよ」

 ゼロダは笑って、しゃがみこみ、解れた靴下の糸を引き抜くと、小動物から手渡された鍵の穴に、その糸を通し、ネックレスのようにして首にかけた。

「ここの喫煙所には、以前、誰かいませんでしたか?確か花か何かを売っていたような」

 我々は、歩いて、建物の外に出る道を探した。喫煙所が一階であることはおそらくは確かなのだ。何故なら、そこは、小学校の靴箱のように、半分外だから。その証拠に、木や他の植物が周りに茂っていた。しかし、その植物の向こうには壁があった。文字通りの壁や建物、それから土の崖で閉ざされ、その向こうを見ることは出来なかった。喫煙所は黒い一枚岩のうえにあり、木造の階段が腰掛代わりになっていた。その尽きるところも、板の様なもので閉ざされていた。しかし、その向こうには線路の様なものがあると推測できた。周期的にゴーゴーという音がしていたからだ。

 そんなことを考えている間にも、ゼロダは、元来た道を急いでいた。リカは、ゼロダがハムスターを抱えて、独断で動物病院かどこかに連れて行こうとしているのだ、と、何故か勘違いをして、その後を追おうとした。そんなことをしている場合ではないからだ。この人工物の中で、元気なハムスターを、それがハムスターである、というだけの理由で過保護に扱うのであれば、無駄に時間だけ食われて、飢え死にしてしまう。もっとも、その勘違いは、吸い殻入れが視界に入ったときに解消された。穴の中にハムスターの脇腹か尻かが見えたからだ。

 リカは、ゼロダが単に出口へと急いでいるのだと知り、後を追った。何故、ゼロダは、喫煙所の周りを隈なく観察せずして、ここに出口が無いと分かったのだろう。渡された鍵が羅針盤のような役割でもしているのだろうか。まさか。ゼロダは、深く検討せずに、元来た道を急いでいるのだ。もしかしたら、今いる場所のすぐそばに出口があって、それはハムスターの巣穴のように、普通の出口とは異なる作りのものであるかもしれないのに。

 そのうえ、リカは、自分がどういう経路で、この場所まで来たかを、完全に忘れてしまっていた。ゼロダが歩く方向は、自分がここへ来た道だろうか。仮に、そうであるなら、何かを思い出すのではないだろうか。何も思い出さないということは、この道は自分の通った道ではない。ということは、ゼロダが通った道なのだ。そして、ゼロダは、自分の来た道を覚えているから、出口が分かるのだ。ゼロダは、その場所から、ここまで来たのだから。そして、おそらくは、そっちに城もあるのだ。

 つまり、ゼロダは、城を知っているのだ。城のみならず、田畑や湖まで。リカは、ゼロダが「腹話術ですよ」と言ったことを思い出して、今しがたの発想を確信に変えた。出口を求めてリカが喫煙所の周りを探し回っているのには目もくれずに一人で先を急ぐのはおかしいと思ったが、そういうことだったのか。ゼロダは、腹話術で、記憶を失ったリカの置かれた状況と、これから起こり得る事柄とを、面白おかしくリカに説明したのだ。その説明が終わったので、普段の生活に戻ったのだが、リカは余りにも記憶喪失なので、まだ、その辺りに出口は無いかを探していた。しかし、そのほうが異常だった。その行動を正しいと考えることで矛盾が生じた。それは、ゼロダがハムスターを抱えて動物病院へ急いでいる、とリカが思ったことに象徴される。リカの行動が求められたそれならば、その発想も正しかったのだが、事実は、リカの行動は求められたものではなかった。故に、混沌が生じたのであった。

 リカはゼロダに追いつくと、「城に行かれるんですか?」と尋ねた。

「そうよ。正確には、城の傍にある小屋にね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ