23.勇者は、項垂れる
発光が収まると、そこにはだぶついたスーツを身に纏うヤールがたっていた。
「凄い!」
「この能力を使って、ランスロットの存在を隠す事ができるのではないでしょうか。」
「ねぇ、ランスロット。もしかして、女性にもなれるのかしら?」
「はい。もしお嬢様に影武者が必要になりましたら、私がそのお役目を果たさせて頂きます。」
「ランスロットにそんな役目を果たして貰わなくて良いように、私は努力するわね。でも、女性は良いかもしれないわね。んん。でも、ランスロットに貞操の危機が……。」
「??」
「でも、それなら、誰も疑わないし……。」
「……」
「近くに寄るのも、……。」
「……」
「ああ!でも、ランスロットに他人が触れるのは……。」
どうされたのだろう?お嬢様、大丈夫ですか?
「とにかく、一旦元に戻って。少し考えさせて欲しいの。」
「はい。」
俺は静かに部屋を出て、自分の部屋に戻った。
後は、お嬢様にお任せしよう。年々賢くなられるお嬢様ならば、最も良い考えを示して下さるだろうから。
まだ、体調が回復していなかったんだろう。部屋に戻った俺はそのまま食事もとらずに眠ってしまった。
翌朝、お嬢様が部屋に来られるまで。
ドアの開く音で、俺は目を覚ました。
「ランスロット、気分はどう?朝食は食べられそう?」
寝起きでボーッとしながら、俺は頷いた。
エンマが食事を置いて出ていくと、お嬢様はベッド脇に置かれた椅子に腰をおろし、俺の額に手を置く。
覚めた!めっちゃ覚めた!
「す、すみません、お嬢様。大丈夫です。」
「まだ、起きては駄目よ。命令です。」
「……はい。」
お嬢様に朝食の盆を渡され、俺は食事を食べた。
お嬢様は話がある様子で、じっと俺が食べる様子をご覧になっている。食べ終わると、お嬢様が盆をテーブルに運んで下さった。
「お嬢様、ありがとうございます。」
「いいの。ねぇ、ランスロット、私、もう、王家のゴタゴタから身を引こうと思っているの。だから、お前も、もう、協力しなくていいわ。」
「お嬢様?」
「王太子殿下の病気も、王家の医師に任せましょう。毒の事だって、王家の調査部が調べるわ。私達学生が口出しする必要は無いと思うの。」
「よろしいのですか?」
俺にすれば、諸手を挙げて賛成したいが、いいのだろうか?
これで王家の争いが収まれば、お嬢様の成果として、侯爵になる可能性が高くなるんじゃないだろうか?
「ランスロットは、私の侯爵後継を気にしているのでしょ?だから、無理をしてくれていたのよね。でも、お前に言っておかなければと思っていたけど、私は侯爵を継ぎたいとは思っていないの。お前達と共に、子爵領にでも行って、のんびり暮らしたいと思っているわ。」
「……お嬢様。」
「王家の問題も、今なら私達の関与を疑われる事はないわ。ね、だから、もうお前は、何もしなくていいの。」
俺はお嬢様の言葉に、ただ、黙って頷いた。
お嬢様は、俺の為に侯爵の道を諦めようとしている。
嬉しいけど、でも、……のんびりした暮らしは楽だろう。でも、その時、俺の存在価値はあるのだろうか。
子爵領は狭い。カレル一人居れば、俺の仕事など何もないだろう。
お嬢様にお仕えする事だけが、俺の人生唯一の望みなのに。
微笑んで、部屋を出ていくお嬢様の背を、俺は泣きたい気持ちで見送った。
王子達との話し合いの時、俺が何でもすると言えば良かったのか?
寝込むような無様な真似をしなければ、お嬢様に不安を与えずに済んだのだろうか?
もう、過去は取り戻せない。
俺はベッドの上で、両手で顔を覆った。
起き上がる気にもなれず、俺はそのまま布団から出られなかった。
その日の夕方、屋敷が突然慌ただしくなった。
現在、アレン様とマチルダ様は学園を卒業し、領地に戻っている。旦那様は王太子が病みつかれてからは、派閥争いを避けるためか、ほとんど領地から出てこられなくなった。
その旦那様が、先触れもなく、王都屋敷に現れたのだ。大騒ぎになっても仕方がないだろう。
俺も起きて手伝わなければと思ったのだが、お嬢様からストップがかかり、結局ベッドの住人になっている。
灯りも点さずぼんやりしていると、ノックの音がする。
「はい。」
エンマかな?と思った俺は、ぼんやりしながら返事をした。
今頃、お嬢様は旦那様とどのような話をされているのだろう。
学業の話だろうか、それとも、そろそろお年頃のお嬢様の未来の伴侶の話か?
お傍で、話を伺う事ができないのが寂しい。
開いたドアの向こうに立っていたのは、旦那様とお嬢様だった。




