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雑談  作者: waterflea
第一章
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「成程ね」とリカは言った。「姫様が差押えと仰るなら、それは差押なのでしょう。では聞きますが、逆に、差押えと異なることは何でしょうか?」

 ゼロダはキャラメル味のクルミやアーモンド、ココナッツを一人で食いながら、手続開始決定の差押え類似性について話していたが、リカの上記の様な問いについても躊躇なく対応し始めた。

「差押えは何のために行われるのか。優先的な債権回収のためです。そのために、差し押さえられると債務者はその債権や物について処分が禁止されます。そして、債権であれば転付命令、物であれば競売の手続きに移ります。手続開始決定の効果も、基本的には同様です。決定時の債務者の財産状態を固定することが至上命題となります。しかし、異なるのは、こちらの場合には、債務者の財産が包括的に差し押さえられる、ということです。個別財産の差押えであれば、何やら分からん事態を未然に防ぐことは比較的容易い。しかし、全体財産を差し押さえるということは、始めから債権者の皆様は債権の全額回収は不可能だ。そんな財産権の制約を許すのは、債務者の具体的な窮境であり、経済システムの崩壊であり、切迫した債権者及び国家社会の損失だ。まさに火事場、であり、火事場泥棒対策を共に行う必要がある、という点が最も異なっていると思われる。例えば、条文には、公告により悪意推定は働くものの、決定後の善意の第三債務者による債務者への弁済は効力を生じると規定されている。個別の第三債務者全員を捕捉出来ないのでこういう定めになっている。しかし、善意の火事場泥棒が生じない限り、通常の差押えと変わるところはありません。ただ、このことからも分かるように、第三債務者が多数に及ぶ、また、債権者も多数に及ぶ、つまり差し押さえられる者と差し押さえる者が多数に及んでいる。そうすると、第三債務者に対する弁済禁止のみならず、債権者間の平等弁済の要請故の個別的債権回収禁止もなされることになります。それが要するに、既判力を有する債権者表の裁判所事務官による作成という形で顕れるわけです。しかも、債権者表に載せるために、債権者は自身の破産債権を届出期間内に届け出る必要があります。届け出られた債権は管財人により調査されて認否がなされ、また他の破産債権者から異議が申し立てられれば、査定を行うことになり、その後訴訟に移行することもある。因みに、開始決定当時に訴訟で争われていた債権も、決定により訴訟が中断することから、他と同様に届出をまず行うことになり、それでやはり争われれば、管財人が中断していた訴訟を受継することになる。更に因むと、破産債権に関わらない財団についての訴訟は、同様に中断するが、管財人が受継できると規定されている。これは特に第三債務者に対する財団の自働債権に関する訴訟などだと思われる。包括的差押え故に、正に火事場が生じている中、手続を進めることになるというわけだ。破産者が居所を指定されることがある等も火事場泥棒対策ではあるな」

「通常の差押えは個別的な債務者財産を特定の債権者が自身のものとするために、その処分を禁止するものだが、手続開始決定は、債務者の全体財産から全ての債権者が平等弁済を受けられるように、その処分を禁止すると共に個別の差押え等債権回収も禁じるものだ、というわけでしょうか。そして、その後の実行としては競売や転付命令の前に、或いはそれに加えて、更に全体財産を財団として財団所属財産を画定し、生じた現有財団を法定財団に近づける作業を行う、ということでしょうか。担保物権はどのように処遇されるんですか?例えば、抵当権の物上代位では、抵当権には登記に公示力があるので、換価価値の差押債権者や債権譲受人に対抗できるが、転付命令に関しては、執行手続が、その後の差押債権者に優先する、としている関係上、差押えをなさねばならぬ抵当権者にも同様に優先します。一方で動産売買先取特権については、公示が無いので、換価価値が債権譲渡されると、その前に差し押さえていない限り、物上代位出来なくなりますが、単なる差押債権者には対抗できます。他にも担保物権は色々ありますが、どうなんでしょう?」

「そうですね。まず、現有財団を画定するのが大変です。何故、そんなことをしなければならないのか。この世には億千種の財産権が在るからです。それも動産だけならいいが、不動産、自働債権、受働債権があるからです。でも、個々の動産の価額を把握するのも至難ですよ。専門家に頼まねばなりません。そういう査定を行っている企業があります。換金するために管財人自ら露店を開くこともあるらしいです。しかも、動産についても、やはり訴訟はある。感覚的には、不動産や債権についてのほうが、争訟になっていることは多いですが。不動産のややこしいのは、金額がデカい、住み込んでいる等すれば人の生活が乗っている、権利が登記により公示され、担保となる場合もあるし、賃借権が付く場合もあるし、遺産分割前の共有であるとか、権利を主張する者が大勢になり、かつシッカリ調査しなければ権利が画定出来ない場合がある、ということだと思う。債権に関しては、存在の端緒すら目に見えない。故に届出義務を債権者のほうに課しているのですが。兎も角、そのような困難を乗り越えて、現有財団を何とか画定したとしましょう。しかし、それらの財産について権利を主張してくる者が沢山想定されるし、今は財団に所属していないが、本来ならば法的には所属しているはずの財産を取り戻す必要がある。これが法定財団に近づけると言っていることの意味ですが。勿論、現有財団を調査している傍から、それに対応せねばならないこともあるでしょう。その中の一つに、別除権の問題があります。別除権というのは担保物権を言い換えたものですが、手続開始決定により、その性質が変化するものがあります。例えば、民事留置権は消滅します。他は、そんなに変わる印象はありません。抵当権者は手続開始決定に優先して、その物から優先弁済を受けられます。動産売買先取特権についても同様です。もっとも、担保権消滅請求は意味合いが変わってきます。平時であれば、第三取得者が、その物を使いたい、という理由から行うものと思われる。これは再生手続のそれと同種といえなくもない。しかし、再生手続においては、再生という手続の目的があるため、そのための必要性を考慮して、許可される。条文には、事業の継続に欠くことが出来ないとき、財産の価額の納付で消滅させられる旨規定されている。一方で、破産手続においては、競売にかけるよりも任意売却のほうが高額で換価できることがあるので、換価金の一部を財団に組み入れる意図で行われることが多い。条文には、破産債権者の一般の利益に適合する場合に売却代金の納付で消滅させられる旨規定されている。ただし担保権者の利益を不当に害しない場合、との但書がある」

「思いの他、平時の差押えに近似していますね」

「もっというと、平時では、契約自由の原則が妥当するので、合意の上抵当権や何かを消滅させることは自由でしょう。倒産手続でもそれは同様です。別除権協定といって、被担保債務の弁済計画と共に、担保権の実行を保留するとか、担保権を消滅させる、という協定を締結する場合があります。もっとも、その交渉において考慮せねばならない事柄は、平時とはかなり異なってくるでしょう。破産手続であれば、総債権者の一般利益。再生手続であれば、事業の継続・再建。それらの手続きの目的の為に、他の倒産実体法が稼働していますので、それらの動向をも踏まえながら、交渉することになるでしょう」

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