6.勇者は、護衛騎士を見繕う
お嬢様を馬車で殺そうとした犯人は見当が付いている。
まぁ、殺すまでするつもりは無くて、怖くなって逃げ出すことを期待していたみたいなんだが……。
それに便乗して、殺しに来た奴がいたって事かも。
その馬鹿な犯人は長男のルドルフ。ある日、マリアお嬢様は見てしまったんだ。金庫から金をくすねるルドルフを。
偶然、本当に偶然、寝付かれないお嬢様は庭を散歩しようと廊下を歩いていた。
そうしたら扉が開いて、灯りが外に漏れているのを見て、覗き込んでしまったっていう、よくある話だ。
更に、お嬢様を追ってきたランスロットにも見られてしまった。
慌てて金を後ろに隠したが、はっきり見られてしまった。
「何をこんな夜中に歩き回っているのだ。兄弟を貶める材料でも探すつもりか?!」
と、いきなりの開き直りだ。怯えたお嬢様を庇うようにランスロットが慌ててお嬢様を廊下に引き戻し、部屋に連れ帰った。
いや、そこで逃げちゃ駄目だな。ランスロット。
だから、大怪我負わせれば、怖くなって家から逃げ出すだろうなんて、くだらない事を考えたりするんだ。
お嬢様が隣領地のイベントに参加する事になったのも、その帰りに狙うつもりだったから。
しかし、盗まれた金はどうなったのかな?特に問題は起きてないから、アーリア夫人が、見逃してあげたのかも。
だったら、最初から襲うな。いつかは決着をつけなければいけないが、それはまだ今じゃない。これ以上手を出して来ないようなら、とりあえず様子見だ。
今の俺の最大の懸念事項は護衛だ。これから先、貴族の常識としては護衛が居ないのはおかしい。
当然だが、俺より強い護衛はいないと言ってもいい。だけどね、見た目なんだよ。執事が護衛も兼ねるって不味くないか?
それに、俺は執事を辞めて騎士になるつもりは無い。
だってそうじゃないか。騎士はお嬢様にお茶を入れたり、朝、起こして差し上げたりできないんだぞ。
俺は暇さえあれば、騎士の練習場に足を向けた。
正直なところね、あんまりあ〜んまり行きたくないんだけどね。だってなぁ〜騎士の中にはランスロットに秋波を飛ばしてくる奴が数人居るんだよ。嫌だよね。
もちろんそいつらは護衛対象外確定なのだ。
その日は、人目を避けるようにこっそりと騎士団の宿舎に、まだ、練習場に入れて貰えない下っ端を見に来た。まだ変な癖もついてなくて、磨けば光る原石。
「おら、グズグズするな!これも運んどけって言ったろ?」
大柄な男が小柄な男を蹴飛ばしながら、命令している。
この屋敷は、何処に行っても人を虐めるクズばっかりだな。
「……ない。」
「はぁ?なんだって?声がちっこくて聞こえないなぁ。」
「それは、俺の仕事じゃない。」
「なんだと!」
「それは、あんたが命じられた、あんたの仕事だ。」
「お前、そんな生意気な口を聞いて良いと思ってるのか?!」
キッとあげた顔を見れば、まだまだ子どもだが、意志の強そうな顔をしている。
大柄な男は握りこぶしを作ると、小柄な男に殴りかかった。
あの年頃では、体の大きさは強さの差になる。小柄な男は、殴られて、吹っ飛んだ。
だけど、俺は見逃さない。良いじゃないか。ちゃんとダメージを喰らわないように受身をしている。今のは態と自分から飛んだから、殆どノーダメージだろうな。
「どうだ?言うことを聞く気になったか?」
「嫌だ!」
「なんなんだよ、お前。昨日までと態度が違うな。なんでそんなに強気になってんだよ!」
はっはぁーん。気づいてるんだ。俺の事。良いねぇ。
大柄な男は、小柄な男の強い視線にタジタジになっていってる。俺はそこまで見ると、静かにそこを離れ、団長執務室に向かった。
「ランスロット、何の用だ?」
「団長に一人団員を譲って頂きたく、お願いに参りました。」
「ふむ。マリアお嬢様の護衛か?」
「はい。」
「良かろう。後ほど候補を数名用意するので、その中から選べば良い。」
「いえ。欲しい人間はこちらで既に決めさせて頂いています。」
「あぁ、そういえば、訓練場を時々見に来ている、噂になっていたな。良いだろう。名前は分かるか?」
「名前はわかりませんが、目立つ特徴のある者です。まだ、練習場に入る事を許されていない者で、小柄、左手の甲に星型の痣のある少年です。」
「ん?ヤールの事か?いや、彼奴では護衛の役目は果たせまい。身元は悪くないが、他のものを選んで貰えないか?」
「どのような身元なのですか?」
「出入り商人の身内なのだが、騎士に憧れているそうで、頼まれて引き取ったが、まだ体も小さく、あのままでは到底騎士になれそうにない。」
「年はお嬢様と同じぐらいでしょう。まだこれから成長するでしょう。私にも剣術の心得はございます。あの者に指導するつもりです。」
「あなたが?失礼だが、余り得意には見えないが。」
団長は身長は高いが、細身のランスロットの体をじろりと見る。
「よろしければ立ち会いましょうか?」
「まあいい。役にたたんと思えば、戻してくれ。」
「ありがとうございます。」
「呼ぶから、連れて行くがいい。」
俺は深く頭を下げた。
間もなく、あの小柄な男、ヤールが連れてこられ、俺は彼を連れて団長執務室を出た。
「私は、マリアお嬢様の執事。ランスロットです。今日からあなたにはお嬢様の護衛となるよう努めて頂きます。」
「は、はい。お、俺なんかで良いんでしょうか。まだ、ろくに練習もできてないのに……。」
「良いですよ。あぁ、でも、そんな弱い者の振りはしなくて結構です。あなたが、暗殺技をどこで学んで、この屋敷に潜り込んだのかは聞きません。お嬢様を狙っているなら無駄な事だと体に教えてあげましょう。」
「!」
ヤールは一歩後ろに飛び退き、何処から出したか、短刀を構えた。悪くは無いが、遅いな。一歩で間合いを詰め、手を捻って短刀を奪い、それをヤールの首筋にあてる。
「動かないように。毒が塗ってあるのでしょう?一歩でも動けば、首を斬りますよ。」
「あ、あんた。」
「雇い主はお前の事を知っているのか?」
「いや、知らない。組織に派遣されただけだから。」
「では、組織ごと従わせよう。案内しろ。」
「あ、あんた、何言ってるんだ。」
「言葉通りだ。今すぐ行くぞ。」
「狂ってるのか?」
「いやいや、とても正気だよ。」
使い物になる奴は何人ぐらいいるかな?俺は良い拾い物をしたと、ヤールに短刀を戻してやりながら、一緒に屋敷を出た。
お嬢様の勉強時間はあと四時間。急いで片付けて戻らなければ。




