7.勇者は、護衛団を支配する
ヤールを連れて1時間。馬にヤールを乗せて、アジトに向かった。ヤールはまだ若いが、組織の中での実力は上位。あの屋敷には騎士団が居ると言うことで、ターゲットは弱いが、彼が選ばれたようだ。
「俺の腕ではあんたに全く敵わない。だがな、俺より上は大勢いる。あんたでも勝てねぇよ。」
「さぁ、どうかな。」
「チッ!」
馬に風魔法をかけているので、飛ぶように速い。それもヤールは驚いていたが、ちょっと時間が無いので仕方がない。
組織のアジトは、街中にあり、善良そうな顔をして、武器屋を営んでいる。
こんな店を出入り業者にするって、油断し過ぎだろ?
中に入ると、ヤールは赤毛の男に、目で合図をした。途端に店の中の男達の雰囲気が殺伐とする。入ってきた扉に鍵をかける音がした。
するりとヤールが俺の傍から離れる。
「多勢に無勢だ。あんたの負けだな。死んでもらおうか。」
「ヤール、まずはその言葉遣いから直しましょう。」
「ふん。まだ強気かよ。お前達、こいつを殺れ。」
男達が間合いを詰めてくる。
良いのか?ここ武器だらけだけど。
俺は素早く男達が動けない角度に、武器を投げつけた。その間、二秒位かな?
それから、徐ろに切れの良さそうな刀をゆっくりと抜く。
「どいつの首から切ればいい?」
「そこまでだ。」
奥から、別の男が現れた。手には、握り部分がついた筒状の物を持っている。見た事のない形状だな。
「それは?」
「見た目と違って、肝が据わってるな。」
「好奇心が強いんだ。」
「今から死ぬのに、知ってどうする?」
「気になるだろう?」
「ハハッ。」
「まあいい。死ぬ前に教えてやるよ。これは俺専用の武器だ。超圧縮した風魔法を高速で飛ばす。結界は効果がない。」
「ふうん。」
俺は店に入る前に、既に結界を自分の体に纏わせるように展開している。この世界ではどうか分からないが、前世では、結界は俺以外はドーム型にしか展開できなかった。俺の得意技だ。
「満足したろ?じゃあ、死ねや!」
男が握りについた小さな突起に指をかける。俺の結界に何かが吸収された気配が伝わってくる。
俺の魔法結界は、進化に進化を遂げ、俺の持っている魔法属性の魔法なら、どんな上位魔法でも吸収できるようになった。
持っていないのは闇属性だけ。だから、魔王との戦いには苦労した。あいつは闇属性だったから、張っても張っても結界を破られて、何度死にかけたことか。
勝利を確信した男の間抜け面って面白いな。
「な、なんで。」
「さあ、なんででしょうね。あなた達の一番上の人に会わせて貰いましょうか?あぁ、逃がそうとしても無駄ですよ。あなたはその人を知っている。私はあなたから、無理矢理その人の情報を取り出しても良い。あなたは、その後、ちょっと使い物にならなくなってしまうかもしれません。先にお詫びを申し上げた方が良いでしょうか?」
「申し訳ないが、私の手のものをそれ以上、虐めないで頂けますか?」
空気筒男の後ろから出てきたのは、どこにでも居そうな平凡な男。しかし、その存在も、容貌も覚えられにくくする認識阻害の魔法を纏った男。ちょっと緩めの服は、体つきを隠すためだろう。
「失礼をした。私はマリア・クラウドお嬢様にお仕えするランスロットと申します。今日は、商談に参りました。」
「ほぉ、商談とおっしゃる。」
「はい。」
「良いでしょう。おい、奥にご案内しなさい。」
空気筒男が、素直に頭を下げて、俺を奥に案内する。
うん。結構良い、相手だったようだ。
奥の部屋のソファに案内されるまま腰を降ろすと、ドアの両側に空気筒男と、ヤールが控える。
正面の椅子にここの主が俺の全身を眺めながら、腰を降ろした。
「それで、商談とは?」
「今日から、この組織を俺の支配下に置きたい。」
「!」
既に俺からそれを言われていたヤールは落ち着いて居るが、空気筒男は、全身から殺気を迸らせた。
「これは、なんの冗談でしょうか?」
「本気ですが?」
「私共になんのメリットがありますか?」
「全滅しないのはメリットになりませんか?」
主の顔が僅かに強ばる。俺は主の右耳の下に星型の痣を見つけた。余り似ていないが、目元は似てるな。
「あなたの息子は私が育て上げて、一流にして差し上げる。それもメリットとして考えて頂きたい。」
「あなたが?育てる?」
「はい。ヤールと名乗っている、あなたのご子息。」
「! 目のいい方だ。」
「どうです?彼の実力はまだまだと言ったところ。私が育てれば一流になれるでしょう。それに支配下に置いたとしても、お嬢様に関する以外の部分では、あなた方の活動を阻害することはありません。元々ヤールを屋敷に置かれたあなただ。依頼も今すぐと言ったものではなかったのでしょう?」
「そうですね。」
「長期的にあそこにいれば、ご子息の実力を磨く機会を失う事になるのでは?」
「その懸念はありました。」
「どうでしょう?あなた方にデメリットはあまり無いはずです。」
「少し考えさせて頂いても?」
「いえ、この場でご返答を。」
「……わかりました。この商談、受けさせて頂きます。」
「ありがとうございます。良いお話ができました。」
「では、契約を。」
主が首を捻る。紙に証拠を残すのを不審に思っているのだろう。俺だって、そんな真似をする気は無い。どうやらこの世界には血の契約は無いらしい。
「血の契約です。契約を違えれば、ペナルティが自動発動します。」
「……怖い方だ。わかりました。」
「契約内容は、あなたの組織を私の支配下に置くこと。ただし、マリアお嬢様に関すること以外なら、あなた方の活動に対し、私は関与しない。あなたのご子息は私が立派に育てる。以上で良いですね。」
「そうです。」
「ペナルティですが、あなた方のペナルティは組織の崩壊。何を指しているか分かりますね?」
「組織全員の死か?」
「そう言う事です。」
「そちらは?」
「釣り合いをとって、私の死でいかがでしょうか?あなた達の実力では、私を葬ることはできませんから。悪い話では無いと思います。」
「わかった。」
俺は口の中で小さく呪文を唱える。俺と主の指先が小さく切れ、そこから血が、ゆっくりと立ち上がり、絡み合うとパチンと消えた。
「これで契約が締結されました。では、ヤールを連れて失礼します。」
「……あ、あぁ。」
まだ、少しぼんやりとする主をその場に残し、ヤールの腕を引いて、俺は店を出た。
もう少しでお嬢様の勉強時間が終わってしまう。
俺はヤールと馬に乗り、大急ぎで屋敷に向かった。




