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そのとき、アリスの腹が鳴ったので、ゼロダは冷蔵庫からサツマイモを取り出した。
「食べる?」
「いいの?私、今朝から何も食べてなくて」
「あげるわ。私は糖尿病予備群だから、G1値低めの冷えたままで食べるけど、電子レンジにかけようか?」
「いいわ。私も糖尿病予備群だから」
「そうなんだ。サツマイモって、満腹感があるから、重宝するんだけど、今日は握り寿司を食べていたから、炭水化物の摂り過ぎになるかも、と思って、買ったはいいけど食べたい気持ちが減退したのよ。晩まで待てば変わるかも知れないのにね」
「私は、今朝から何も食べていないので、非常に有り難いわ。寝る前に大福などを、たらふく食って、朝飯は食わない、というライフスタイルが、痩せ形なのに糖尿病予備群という診断に繋がっているのかも知れないんだけど」
「大福?私は最中を日常的に食っているけど?やっぱり餡子は血糖値に良くないのかしら」
「餡子が血糖値に良くないのは当たり前よね。そして、正直甘いだけで、そこまで美味しくない。こう言ってはなんだけど、サツマイモと良い勝負よ。それでも、買い置きしたくなる理由、それは、まずは、ポリフェノールに対する淡い期待。含有量は少ないのかもしれないけれど、あの色を見てよ。真っ黒けでしょ?あれがポリフェノールの色だとすれば、少なくとも一定の健康効果を表明してはいるわ。そして、外れのない美味しさ。確かに甘すぎると感じるときはある。しかし、和の味なのよ。終には帰り着く味。甘さ以外の味について、私達は、それをよく知っている。だから、甘みがどれ程強かろうと、そこには帰る場所がある。そんな感じの安心感。それは、他のどんなお菓子にも出来ない最高級の貫禄なのよ」
「砂糖を入れまくれば何でも甘くなるもんね。大切なのは、砂糖以外の味なのよね」
「そう。それがどんなに僅かでも、私達は、甘みの隙間に、それを感じるの。その味が自分を拒絶しているか抱擁しているか、その区別が大事なのよ。だから私は、こうも思っている。糖尿病予備群になってはいるけど、悪いのは餡子ではなくて、それ以外にも食うことのある様々なお菓子なのではないかと。私は餡子に馴れすぎているため、他のお菓子は、実はストレスになっているのではないか。ストレスも関係するらしいからね。血糖値には」
「食事が全てというわけではないらしいわよね。元々の体質もあるんだろうし。膵臓の機能面のみならず、餡子が無性に食べたくなるというような嗜好を含めての話だけど。睡眠などの生活習慣。ストレス。様々な要因が複合的に重なって異常は生じるらしいわよね」
アリスはサツマイモを頬張りながら「それにしても、小鳥の声が囂しいわね」と言った。「良い意味でね」
「良い意味で囂しいなんてあるの?」
「囂しいのは確かなんだけど、それはそれで仕方ない。嫌なら他の音でかき消すことも出来るし、聞こえないところに場所移動することも出来る。囂しいと感じるのは、私が今、他の作業をしているからであって、何もしていなかったら、あの鳴き声に感謝するだろう。一般的には歓迎されるものが、特殊な事情によって、やや疎まれている、という状態なのだ。だから、私は、あの小鳥の声を、疎ましく重いながら、一般的には歓迎している。小鳥が囂しいのは一般的には歓迎なんだよ」
「今の時期限定の鳴き声もあるだろうからね」
「そうなのよ。大部分は今限定だわ。夏になれば、また雰囲気の異なる鳴き声を聞くことになるでしょう?」
「夏は、鳥よりも虫、蝉の声が凄まじいよね」
「そういえばそうね。ところで鴨の鳴き声は聞こえる?」
「鴨は小さな声で鳴く上、池にいるので、ここまでは聞こえないわよ。奴等は始終鳴き続けているんだけれどね」
「ずっとコミュニケーションを取っているの?」
「そうかな、と思っていたんだけど、どうも、一羽でいるときも鳴き続けているみたいね。用水路に一羽でいる鴨が、10cmも無いであろう水底を漁りながら、鳴き続けているのを最近見たわ」




