25.勇者は、女装する
俺はとりあえず、治癒魔法は病気と怪我、体の再生までできること。結界魔法と転移魔法は得意で、思いつくままに機能追加できること。物体は欠片でもあれば、復元魔法で元に戻せること。浄化魔法で、何でも浄化できることを話した。
一生懸命に説明しているのに、旦那様とお嬢様の顔色が悪くなっていく。
「ま、待て!ランスロット。」
「はい?でもまだご説明ができていませんが。」
「まだ?……も、もう良い。そ、そうだな、今後は必要に応じて聞くことにしよう。」
「??」
頭をこてんと傾けてしまった。これだけで良いの?俺、攻撃魔法もめちゃくちゃ得意なんだけど。
魔王倒したぐらいだから。
「これ以上は聞くのが怖いわ!だが、日頃はそんなに魔法を使っているように見えなかったが?」
「それは、皆様に見慣れない魔法を使っているのが知られたら、国に監禁されると聞き、お嬢様と離れたくなかったので、できるだけ魔法は使わずに暮らして参りました。」
「そうか。そうだな。しかし、……お前を監禁するのは可能なのか?」
「お嬢様に危害が加わると思えば、反抗はしません。」
「監禁されている間に、マリアに危害が及びそうになれば、どうだ?」
「それはもちろん、お嬢様を助けに参ります。」
「監禁は?」
「何か問題がありますか?」
「いや、良い。」
旦那様は大きく息を吐くと、お嬢様の手を取った。
「頑張れよ、マリア。」
「は、はい。」
ん?何?何を頑張るの?二人は納得し合って頷いてるけど、俺は置いてきぼりなんですけど。わからん。
「それで、話を戻そう。王太子殿下の件だ。治療は終わっているのか?王太子はまだ病み上がりなので、少し具合は悪そうだが、お元気そうらしいが。」
「いえ、ランスロットが言うにはまだ完治していないそうです。ただ、問題があります。王太子の病状は毒の中毒です。」
「なんだと!では、また毒が盛られる可能性があると言うことか。」
「はい。でも、これ以上関わることは、ランスロットの事を知られる事になってしまいます。私は、この件から手を引く決心を致しました。」
「それはならん、マリア。王太子はこの国の次なる要。王太子を失えば、この国も崩壊するかもしれん。」
「でも、お父様。」
「聞きなさい。我々はこの国の貴族。国と王族を守るのが務めだ。」
「それは……分かっているのです。」
「毒の事もあるとすれば、王太子の近くにランスロットを仕えさせなければならん。だが、既に王太子には多くの従僕が仕えている。さて、どうするか。」
旦那様が考え込みながら、俺の方を向く。
「先程の変身能力で、猫のような小動物にも変われるか?」
「いえ、人間だけです。」
「子どもにも、年寄りにもか?」
「はい。」
「女性にも?」
「……はい。」
なぜ女性?
「その……体も変えられるのか?顔や体だけでなく?」
そ、それは、あれ、息子の、事だよな?
「ええ、まあ。」
「そうか。」
気まずい。めちゃくちゃ気まずい!
「お父様、嫌です!」
「マリア。」
「私は、私のランスロットに誰であろうと触れさせたくはございません。」
「だが、王太子の近くに侍るには、それしかないと分かるだろう?」
「でも、嫌です!」
「マリア!」
「嫌です……お父様。」
「これしかないのだ。」
なんか、嫌な予感しかしない。
「ランスロット、服を着替えなさい。私と共にログマイヤ公爵のところに行く。マリア、服はお前が用意してやりなさい。」
「はい。お父様。」
「支度が整ったら、わしの部屋に連れてくるように。」
旦那様が部屋を出られた後、お嬢様が立ち上がった。
天井裏や外の気配は旦那様と一緒に動いて行った。
「ランスロット、お父様が何を命じていらっしゃるかわかった?」
「あ、いえ。」
「お父様は、ランスロットに女性の姿となって王太子の傍に近づけと仰っているの。」
「……女性、ですか?」
「そう。従僕も、毒味も、医師も、急には増やせない。無理をすれば、こちらが何かを掴んでいることが相手方に伝わってしまう。そうすれば、次はどんな手を使ってくるか分からない。」
「はい。私は、お嬢様の為なら、何でも致します。どうか、私に命じて下さい。」
「わかりました。ランスロット、王太子の体を治し、そして、この事態を収めてきなさい。」
「はい。お嬢様。」
その後、お嬢様監修の元、俺は王太子理想の女性へと姿を変えた。
「なぜ、王太子の理想をお嬢様がご存知なのですか?」
「王族は人気があるので、良く、雑誌にインタビュー記事が掲載されているの。一年前の記事で、王太子の理想の女性が載って凄く話題になったのよ。」
そうなの?でも、これが理想?確かに貴族には居ないタイプだが……。凹凸の激しいわがままボディ、波打つ赤毛。
ええーっ、本当に?
「お嬢様、多分、これ、記事用の出鱈目ではないでしょうか?」
「そうなの?男性はこのような派手やかな女性を望むのではなくて?」
「遊びならそうかもしれませんが、私なら、最初から惹かれもしません。」
「あら。」
「王太子のように力のある方は、逆に、守ってあげたいような女性に惹かれると思いますが。」
「よく分からないわ。見せて。」
淡い柔らかくウエーブを描くブロンド、ほっそりして、抱きしめたら、壊れてしまいそうな体つき、透き通る肌に、小さな桜色の唇。吸い込まれそうな空色の瞳。
「これで、どうでしょうか?」
「凄い!庇護欲を掻き立てるってこう言うのを言うのね。ねぇ、笑ってみて。」
「はい。」
花が綻ぶように微笑みを浮かべた。
「ランスロット、可愛い。私の妹にしたい!」
「え、ええっ、お嬢様。」
今の見た目はお嬢様と同じぐらい。いきなりお嬢様に抱きしめられて、俺は真っ赤になってしまった。
「いいわ。これでいきましょう。でもね、ランスロット、嫌な目に合いそうになったら、絶対に逃げるのよ。それは約束してね!」
「はい。」
そして、俺は、旦那様と共に、ログマイヤ公爵家に向かった。




