26.勇者は、王宮に行く
俺は頭がすっぽり隠れるようなフード付きケープを身に纏い、旦那様と馬車に乗った。行き先は、ログマイヤ公爵家。
「マリアには、何と言われた?」
「妹にしたいと言われました。」
「うむ。」
ログマイヤ公爵家には、既に先触れがされていたのか、それとも既に約束があったのか、俺達はすぐに公爵の元に案内された。
「よく来てくれた。クラウド侯爵。」
頭を下げる旦那様の後ろで、俺は慎ましやかに頭を下げた。
「先程、カレルから伝えられた内容に間違いはないのだな?」
「はい。」
「王太子を殺めようとするなど、決して許される事ではない。」
「左様でございます。」
「それで、後ろに連れてきた娘が、毒の専門家なのか?」
「はい。いかなる毒も見抜く事ができます。」
「それは凄い。身元を調べたいが、それはかなわんと言うことだったな。」
「はい。」
「わかった。それで、名は?」
「スーラと申します。」
「それで、私はその娘を王妃の侍女に加えれば良いのか?」
「それでは、王太子殿下の傍で、毒を警戒する事ができません。」
「では、どうする。」
「本日は、王妃様と王太子殿下が、この屋敷に挨拶に来られると伺いました。」
「よく知っておるな。その通りだ。まだ王太子は本調子では無いが、私を安心させたいとお顔をみせて下さるのだ。」
「その際、この娘に茶を運ばせて下さい。王太子のお目に叶うと存じます。」
「なんだと?娘、フードを外せ。」
旦那様が俺のフードを外し、背中を押して、一歩前に進めた。
「これは!」
「いかがでしょうか?」
「まさに、殿下の夢の女性だな。」
そうなの?雑誌とはまるで違うけども、俺の想像は正しかったと言うことか?
「だが、このような儚げな娘。すぐにも命を落としてしまいそうではないか。」
「大丈夫です。この娘はこのような姿ではありますが、短剣術の名手です。自分の身を守ることはできるでしょう。」
あ、俺、短剣術の名手になった。うん、得意だから良いけどね、旦那様、相談はして欲しかったかも。
「あいわかった。王太子にひき会わせるとしよう。」
「お願いします。スーラ、頼んだぞ。」
「はい。」
「おお、声まで麗しいな。侯爵は応接にて暫く待ってくれ。まもなくお二人がつかれる頃だ。」
「はい。閣下。」
俺は、執事に連れられて、行った小部屋で、この屋敷の侍女服に着替えた。暫く待っていると、また執事が現れ、俺にお茶と菓子の乗った盆を渡し、俺を連れて、庭の四阿に向かった。
四阿には、治療の時に見た王太子様と泣き叫んでいた王妃様が、にこやかに談笑していた。
俺は、この人達の笑顔が見れて、良かったと、思った。
丁寧に頭を下げてから、俺は着席する三人にそれぞれお茶を運んだ。
お茶を運ぶ侍女になど、誰も意識しないだろうと思ったが、王太子殿下、すっと俺の顔に目を向けた。
多分日頃から、警戒する習慣があって、運んできた侍女を確認するようにしているのだろう。
俺を認めた王太子殿下の目が俺に釘付けになる。
「いつからこの屋敷に?」
「殿下、どうかされましたか?何か侍女が粗相を致しましたでしょうか。」
「いや、そういうことではない。ただ、初めて見る侍女だと思っただけだ。」
「そうですか。最近は毒の心配もしなければなりませんのでな、専門家を雇い入れました。」
「専門家ですって、お父様、何かあったのですか?」
「いや、偶然、知り合いに紹介を受けてな。万が一にと、雇い入れたのだ。」
「公爵、まさか、この娘が専門家だと言うのか?」
「その通りです。よろしければ、王太子のお傍で仕えさせましょう。」
「いや、私は。」
王太子様、顔が赤いですよ。
「娘、お前は詩の朗読は得意か?」
「はい。」
王妃が俺の声を聞いて、目を細める。
「殿下、よろしければ、まだ体調も戻られませんし、お健やかになられるまでの間、この娘に詩の朗読などさせてはいかがでしょうか?お心が休まるのではございませんか?」
「そ、それはそうかもしれないが。王宮の者たちの目が。」
「母である、私からの頼みとして傍に置いていると周りのものにも伝えますので、ご心配にはおよびません。娘、この国以外の国の言葉も話せるか?」
「はい。周辺国の言葉であれば、一通り。」
「良かろう。では、そなたは北のワッシャー王国より参った事とする。あの国では、そなたのような髪色を多く見るようだからな。」
「はい。王妃様。」
「お父様、良い土産をありがとうございます。スーラ、殿下によく仕えてくださいね。」
「はい。心を込めてお仕えさせて頂きます。」
俺は執事に服を着替えされられ、王妃達と共に馬車に乗った。
ワッシャー王国、この国とあまり国交は無いが、ログマイヤ家とは繋がりがあったはず。
俺は王太子と共に王宮へと、入っていった。




