19.勇者は、友情を見守る
翌日、クラス全員が揃う時間を見計らって、制服を着せたタチアナを連れたお嬢様が部屋に入ると、ざわめきが広がった。
それはそうだろう。
タチアナとリーシアは本当に瓜二つだから。
そうそう、タチアナに着せた制服は、イアンがどこからか調達してくれたものだ。既に彼は学園にもすり代わりの件を報告してくれているのだろう。
「皆さんにご紹介します。彼女こそ、私達のクラスメイトになる筈であった、タチアナさんです。」
「クラウド様、では、彼女の席に着いている方は、どなたなのですか?」
「タチアナさんの双子の姉妹のリーシアさんです。」
また、驚きの声が、漣のように広がる。
ラグレスが仕える、モンゴール公爵嫡男が、頷きながら、一歩前に出て、
「では、本来、学園に通う権利のある者が、その席に座るべきだ。ラグレス。」
意を汲んだラグレスがリーシアの手を取って立たせようとする。
「違います!その女がリーシアです。マリアさんは間違ってます!」
お嬢様を名前呼びの上に、さん付け!!巫山戯てるのか?この馬鹿女。
「リーシア、駄目です!クラウド様をお名前で呼ぶなんて!許されないわ!!」
タチアナが悲鳴のように叫ぶが、リーシアは不貞腐れるだけだ。
「この学園は身分差別をしない場所なんです。そんな事も知らない、お前こそ、リーシアで間違いないわ!」
「リーシア!」
イアンがニコニコと笑いながら、紙を持ってきた。
「簡単な方法があります。これは、去年の入学試験から抜粋した問題です。特待生になった程の優秀なタチアナさんなら、苦もなく解けるでしょう。我々の目の前で問題を解いて頂きましょう。」
「では、私の席をタチアナさんにお貸ししますわ。」
お嬢様が、自分の席を指さして、タチアナに頷いた。
「ありがとうございます。」
タチアナはイアンから紙を受け取ると、持っていた鞄から、ペンを取り出した。
偽物タチアナであるリーシアは顔を青ざめさせて固まっている。当然だ。あの女に解ける問題では無いだろう。
沈黙の中、タチアナが走らせるペンの音だけが、聞こえる。
「解けました。」
「拝見しましょう。うん。間違いありません。」
一斉にリーシアに全員の注目が集まる。誰かが言葉を発する前に、学園の警備がリーシアを連れて部屋を出て行った。
リーシアは、試験をどうやって誤魔化すつもりだったんだろう。何も考えてなかったか、それまでに男を捕まえるつもりだったのだろう。それにしては王子は高望みすぎたな。
ラグレスがタチアナの手を取って、彼女の席に案内する。
第二王子の拍手に全員の拍手が重なり、タチアナは涙を流しながら、頭を下げ続けた。
お嬢様は、自ら、タチアナの遅れた勉強の相手を名乗り出て、毎日二人で授業後、図書館で過ごすようになった。
タチアナは優しい性格で、お嬢様は、彼女に身分の差を超えた友情を感じているようだ。
二人でいる姿は、とても親しげで、時折混ざる笑い声に、お嬢様の楽しげな様子が伝わってくる。
「ランスロット、今回の件は、助かった。」
「イアン。」
「まさか、そっくりな双子が入れ替わっていたとは思わなかったよ。第二王子がそろそろ限界のようだったので、学園に申し出て彼女を退学にしようとしたところだった。」
「お嬢様が気にされていてね。特待生にしては態度がおかしいと。」
「そうだね。ただ、我々は平民なら、あんなものかと言う気持ちがあったからね。」
「タチアナは大丈夫。きちんと立場を弁えて、一線を画す事ができる人だから。」
「そう思う。」
勉強熱心なタチアナは、あっという間に勉強についていけるようになった。それでも、二人の図書館での勉強会は続いている。この勉強には俺も参加して、協力しているのは言うまでもない。
初めての試験の結果が、この二人の勉強の成果を示すことになった。
学年一位は、お嬢様。二位がタチアナ。
少しづつ、お嬢様と、タチアナに近づく生徒が増えていく。
図書館での勉強会にも参加する者が現れた。モンゴール様だ。
「失礼します。私も、学びの席に加えて頂いてもよろしいですか?」
「もちろんです。モンゴール様。」
「ありがとうございます。クラウド様。」
「マリアで、良いですわ。タチアナさんにもそのように呼んで貰っています。」
「では、私の事もコーディと。」
「はい。コーディ様。」
コーディ・モンゴール様は武の家門らしく、武術は一通り得意とされている。だが、座学の成績も悪くなく、先日の試験の結果は七位。
俺と、ラグレスは、それぞれの主の後ろに立って、勉強の様子を見ている。時折、二人にも質問があるので、答えているが、そのうち、俺達の出番は無くなりそうだと思う。
でも、俺の出番はラグレスとは違う場所にある。
手芸だ。
お嬢様は学園の部活に手芸部を選ばれた。現在、俺はその部の、非正規指導者の立場にある。
俺の刺繍やレース編みを見た学園の教授にお嬢様を通して、依頼があったのだ。
授業はさすがにできないが、部活指導をとの事。
お陰で、俺は一躍学園で知らない者がなくなってしまった。
静かに三年間を魔法を使わずに過ごす予定だったのに。うっかり見られでもしたら、速攻監禁ルートだ。
大丈夫だろうか、俺。




