20.勇者は、毒殺を防ぐ
お嬢様の学園生活も二年目になった。領地運営クラスに進んだお嬢様は、一年目と異なるメンバーと授業を受けるようになったが、一年目のメンバーとは、今も親しくされていて、よくサロンに集まり、お茶の時間を楽しんでいらっしゃる。
一見穏やかな毎日だが、少しづつきな臭いものが学園にも忍び込んでくる。
王太子が病魔に犯され、次期王位が不確定になったのだ。
当然、第二王子、第三王子の各陣営が忙しく動き回るようになった。
第三王子は現在、学園の一年生。
学園内にまで、派閥争いがある。第二王子派、第三王子派、そして、王太子の復調を信じる中立派。我が家の旦那様は中立派の筆頭。
その不穏な空気のせいか、最近では、教室以外の場所は護衛同行が認められた為、学園内は一層物々しい。
お嬢様が、第二王子にランチに誘われたのは、そんな時だった。メンバーは第二王子、コーディ・モンゴール公爵令息、そして、お嬢様。
そして、三人の前には、どう見てもいつもとは違う料理。
「申し訳無い。今は、王宮のものが作った料理しか口にしないようにしていて。」
王子が、言いにくそうに口ごもった。
それは別に構わないんだけどね。でもね。
「ヤール!」
俺は食事を運んできた男をヤールに拘束させた。
「な、何?」
突然の事で、王子と令息があわて、その護衛がヤールを逆に拘束しようとする。
「落ち着きましょう。」
お嬢様の静かな声で、全員の動きが止まった。
「ランスロット、毒なのね?」
「はい。」
拘束された男が必死にヤールを振り切って逃げようとする。
「私のランスロットは、とても鼻が良いのです。彼はどんな毒でも匂いで見つける事ができます。」
匂いじゃなくて、見た目ですが……。
「それは、確かなのですか?マリア様。」
「はい。私もランスロットには助けられていますから。」
「イアン、その男を調べ、誰に頼まれたのか吐かせろ。」
「はい。」
ヤールは王子の護衛に男を手渡して、戻ってきた。
「二人とも失礼した。料理を取りかえさせよう。」
新しい料理には、毒は無い。お嬢様に大丈夫の合図を送る。
食事が始まっても誰も何も話そうとしなかった。あの男の事が気にかかったのか、それとも、俺のスキルが気にかかったのか。多分両方だな。
「あー、ランスロットの毒を嗅ぐ能力とは、生まれつきなのか?」
「どうでしょうか。気がついた時には身についておりました。」
「魔法ではないのだな?」
「はい。」
空気が重い。
意を決したように、第二王子がお嬢様に体を向けて、じっと見た。
「マリア嬢も、昨今の状況はご存知だと思う。このままではいつか死人が出るのではと警戒している。王太子様がお元気にさえ、なられれば、沈静化する争いだが、王太子様の病状は一進一退。この状況を抑えるため、あなたの父上であるクラウド侯爵のお力を借りたい。」
王太子は王妃の唯一の子供で、他の二人の王子はそれぞれ別の側室の子供だ。元々王妃はこの国で、最も力の強い公爵家の娘だったので、彼が王太子になったのは問題がなかった。
しかし、第三王子の母である側室はその公爵家と仲のあまり良くない公爵の娘で、この機会とばかりに第三王子を押してきた。王妃の実家である公爵は、それを怒り、第二王子を押す事になった。コーディの父親のモンゴール公爵も第二王子派だ。
今、お嬢様達が食事をしているのは、特別ラウンジで、個室であり、他の人が入れないからこそ、こんな話をしようと思ったのだろう。
「王子殿下、父はどちらかに与するのを良しとはしないと思います。」
「わかっている。」
「それでも、お願いしたいのです!」
突然、部屋に入ってきた生徒に、全員の目が向く。最初からそういう話になっていたのだろう。王子と令息には、驚きの色はない。
入って来たのは、第三王子だった。
「私も、兄上も、この争いを望んでいません。まだ、王太子殿下が癒える可能性もあるのです。だから、それまで、この争いを抑えるために、お力をお貸しください。」
「お話はわかりました。」
お嬢様は部屋の中を見渡すと、護衛の退室を願った。
参加者は側近一名を残し、退室していく。
「マリア嬢、これで良いだろうか?」
「はい。」
「護衛を退けて、何を話されるおつもりですか?マリア様。」
「内緒の話です。」
「内緒?」
「はい。」
「この争いは、王太子殿下の病が治れば、解決するのでしょうか?それとも、更に複雑になるのでしょうか?」
「王太子殿下が治られれば、解決します。王陛下は王太子殿下を後継に決めておられますから。」
第二王子が、ハッキリと答えた。お嬢様と俺の目が合う。やっぱり、そういう事なんだろうなぁ。
「わかりました。では、ランスロットを一日だけお貸ししましょう。」
「どういう事ですか?王太子には毒の兆候があると言うことですか?!」
「違います。」
「良いのですか?お嬢様。」
「絶対にほかの者に知られないようにして、必ず私の元に戻っていらっしゃい。」
「はい。」
「王子殿下もお約束下さい。必ず私の元へランスロットを無事に戻してくださると。」
「よくわかりませんが、はい、お約束します。」
お嬢様のご命令、しかと承りました。
「第二王子殿下と王太子殿下の部屋はどれ程離れてらっしゃいますか?」
「距離か?」
「はい。廊下を歩くのではなく、直線距離でお願いします。」
「確かな数字は分からないが、階が違うのだが、およそ80メートル程だろうか。」
「わかりました。王子殿下、私を王宮の殿下の部屋にご招待頂けませんか?」
イアンとラグレスはどうやら悟ったらしい。混乱する第二王子を一緒に説得してくれた。
3日後、俺は初めての王宮に、コーディ公爵令息と共に踏み込んだ。




