27.勇者は、寵愛を受ける
それからの日々のことは、俺の記憶から削除したい。
いや、真面目に働いたんだよ。でもなぁ、王太子にとてもとても、とっても大切にされた日々は、俺はちょっと辛かったって言うか……うん。
王太子が紳士で良かったとは思うけどね。
さあ、では振り返ってみよう。
変身をした俺は、意識は俺だが、喋り方や身のこなしなどはその外観にかなり影響を受ける。特に外観にモデルがいる場合は、めちゃくちゃ影響されてしまう。
だから、何が言いたいかと言えば、俺の今の笑い方や、相手の手の甲に指をはわせるのとかは、態とやっているわけでは無いと言いたいのだ。
この外観にはモデルがいるが、あいつは詐欺師だった。俺もコロッと騙された口だ。男を誑かす天才だった。
でも、見た目は聖女だったんだよなぁ。ちくしょう!
王宮に着くと俺は王太子と公爵が送り込んでいる男と、三人で簡単な打ち合わせをした。
食事に毒があれば、俺は髪飾りか、指輪を触る。
毒は王太子が口に入れる前に、俺が浄化する。簡単だ。
さて、ここからは、スーラの物語である。
「スーラ、君にはこの部屋を与えよう。」
「殿下、私ごときにこのような部屋は過分でございます。」
俯き、少し震えるスーラの肩を王太子は優しく抱いた。
「できれば、私の隣室を与えたかったんだよ。」
「そんな!」
王太子の手をスルりとかわし、少し身を離す。
「ゆっくり休んで。落ち着いたら、私に詩を読んで聞かせて欲しい。」
「はい。殿下。」
王太子を見送ったスーラは、窓を開けて、バルコニーに出た。風に靡く髪をそっと抑えながら、不自然にならないように、辺りの景色を眺める振りをしつつ、自分を監視するもの達を伺った。監視は四人。侍女の中に一人、従僕の中に二人。
荷物を解いて、部屋を出、教えられた王太子の部屋に向かう。
部屋の外で警護する騎士に王太子に詩の朗読をと言えば、上から下までジロジロと眺め回され、暫く待たされた。
部屋に戻ろうかと思った時に、部屋の扉が開き、王太子自らが、出迎えに来て、スーラの手を取り、部屋の中へ入れてくれた。
「すまなかった、スーラ。きちんと話をしておいたから、次からこのような扱いはさせないから。」
「平気です。騎士様達の対応は当然だと思います。」
「優しいね。さぁ、こちらへおいで。」
手を引かれるままに、ソファに腰を下ろし、隣に座る王太子に腰を抱かれながら、持ってきた小さな詩集を開き、朗読を始める。
目の前には美味しそうなクッキーと、お茶。スーラは、そっと王太子から貰った髪留めに手をのばす。
「髪留め、気に入ってくれたんだね。」
「はい。」
「では、お礼が欲しいな。」
「私のようなものが、殿下に差し上げられるものがございますか?」
「そのクッキー、私に食べさせて。」
スーラは真っ赤になって目を伏せる。そっと見上げれば、彼女を見つめる優しい目。恥ずかしながら、指先で摘み、王太子の口元に差し出せば、
「うん。美味しい。」
と、王太子の笑みが深くなる。
くぅぅ。王太子が甘々過ぎて、辛いです。
とりあえず、かなり密着時間があるので、すぐに変化が感じられない程度にちょこちょこと治癒をする。
毒を持っている奴は、さりげなく服に触って示しているので、見張りを強化できているようだ。
毒の効果が出ない事に少し、焦りが出始めたらしい。
前と同じ毒を使えば、本人に耐性がつくって事も分からないのかねえ。まあ、飲ませて無いけど。
王宮に来て、はや一週間。
王太子の体はすっかり本調子。多分、以前よりも元気だろうと思う。治癒をかけていることは本人には内緒にしているので、俺が来てから、気持ちが安らぎ、元気になったと思っているようだ。
毒殺犯も確定でき、証拠集めも順調だった。
犯人は思った通り、第三王子の後ろ盾となっている公爵だった。側室も関与していて、第三王子がお気の毒だ。
陛下には既にログマイヤ公爵から報告が行っているらしい。俺の役目もここまでだろう。
側室と公爵が逮捕されたら、王宮を辞す予定だ。
そして、遂に!
その日の昼下がり、側室が騎士を従えて、王太子の元にやって来た。毎日、その時間には、庭で詩の朗読を聞いて頂きながら、王太子に膝枕をして寛いでいる。
「お留まり下さい!殿下は休憩中です!!」
王太子の護衛騎士の押しとどめる声と共に、剣をふるう音が響く。瞬時に立ち上がった殿下は剣を構え、俺をその背に庇った。
「何事だ!」
頬を引き攣らせ、鬼のような顔の側室は、元が美人だっただけに、壮絶に怖い。
「お前が助からなければ良かったのよ!」
「ナンシー様、これはなんの真似です?!」
「お前が素知らぬ顔をし、その女に溺れている振りをしながら、私と、父上を破滅させようとしている事を知らないとでも思っているの?」
「反逆を起こすつもりですか。」
「違うわ。本来ある形に戻すだけ。お前を殺し、王子を王とするの。」
「陛下も手にかけるつもりなのか!」
「お前とログマイヤさえ倒せば、陛下も私の言うことを聞いて下さるわ。」
「愚かな!」
「死の手前まで行きながら、生き延びたお前が悪いのよ。死になさい!」
王太子の護衛は、既に半数以上が倒されている。騎士団に応援を呼びに行ったようだが、無事に着いたとしても、この場に騎士団画来るまでには時間がかかる。
魔法で一発で倒して良いかな?いや、不味いか……
側室側の騎士が距離を詰めてくる。
背中越しに王太子の声が聞こえた。
「すまない。スーラ、命に変えても最後までお前を守るから。」
「ご安心下さい。私が王太子をお守りしますわ。」
俺は、振り返る王子に微笑んで、王子の前に立った。
「寵愛を受けるだけの女の割には良い覚悟よな。それに免じ、お前から殺してやろう。」
俺に剣を振りかぶってきた騎士を簡単に素手で倒すと、その剣を頂いた。その手並みを見て、側室の顔が引き攣る。
「お前は……」
「ええ、その通りです。私は王太子殿下の護衛です。」
剣を構えると、軽く地面を蹴る。体がふわりと浮き上がるように動いたと思えば、その足元に5人の騎士が倒れ伏した。
クルリと舞えば、更に7人。残りは、8人。
騎士は散開して、俺を取り囲んでくる。ありがとう、手間が省けた。
側室をじっと見つめたまま立っていれば、騎士が一斉に俺に斬りかかってきた。その剣が俺に触れる前に彼らは俺の一撃を受けて倒れていた。
多分、なぜ倒されたかも分からないまま。
俺は剣を振りながら、その風で誤魔化しながら、風魔法を飛ばした。倒れた方は届かないと思った剣が何故か届いたように感じただろう。
側室以外を全て倒した頃に、騎士団がやってきて、側室達は捕縛されて行った。
「スーラ、ありがとう。私は、お前を守ろうと思っていたのに、守られてしまったね。」
「王太子殿下、ご無事で何よりでございます。私のお役目はここまで。これで、王宮から失礼させて頂きます。ちょうど迎えが来たようです。」
ログマイヤ公爵が近づいてくるのが目に入った。どうやら公爵もご無事だったようだ。
「王太子殿下、ご無事で安堵致しました。」
「スーラに守られた。」
「左様でしたか。では、スーラ、私と共に、王宮を失礼しよう。」
「はい。王太子殿下、お元気で。」
「また、会えるだろうか?」
「いいえ。これでお別れでございます。」
「そうか。短い間だったが、そなたには世話になった。感謝する。」
俺は王太子に一礼し、公爵と王宮を後にした。
お嬢様、やっと、やっと!あなたの元に戻ります!!!




