18.勇者は、魔法を我慢する
俺が魔法を使わないように自制するようになって数日。
お嬢様にお休みの挨拶をして、部屋を下がる際に、ヤールにコソッと声をかけられた。
「ちょっと話がしたい。」
俺は承諾の頷きをして、静かに部屋を後にする。
ヤールは窓からの侵入にも警戒する為、寝室の外の部屋で寝ずの番を勤めている。
すっかり屋敷内が寝静まるのを待って、俺はヤールの元を訪れた。
話を聞かれたくないので、お馴染みの謎空間に入る。
「ヤール、どうした?」
「なあ、ランスロットさん、学園で何かあったか?」
「いや、特にないけど?」
「でも、最近、魔法を使わないだろう?」
「前からそんなに使ってなかったと思うけど?」
「使ってたよ。自覚無かったのか?」
「あ、ああ。」
「それで?何があった?」
バレバレだな。て事はお嬢様にも、また心配かけてるって事か。
「俺の魔法は、監禁レベルだと言われて、少し使うのを控えようかと思ったんだ。」
「もしかして、自覚無かったわけ?」
「ヤール、お前、思ってたんなら、教えてくれよ。」
「自覚ないなんて思わないだろ?」
「……気にして無かった。」
「あ、そう。」
ヤールも腕を組んで、唸っている。
「この謎空間も、そうだって、わかってるか?」
「これもダメ?」
「あんた、駄目だわ。やっぱり魔法を使うな。」
「やっぱり?」
区別出来ないものは仕方が無いか。お嬢様が学園で過ごす三年間。俺が魔法を使いたくなる事態が怒らないことを祈ろう。
お嬢様の日常は、問題無く過ぎていく。
伯爵以上の令嬢、令息は、元々顔見知りのようで、お互い馴れ馴れしくは無いものの、初めての緊張感はないようだ。
問題は、特待生。
このクラスに居ると言うことは、成績優秀みたいなんだが、このクラス最上位の王子に接近したいようで、無謀な努力を繰り返している。
第二王子のアンドレア様は、側近のイアンから聞いている通り、勉強熱心で慎重な性格のようだ。
特待生のタチアナが王子に態とぶつかろうとすると、さり気なく体をかわして、接触を防ぐし、目の前で態と転がってもイアンに声を掛けさせて近づかない。
もちろん、タチアナも、アンドレア王子が助け起こしてくれるまで、床に突っ伏しているのだが、イアンが声をかけて起きないと見ると、王子は無視して立ち去るようにしている。
タチアナは、誰もいない所で、一人転がっているのを見かねた、優しい生徒が近づくのを待っているようだが、誰も近づくわけが無い。
最近は、転がる努力もやめたようだ。
態とハンカチをアンドレア王子の前に落とすのだが、王子は気が付かないふりをして、スルーする。
話すきっかけが手に入らないので、ついには直接行動に出るようになった。
「アンドレア様。」
いや、駄目だろ。名前呼び。入学前に教育されたんじゃ無かったのか?
「私ぃ、さっきの授業で、ここがぁ、分からなかったんですけど、アンドレア様ぁ、教えて貰えませんかぁ?」
こいつ、馬鹿だ。
俺は確信した。その内容は、さっきの授業じゃない。先週の授業だ。
イアンは王子と彼女の間に立って、彼女が王子の視界に入ろうとするのを阻んでいる。
それなのに、彼女は、イアンに抱きつくようにして、彼の体を動かして、王子を視界に収めようと足掻いているのだ。
結局、無駄な努力で諦めることになったようだが。
ここまで来れば、立派な危険分子。
こんな学生が特待生になれたとは思えない。
俺はヤールの父親に連絡を入れた。
依頼内容は、特待生についての詳細。学園に入れる程の子どもなら平民の間でも噂になっていたはずだ。
あのお馬鹿さんが、特待生になれる成績を取れるとは、俺には到底思えない。
どこかにカラクリがあるに違いない。
彼らは優秀だった。
結論は、あの女はニセモノだと言うこと。
あの女には双子の妹がいる。タチアナがその妹の名前だ。
あの女はリーシア。脳みそを全て妹に取られた絞りカスだ。
妹のタチアナが試験に受かったことを知ったリーシアは、父親と共謀して、入れ替わる事にした。
上手く貴族をたらしこめば、贅沢放題だと思ったようだ。
父親はタチアナを部屋に監禁した。元々、あの女と気の合う父親だ。賢いタチアナとは気が合わなかったんだろう。
俺は、お嬢様に調べた事を報告する事にした。
「ランスロット、調べてくれてありがとう。私も何とかしなければと思って、頼むつもりだったわ。さすがね。」
「とんでもございません。」
「本当のタチアナを連れて来て下さい。身なりを整え、明日、二人を対決させましょう。」
「はい。お嬢様。」
ヤールに頼んで、タチアナをあの家から連れ出し、寮のお嬢様の部屋に案内した。双子だけあって、二人は本当に良く似ている。
部屋ではエンマが、彼女を身綺麗にすべく万事準備を整えて待っていた。入浴と食事をさせると、タチアナは疲れていたようで、とても眠そうだ。それでも、何がおきようとしているかは知りたいようで、必死に瞼が閉じるのを堪えている。
「タチアナさん、私はマリア・クラウド。クラウド侯爵家の次女です。」
驚いて、平伏しようとするタチアナを手で制し、話を続けるお嬢様。
「今、学園にはあなたの双子の妹さんが居て、第二王子に対し、不敬な態度をとっています。」
「すみません。」
「あなたは謝らなくても良いのですよ。父親に監禁されていた事は知っています。あなたには、あの学園で勉強をする権利があるのです。明日、私と共に学園に行き、あなたの居場所を取り戻しましょう。」
「!」
「今日は、もうお休みなさい。」
ベッドは寝ずの番をするヤールのベッドを借りる事になった。
ベッドに入ると直ぐに、寝息が聞こえる。
俺はイアンと、ラグレスに伝言板を飛ばした。彼らには明日協力して貰いたい。偽物には退場して貰おう!




