2
機体はごく短い間隔で飛び出していた。それらの旅客機は、リカ達の眼前を真っ直ぐ横切り、一定の場所で緩やかに上昇していった。それらは爆音を立てていた。爆音は少し遅れて、リカの耳に届いた。上昇しない機体は、滑走路の端まで走ると、折り返してきた。それらは、今しがた着陸したばかりの機体だった。
リカ達はI空港の展望デッキにいた。リカは航空関係の仕事をしていたため、そこは、彼にとっては馴染みのある場所だった。しかし、彼は、お土産に、I空港のマスコットのキーホルダー…プラスチック製の立体のもの…を探した。それは、それくらいしか欲しいものが無かったからだ。もっとも、それは見つからなかった。空港のレストランは、どこも数割増しの値段がついているように見えた。お土産の菓子でさえ、駅に比べて高いような気がした。しかし、彼は、餅を餡子で包んだ菓子を買って、それを展望デッキに持って行った。
リカは、菓子を食べながら、機体の上がる様子を注意深く眺めてみた。それは、そこに何らかの道があるかのように、変化なく進むものだった。彼は、その様子を、鳩のそれと比べてみた。鳩達は、彼が近寄ると、一斉に飛び立った。それは、その場で垂直に飛び立っているように見えたし、せわしなく大きな羽を複雑な動きで羽ばたかせるものだった。根本的に…と彼は考えた。鳥が空を飛べる、という事実からして、人が空を飛べないとは考えられない。ただ、現実に、その方法は、相当異なっている。とはいえ、羽が必要なのは同じであり、本当の基礎的な発想は同じなのだ。
人は、しかも、その発明により、元から飛べていた鳥を遥かに凌ぐ飛行能力を手に入れた。巨大な旅客機、超音速飛行機、ヘリコプター、小型飛行機、戦闘機、爆撃機、飛行船、グライダー…。用途に応じて様々なものがありもする。
「無論、議会は一党がある程度の議席数を獲得したからといって全議席を取得することは出来ないけれど、会社では出来るのよね。議会で出来ないというのは、今は、民主政を出来るだけ理想に近づけようという風潮があるからで、そうでなくなれば出来るようになり得ると思う。歴史上は、似たようなことが出来た憲法もあったでしょ。執行権と議会とで意見が同じであれば、それを独裁とか僭主とか専制とかいうかは別として、施策の決定が早いことは確かよね。だから、どの為政者も、それを目指しているはずだけど、今は抑制と均衡を利かせているから、相当敏腕でなければ不可能よね。しかも、何だか知らんが、それが起こりそうになると、寄って集って集合体を分散させるための合戦が始まると来ている。誰かが、連邦制にすれば、勢力が分散して大きな勢力は生じにくい、とか、党派内部でも分裂は進む、とか言ってたのは、多分、真実だし、実際、分裂しまくってる感じはする。それも、たぶん、民法制定、とか、刑法制定、とかであれば、論争するために纏まるんだろうけど、行政法の細かな個別法のことばかりなので、分裂もしやすい、ということだと思うけど、語弊があれば、この点は訂正する。会社では、殆どの株式を取得した株主は、株式売渡請求権を有し、強制的に他の株主から株式を買い取れる。そこまで株式を取得しなくても、株主総会で、全部取得条項を既存の株式につける旨決議するとか、株式併合を行うことにより、一定数以上の株式を持っていない株主は一株未満の株式しか所持していないことに出来る。一株未満の株式は、会社が集めて競売にかけることになる。反対しておけば、相当な対価で一株未満の株式を会社に買い取らせることが出来る。何故、議会では、これが認められず、会社では認められるのか。議会は、何故、議会で認められないそれを、会社で認めるよう可決したのか。なんでだと思う?」
ゼロダは、展望デッキに来ても、滑走路のほうは殆ど見ずに、首筋や肩を気にしていた。彼女は、肩凝り腰痛に悩んでおり、歩き回れば血行が良くなって治るかと思ったが、今は、風邪も引きかけていた。
「議会の少数党派は少数であることに対して責任がない。対して、会社の弱小株主は、弱小であることに責任がある。会社は、良いものを作って利益を生むことが目的であり、それへの貢献度は一つの物差しで測ることが出来る。対して議会の目的は民主的な国家運営だが、少数党派の利益と多数党派の利益とは一致せず、同じ物差しで測れない場合がある。国家は一つしかないが会社は複数あるし簡単に新設できる、というのもあるかな」
「なるほど。そうかもしれないわね。正当な選挙を経て選出されているのと、お金を出して地位を得ている、ということの差もあるかもしれないわね。目的がそもそも異なるということなんだけど、選挙民の意思はどこへいくのか、民主政はどうなるのか、という話に直結することになる。株式は、そもそもお金のある人が取得できるという性質のものなので、それを予め皆、分かっている。でも、平等でない気もするでしょ?有無を言わさずに権利を剥奪される辺り」
「確かに、選挙民の平等とかは考慮しなくていいけれど、同じ一株の権利を同じ条件で手続きを踏んで取得したのに、それを一方的に奪われるのは平等でない部分がある。しかし、これを、議会は平等と言っているわけだから」
「実際、使い方によっては、平等原則違反になる場合もあると思うのよね。例えば、グリーンメーラーみたいな目的のために制度を用いるとか。自分の思い通りにしている度合いが、企業価値の向上を考えている場合よりも高いでしょ。それなら、弱小株主にもグリーンメーラー目的での株式併合を潜在的に認めるのか、という論争になりそうだけど、潜在的には認めてもいいんぢゃないかしら。制度設計が許容しているのだから」
滑走路からの轟音で完全には聞き取れなかったが、リカは頷いた。




