24.勇者は、打ち明ける
旦那様の後ろで、お嬢様は困惑した表情を浮かべている。
「ランスロット、具合はどうだ?」
「旦那様。……すみません、こんな姿で。」
「構わん。」
「もう、殆ど良くなっているのです。」
「そうか。」
居た堪れない。なんだろう?もしかして、こんな寝込んでいる執事は要らないって言われるんだろうか。
旦那様はもう1つ椅子を持ってくると、それに座り、お嬢様にも椅子に座るように促した。
「マリアも聞きなさい。」
「はい。お父様。」
旦那様から、威圧感を感じる。
「今日、ログマイヤ公爵の屋敷に招かれた。」
お嬢様が、弾かれたように顔をあげる。
ログマイヤ公爵は、王妃の実家。
「マリア、お前が第二王子派として、彼を後押ししていると聞いた。」
「お父様、それは。」
「先日も王宮にランスロットをモンゴール公爵令息と行かせたらしいな。マリア、ランスロットに何をさせた?」
「そ、それは……。」
旦那様は、全てご存知なのだろうか?
「マリア、私に隠し事も、嘘偽りもしてはならん。どうなんだ?答えなさい。」
お嬢様は旦那様をしっかりと見つめて返答をした。
「王太子殿下のお体を治療させて頂きました。」
「やはりそうか。わしもランスロットが治癒の力を持っているのは気付いておった。まさか、あれ程とは思わなかったがな。」
「ご存知だったのですか?」
「そうだ。お前が、土砂崩れに巻き込まれそうになったと、ランスロットと二人だけで帰ってきた事があっただろう?」
俺の魂が、ランスロットに入った、あの時の事だ。
「わしは、部下に命じて、あの時の馭者を探した。馭者は馬車が土砂に押し潰され、お前とランスロットが土に埋もれるのを確認したと言った。」
旦那様は、ずっとご存知だったんだ。もしかして、俺が、ランスロットに成り代わったのまで?
「しかし、馭者の話とは食い違い、馬車は壊れておらず、お前とランスロットは土汚れもなく、屋敷に戻った。」
お嬢様が俺の顔を見つめてきた。そうか、お嬢様も、あの時、何事も無かったと言った俺の言葉にずっと違和感を覚えていらっしゃったんだ。
俺は俯いて、シーツを掴む自分の手を見た。
もう、ここには居られないんだな。
ごめん。ランスロット。お前と俺の願いは……。
「お父様。」
「ランスロット、わしはお前が子どもの頃から知っている。いつもマリアの為に一生懸命だった。お前が別人になったと感じはしたが、お前のマリアに対する忠誠心は変わらなかったので、わしはそのままお前にマリアを守らせたのだ。」
「旦那様。私は……。」
「これからもお前の一生をかけて、マリアを守れ。」
許された?俺はお嬢様と一緒にいても良いのか?これからもお仕えできるのか?
「だが、わしは全てを把握しておかねばならん。ランスロットの能力の全てをだ。そして、ランスロットが何者なのかもな。」
「旦那様。」
「マリアは、全てを知っているのか?」
「いいえ、お父様。いつか時が来たら、ランスロットから話してくれると思っています。」
お嬢様!!!
「さぁ、どうする?ランスロット。マリアと二人で話したいか?だが、マリアにはお前が何を話したか、わしに報告させるぞ。」
内緒にはさせないって事だよな。旦那様はそんなに甘い人じゃないのは、よく知ってる。
「お二人に聞いて頂きます。」
俺は、実は二人が入ってきた時から、部屋に防音結界を張っている。二人の様子が気になって、何となくなんだけど。
「では、部屋を移動しようか。ここでは、声が漏れる可能性がある。」
「大丈夫です。既に防音結界は張りました。」
「ほお。わかった。ここで話を聞こう。」
俺の防音結界は、音を変換する機能もついている。
今までの会話は、俺の体調を慮る会話や学園生活のあれこれに自動変換されている。
天井裏や壁の外に張り付いている奴らは、それを延々と聞かされているだけだ。俺の寝室には窓がないので、中は見えないからな。
あ、今、ちっと舌打ちしたな、バカヤロー!
帰れ!
「どこからお話するのが良いのか……ランスロットは、あの事故の時、お嬢様をお守りして命を落としました。」
お嬢様が口を手で抑えて、小さな悲鳴を飲み込んだ。
「私の魂は、そのランスロットの体に入り込み、ランスロットとしてこの数年、生きてきました。ランスロットの願いは、お嬢様の幸せだけ。私の願いもそうです。」
「そうだな。それで、お前は何者なのだ?」
「多分、こことは違う世界に生きていたと思います。俺はそこでの暮らしが耐えられなくて、自分の全魔力を使って、転生魔法を発動しました。」
「そんな魔法が使えるのか!お前は魔法士だったと言うことか?」
「いえ、魔法士であり、剣士であったものです。」
「剣士?確かにお前は剣が使えるが……この世界に来てから、本気で剣を使った事はあるか?」
「ございません。」
「……そうか。マリア、お前はどうやら、この世界一の守護者を得ているようだ。」
「お父様。」
「さて、ランスロット。お前の能力を聞かせてもらおうか。」
どうしよう。俺も忘れているものがあるんだけど、覚えているのだけでも、多くてなぁ。
「旦那様、よく使うものだけ、掻い摘んでもいいでしょうか?」
「そんなに多いのか?」
「多分?」
旦那様の顔が厳しくなった。
「マリアは把握しているのか?」
「いいえお父様。昨日も初めて知る能力を見せて貰いました。」
「どんな能力だ?」
「変身能力です。」
「!」
「ランスロットは有能過ぎて、全てを把握するのは無理だと思います。そう言えば、ランスロット。お前、どうやって毒を検知しているの?先日は匂いに反応すると誤魔化したけど。」
「毒検知?できるのか?」
「はい。毒のあるものを目にすると、毒が目に見える毒鑑定というスキルを持っています。」
旦那様が目を大きく開いて俺を見る。
旦那様の目が、こんなに真ん丸に開くなんて、初めて知った。




