21.勇者は、治癒魔法を使う
王宮では、予想外の出来事が起きていた。
王太子が危篤状態に陥ったのだ。急がないと。王太子の息のあるうちに治癒魔法をかけないと間に合わない。
俺と、コーディ様は、途中まで出迎えに来てくれていたイアンと共に、早足で第二王子の部屋に向かった。
走れないのが、こんなにもじれったいと感じたのは初めてかもしれない。
第二王子は既に王太子の元に行っていて、部屋には居なかった。俺が魔法を使うのを見られないのはありがたい。
早速、探知魔法で、人が多く集まっている場所を探すと、直ぐに見つかった。
だが、当初は王子の協力の元、人払いしてもらった王太子の部屋に転移して治療するつもりだったが、それが使えない。
どう考えても、あの方法しかない。
「イアン、暫く意識が無くなるので、私の体を頼む。」
「ランスロット、すまない。君の体は必ず私が守る。」
「頼む。モンゴール様、何がおきても他言無用でお願いします。」
「わかっている。頼んだよ。ランスロット。」
「はい。」
俺がしようと思う方法は、体から意識を飛ばし、人から見えない状態で王太子の部屋の中に移転し、治癒魔法を行うというものだ。
口にすると、結構簡単そうなんだが、意識を飛ばすのは移転魔法の応用で、体を動かさない、完了しない転移魔法だ。その為、治癒の間、ずっと移転魔法も使い続ける事になる。
もちろん、危篤状態にある患者の治癒には、多大な魔力を使う。そんな状態で転移魔法を使うのは、他の人間なら、自殺行為だ。
正直、俺も、魔力切れの可能性は大きい。
しかし、これ以外に方法は無い。
俺はソファに横になり、二人に合図した。
フワッとした浮遊感と共に、目の前の景色が変わる。大きな部屋の中、王妃がベッドの枕元で泣き叫びながら、王太子の手を握りしめていた。その王妃を後ろから抱きしめる王。
第二王子と第三王子は、その一歩後ろに立っている。
医者と助手は既に諦めていて、王太子の足元の辺りに並んで立っていた。
王太子の状態を見るが、相当酷い状態だ。そして、俺は気付いてしまった。王太子がたとえ元気になっても、この国の後継者争いは終わらない事を。
王太子は蓄積型の毒による中毒だった。
ただ、この毒はタチが悪い。内蔵を徐々に壊死させ、患者を死に至らしめる。
助けるには壊死仕掛けている全ての内蔵を再生させなければならない。それも、慎重に。
魔力が持つだろうかと言う気持ちが、脳裏を掠めた。
だが、俺には弱気は似合わない。俺は魔王を倒した勇者だ。出来ないことは無い。頑張れ、俺!
まず、呼吸確保のため、心臓の壊死部分を再生させる。半分以上が壊死している。次に肺。片肺が完全に潰れていた。
王太子の呼吸がこれだけで落ち着き始めた。
「あ、ああ、王太子、王太子が……。」
王妃の期待に満ちた声が聞こえる。
まだ、これだけでは、また、危篤状態に戻る可能性がある。
胃や、腎臓、肝臓には、かなりの毒が残っている。
再生させながら、毒を中和させていく。大腸、小腸等、次々に再生させるにつれて、王太子の顔色や呼吸が改善していくが、俺の本体は多分かなりやばい状態のはずだ。
完治には至らないが、もう戻らないと、体が持たない。
慌てて戻り、体に意識を戻した途端に、俺は意識を失った。
目が覚めた時、俺の目に映ったのは、心配そうに瞳を揺らすお嬢様の顔だった。
俺は、王宮に行く際、様々な不安要素は想定していた。その中の最たるものが、魔力切れだ。これがおきれば、少なくても三日は目を覚まさない。
復活した王太子と同じ王宮内で、魔力切れで倒れている人間が居れば、誰だってその関連を疑うだろう。
だから、俺は治療を終えたら、王宮を出なければ行けないのだ。
しかし、人間一人、王子の部屋からこっそり連れ出すのは難しい。
そこで俺が考えたのは、俺の魔力切れがトリガーとなる自動発動の転移魔法だ。その移転魔法を発動させる為に、事前に体に魔法をかけておく事だった。
事前にかけておく魔法なので、その時には魔力を必要としない。
ただ、気絶している人間がいきなり消えるという、不思議現象が起きるので、見ている人は驚くに違いない。
それとも、他の人間の関与を疑うかだ。
屋敷の俺の部屋に転移するので、もしもの事を考えて、ヤールには、俺の部屋での待機を頼んだ。
お嬢様には、今回の俺の手柄を褒めて頂けたのだが、それ以上に叱られてしまった。
自分の体をもっと大切にしなさいと……。すみません。
目覚めた後、俺は王太子が毒の中毒だった事。症状が重く、完治までは治せていない事をお嬢様に報告した。
翌日、お嬢様は俺の代わりに、カレルを伴い、学園に向かった。
後で、カレルに聞いた所によると、王子とコーディ様は俺の姿が消えてしまい、お嬢様になんと謝罪したものか悩んでいたらしい。
ただ、王太子の復調には凄く感謝していたと言う。
結局、当事者の俺から詳細が聞きたいとの事で、その週末、彼らは俺達の屋敷に集合するのだった。




