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28.勇者は、神話を知る


ログマイヤ公爵の屋敷には、旦那様とヤールが待っていた。

どうやら、公爵を守ったのはヤールだったらしい。

公爵が旦那様に凄腕の護衛がいて羨ましいと、感謝されていた。


フードを目深に被って馬車に乗ると、俺は旦那様に断って転移で屋敷に戻った。

俺を追ってきた奴は、ヤールが片付けてくれるだろう。



自分の部屋で、いつもの執事服を身につけ、ネクタイをしめると気分が引き締まる。ここが俺の居場所なのだと実感する。



戻られた旦那様を出迎え、一緒にお嬢様の元へ行った。


「マリア、全て終わったよ。」

「お父様。では、もう。」


お嬢様の涙が浮かんだ瞳が俺を見つめる。俺は大きく頷いた。

泣き笑いのような表情を浮かべたお嬢様。きっとものすごく心配をおかけしたのだろう。


「お帰りなさい。ランスロット。」

「ただいま戻りました。お嬢様。」




暫くして、犯罪に荷担した者たちの処遇が決定した。

公爵は家財没収の上、死罪。側室は、嘆きの塔に死ぬまで幽閉される事になった。

第三王子は、母と祖父の罪は自分のせいだと、継承権放棄を望み、受諾された。その他にも毒を手に入れた者や毒を盛ったもの、王太子に斬りかかった騎士達等、数多くの罪人が裁かれた。



そして、季節が移り、お嬢様は学園の最終学年になった。


学園内も、親が処罰され、学園を去ったものも少なくない。いつの間にか空いた机が目立つ。


「学園も寂しくなったな。」


いつもの王子、コーディ、お嬢様のお茶時間。


「そうだね。卒業後はどうするの?コーディはやはり騎士団に入って、父上の後を継ぐのか?」

「そうしたいと思っていますよ。殿下は?」

「私は予備だからね、自由にはできないよ。ただ、何か事業でも始めてみようかと思っている。」

「事業ですか?」

「うん。商団を立ち上げて、取引の無い国とも取引をしたいと思っているんだ。」

「面白そうですわね。」

「兄上がね。北の国の人を想って、時々切なそうにされていてね。それで、その国の物を手に入れられれば気が紛れるのではと思ってね。まぁ、先日婚約者も決まったから、結婚されれば、気持ちも落ち着かれるだろう。」

「そう、ですか。」


やめてくれ。顔が引き攣りそうになる。


「マリア嬢は?クラウド侯爵の後継は決まったのか?」

「まだです。でも、そうですね。私は私の大切なもの達と領地を守っていければ、それで良いです。」

「遠くの国に行ってみたくはありませんか?」

「それは……少し魅力的ではありますが。」


お嬢様は広い世界に出て行きたいのだろうか?

最近、地図をご覧になって、色々考え込んでいらっしゃる。お嬢様が行きたいならば、俺はどこまでもお供する。



そして、夏が過ぎ、秋になり、冬を迎えた。

新年の鐘の音を聞きながら、この王都屋敷での暮らしもあと少しだなと思う。

あの騒動以降は何も起きなくて、平和な毎日だった。


お嬢様の部屋に暖かいお茶を届ければ、珍しく絵本をご覧になっていた。


「お嬢様、絵本ですか?」

「ええ、図書室で、昔読んだ本を見つけて、懐かしくなって見ていたの。」

「どんなお話なんですか?」

「神話の時代の勇者の物語よ。」


勇者?この世界にも勇者がいたのか?そう言えば神話のようなものには、ランスロットも興味がなかったから、知識に無いな。


「ずっとずっと昔、まだ、神様も魔王も身近だった頃、一人の農民出身の勇者が、神様に命じられて、世界を守るために魔王を倒しに行くの。彼は農民出身だったから、勇者なのに誰にも助けて貰えなくて、それでも一人魔王に立ち向かって、倒すのよ。」


これは、俺の話か?


「魔王を倒した勇者は、人々に絶望し、一人姿を消すの。魔王を倒したのだから、もう農民出身と蔑むものもいなかったでしょうにね。彼は何に絶望したのでしょうね。」

「物語は、勇者が姿を消して、それで終わりですか?」

「いいえ。勇者が去った後、天変地異が起き、全土を天災が襲ったの。そして、人々は散り散りに逃げ、各地に小さい集落を作って暮らし始め、いつしか国へと育って行った。天災は神が大切に思った勇者の絶望に嘆いたものだった。だから、人々はもう一度、一から暮らし直したと言う物語なの。」


そうか、俺が居なくなった後、そんな事があったんだな。


「それは歴史ではないのですか?」

「どうかしら?本当に勇者がいて、一人で魔王に立ち向かわなければならなかったとしたら、勇者はとても孤独だったでしょうね。魔王はとても強かったでしょうし、きっと辛いことがいっぱいあったんだわ。子どもの頃ね、この物語を読むと、可哀想な勇者を思って、涙が止まらなかったの。私が助けてあげたいと思っていたわ。」


俺の事を思って泣いてくれる人がいた。


確かにあの戦いは苦しかった。何度も死にかけては治癒し、また戦って死にかける。その戦いの中で、腕が上がり、強くなって、俺は魔王を倒した。

次元の異なる魔王城は、生きて出る為には魔王を倒すしかなかった。死体で出るか、倒して出るか。

俺の前のパーティは全て死体となって放り出された。

なぜ、魔王を倒さなければ行けなかったかも分からないまま、戦って、多くのものが死んだ。


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