13.勇者は、王都に行く
パーティーの翌日、俺はまたアーリア夫人に呼び出された。
「ランスロット、昨日はよくやってくれました。マチルダも満足していたわ。それで、これは褒美よ。好きな物を買うといいわ。」
俺は奥様から、ズッシリとした重みのある袋を受け取った。
確かめるまでもない。金だ。
「奥様、ありがとうございます。」
「良いのよ。もう下がりなさい。」
俺は頭を下げて、部屋を出る。
いつからだろう。奥様と他の子ども達との関係は随分と穏やかなものに変わった。最初に思ったほど、嫌な奴等でもない。
まだ、ギクシャクした部分はあるが、今はそんなに嫌いでもなくなった。最近では、お嬢様と他の家族で、食事も一緒にとるようになった。
とはいえ、子ども達は、学園に通っているので、普段はいない。週末や、長期休暇の時に居るぐらいだ。
屋敷の人間達もそうだ。今はみんな良くしてくれる。
お嬢様も、良く笑うようになられた。部屋も綺麗になり、侍女達との語らいも楽しげだ。
夫人にしてみれば、お嬢様と自分の子どもは家を継ぐ事に関しては、競争相手だろう。でも蹴落とそうとすれば、かえってあの長男みたいな事にもなる。
誰にも話していないのに、旦那様はお嬢様をあの長男が襲った事もご存知で、あの処罰の理由はそれもあったと、お嬢様に伝えられたそうだ。
家の醜聞になるから公言はできないが、すまなかったと、無事で良かったと仰ったそうだ。
間もなく、お嬢様も学園に通われるようになる。
入学したら、他の子ども達と同じで、寮暮しが始まる。
俺と、エンマ、ヤールが着いていくことになっている。王族も通う学園なので、使用人を連れていくのは当然の事らしい。
カレルは屋敷に残り、お嬢様の指示を受けながら、お嬢様の業績アップの実務を行う。2才の差は大きいからな。
やれる事はやっておきたいが、お嬢様に侯爵家を継がせたいかと言えば、今は良く分からない。家族関係が良くなってきた今は、家を継がなくても、お嬢様は無事に生きていくことができると思う。
だから、今は、ただ選択肢を残すためだけだ。
最近では、家庭教師より数段腕が良くなった、刺繍は、俺から習うようになったお嬢様に、新たな刺繍の技術を教えながら、つらつらとそんな事を考えていたら、ちょっとぼぉっとしてしまったようだ。
「ランスロット、どうしたの?疲れた?」
以前倒れてから、お嬢様は俺がまた倒れるのではないかと、気にかけてくださっている。
「すみません。間もなく王都に向かうので、そちらに気が行ってしまっておりました。」
「そうね。学園ではお友達ができるかしら。」
「お嬢様なら大丈夫ですよ。」
「そうなら良いわね。お友達とお喋りしたり、遊んだり、私の憧れなのよ。」
お嬢様はこの屋敷から出ることは無い。他所の家では子どもの頃、遊び相手を招いたりする事もあるが、お嬢様にはそんな経験もなかった。
同い年の友達は、お嬢様にとって新鮮なものだろう。
「楽しみでございますね。」
「とっても。」
「さあ、今刺しているところが終わりましたら、お茶に致しましょう。今日はマナーの先生が夕方にお越しになられます。それまで少しお寛ぎ下さい。」
「そうね。もう少しで刺し終わるから、終わったらお茶を用意して。今日は、少し甘いお茶が良いわ。」
「はい。お嬢様。」
暫くお嬢様の手元を見ながら、お教えした後、俺はお茶をいれに下がった。
少し甘いお茶。桃の香りのお茶にしようか。
そんな日々はあっという間に過ぎ去り、お嬢様が王都に出発する日になった。
この屋敷は王都から、馬車で約四時間と、割と近いところにある。
ただ、馬車はお嬢様にとって、嫌な記憶のあるものだろう。馬車に乗る際、少し指先が震えているのに気がついた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。心配しないで。」
気丈に前を向くお嬢様に、随分と成長されたと、胸が熱くなる。
「出立。」
馬車は予定通り、王都に着いた。
途中、天気も良かったので、お嬢様も車窓の景色を存分に楽しまれているようだ。どうやら馬車に対する恐怖感も消えたようで、一安心する。
何かあっても、この馬車に被害が及ぶ前に、俺が結界を張って守るけどな。
護衛のヤールも、少しづつ魔法を使えるようになってきた。
あいつの魔法属性は土と水。水の治癒魔法は俺の光の治癒魔法と違って、効果は低いが、怪我を治すには十分だろう。
傷を負って、動けなくなることが無いのは、護衛としての強みだ。強い敵にも向かっていける安心感に繋がる。
土魔法は防御力上昇に役に立つ。
そう考えれば、あいつは根っからの戦闘員なのかもしれないな。
王都の屋敷に着いた俺達は、ちょっぴり屋敷の使用人よりもレベルの低い使用人達に迎えられた。
ううん。また一から教育か。めんどくさい。




