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雑談  作者: waterflea
第一章
19/19

19

「でも差押えって、債務名義を裁判所に持って行って執行文を付与してもらい、或いは担保権の実行であれば、担保権の存在を示す文書を、執行裁判所に持っていけば割と簡単に行えるんでしょ?それに比して、倒産手続開始決定には要件がありますよね。要件該当性判断が、これまた骨が折れるんぢゃないですか?支払不能か否かを画定するには、計算書類と財産目録は提出必須でしょうね。再生手続に至っては、そのおそれ、とか、事業継続が困難、とかなので、帳簿やその他の追加書類が必要な気がします。しかも、その時点では、全ての債権がスンナリ分かるわけでもないでしょうし、普通に要件該当性判断がややこしい申請型処分の部類に入るでしょうね」

 リカは、ちんすこうを食いながら言った。

「そうですね。裁判所事務官が現場を見に来ることはあまり無いでしょうが。管財事件だと、管財人も同時に選任されますからね。因みに、申請を行う申立代理人が管財人になるわけではなくて、管財人は名簿から裁判所が選びます。名簿登録にも見習い年数要件などあります。本人だけで申請するのは難しいことが多いでしょう。というのは、書類が煩雑、ということもありますが、寧ろ、同時的に保全処分を行う必要があるからです。申立から決定までの間に財産が散逸しないようにするわけです。個別の仮差押え。処分禁止命令といったか覚えてませんが、それのみならず、包括的処分禁止命令を出す必要があるときもあります。ただし、条文にはなかったと思いますが、再生の場合は、事業を継続する必要があるので、重要な取引先の少額債権などは例外的に弁済することがあります。この辺りの開始決定がなされるまでの攻防が通常の差押えとは大きく異なりますね。オイルショックなどを見ても分かる通り、品切れ寸前の状況は、放置すると無法状態っぽいことになりますんで、制度を固めておく必要があるのです」

「しかも、申請から決定までの期間は、倒産実体法上も、特異に扱われていますよね」

「特異というか、支払不能、支払停止、申立て、開始決定、と通常は進むので、それらの区分ごとに、言うなれば、そう、火事場泥棒を制圧しよう、と、制度が建てられています。たとえば、インフラですね。継続的契約。開始決定前の原因に基づく債権は通常破産債権になるんですが、申立後に発生したもの、即ち申立後に一期間の一部でも入っている期間分の債権は財団債権になります。財団債権というのは手続外で弁済を受けられる債権です。破産債権は、債権者表に記載された後に圧縮されます。これは、要するに、インフラの供給を止められると、財団は機能不全に陥るので、仮に決定前に債務不履行があっても解除できないように規定した代わりに、財団債権部分を拡張した、ということでしょう。現に供給中のインフラの対価が破産債権になると分かりながら供給を強いるのは不当だという見解もありえるかもしれません。再生手続でも同様ですね。再生だと財団債権ではなくて共益債権です」

「申請の時点で債権の種類を分けることは稀ですよね。他にありましたっけ。通常の債権は破産債権や再生債権となるので、手続外弁済の行える債権は、寧ろ特殊です。双方未履行双務契約で履行選択をした場合の債権とか、解除選択時の原状回復債権とか、は財団債権、共益債権となります。他には、どこかに列挙した条文がありましたよね。でも、何故、その解除時の損害賠償請求権は破産債権になるのでしょう?」

「それは本当に何でなんでしょう。調べれば分かるかもしれませんが、調べる気になりませんね。制度趣旨に遡れば分かるでしょうか。しかし、双方未履行云々というのは、制度趣旨にも数説あります。要するに、手続開始時点で、いずれも未履行の双務契約なわけですが、一部お金が支払われていても、大概、双方未履行としたと思いますね。請負の場合に、一部完成していて、それが注文者に利益となるものならその部分を仕事の完成として既履行とする、という特則が民法にあったと思います。この場合には、お金が支払われていれば、仕事の完成部分に相当する支払済み分が既履行となるでしょう。先ほどのインフラの供給契約も、双方未履行になりえます。寧ろ、全体契約単位でみると、双方とも既履行にはなりえない。しかし、そんなことをすると、同時履行の抗弁権が残り、インフラの供給が止まります。なので、期間で区切っています。管財人が解除した場合には、供給してしまった分は解除できず、申立後は財団債権となるのではないでしょうか。使用量に応じて支払いの額が変わるわけだし。兎も角、双方未履行双務契約は、管財人が履行か解除かの選択が出来ます。寧ろ、履行というのは平時であれば当然なのですが、破産手続だと、逆に、履行請求に裁判所の許可が要るのです。相手が任意に履行するならば、それで良くて、履行選択に裁判所の許可が要るわけではなさそうです。これに対して、再生では解除に許可が要ります。つまり、破産では、解除が標準設定というわけです。でも、損害が発生すれば、賠償はせねばなりません。それで、解除が標準であることの意義ですが、そもそも双務契約には同時履行の抗弁権があるので、そのまま持ってくると、財団の債権にデッドロックがかかる蓋然性が高いです。故に、同時履行の抗弁権を奪う代わりに財団債権として、財団財産を拡幅しながら、相手方にもある程度の期待権を残した、という説がある。逆に、手続開始決定によって、当然に同時履行の抗弁権は消滅するが、それだと相手方に不公平すぎるため、財団債権に地位を押し上げた、という説がある。条文の規定ぶりからみると、当然に解除されるが、財団にとって有益な債権は残せるようにした関係上、公平のために、その場合、相手方の債権を財団債権とした、という説も説得的です。私は、しかしながら、民法の原則をあまり変えたくないので一番目を支持しますかね。その場合、条文の規定ぶりは、単に解除されることが多いから、ということになるでしょう。対して、再生では、履行選択されることが多いから、ということになります。再生では事業が継続するので、より平時に近い形で契約関係を残すべき場合が多いでしょう。これが、制度趣旨、ということになりますが、リカの問いは解明されそうにないですね。問題は、原状回復債権も損害賠償債権も、契約が締結されたこと及び解除されたことの双方が、その発生に起因していることです。そして前者は開始決定前の原因です。起因度合いに差が認められるでしょうか。損害賠償債権は予期せず多額になったり、全く発生しなかったりするでしょう。そして、それは、解除の事実以外の事情に左右される。他方、原状回復債権は、解除自体により、量的には異なれど、質的には同じものが発生する。内容が履行のための措置の巻戻しと統一されている。損害賠償の内容は事情に応じて千差万別で多岐に渡る。その違いが理由の一端となっている気はします」

「損害賠償債権を財団債権とすると、契約自体の必要性以外の事情により、巨額の賠償債務を財団が負いかねない、という現実的な考慮が働いたんでしょうかね。もっと理論的に説明した文書があったような気がしますが、忘れました。双方未履行双務契約は、債務者でありながら債権者でもある関係者に関する制度ですが、平時であれば、同時履行の抗弁権を請求異議の訴え等で主張できるものでしょう。その同時履行の抗弁権を、どの段階にせよ奪い、財団債権として扱うという妥協の産物なわけです。債務者の地位としては、平時よりも下げられていることになります。或いは債権者としてみると、その地位もやはり、下げられています」

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